5.革命軍と蜘蛛の糸

 ここからは、この土地を故郷に持つ俺、エンジゾル・コミー・クリムゾンが話そう。


 その虫の名はタランチューノ・Q型。

 しましまの文様を持つ八足の節足動物。その見た目から気味悪がっている人が多いのは知っている。

 俺は昔から変わった虫を集めるのが趣味だった。

 その虫は糸をお尻から吐き出す。

 その糸は、束ねれば束ねるほどに強くなる。人と同じように。

 みんな気味悪がっているが手を出さなければ噛みつかない。餌付けをすればなついてもくれる。

 その節足動物の糸から服を作るように教皇様から進言された。

 この土地の節足動物から吐き出される糸は蚕の繭よりも丈夫で効率的に糸を手に入れられる。

 教皇様は加工する道具一式も用意してくれた。革命軍の人からは人材も。


 教皇様のおっしゃられるとおりだった。

 まさか、教皇様が、辺境の領の昆虫一つに精通しているとは。

 …勝てない…。

 しかし、この虫は、子供の頃から当たり前のように隣りにあった。

 若者が出ていったのはこの昆虫を気味悪がってという噂さえある。


 糸を売ったりその糸で服を作るようになってからはや数カ月後。

 糸を売っていることが出ていっていた若者にも知れ渡ってから、親と暮らしたいと願う人がこの集落に戻ってきた。

 あるものは暴力を受けている婚約相手との結婚を解消し。

 あるものはあくせくと働くことを要求されるバカチン市国の街から逃れるように。

 またあるものは、疫病が広まったという噂を怖がり、隣家が遠くにできるこの村へ。


 人が増えるようになってから、国への税金は、一般貴族よりも多くを献上している。同時に革命軍にも寄付をしている。

 おかげで生活は前と同じくカツカツだ。でも、これだけ故郷で充実した生活を送ることが出来ているんだ。革命軍と教皇様には足を向けて寝られない。


 それだけでは足らない、と、教皇さんが、とある法律を作った。墾田永年私財法。

 耕した分だけ自分の土地になるという法律。

「農民を土地に縛り付けるにはそれが一番だ」と教皇様は言っていた。

 不器用な俺でもわかる。教皇様もまた不器用なんだ、って。


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 所変わって、ここは、革命軍の拠点。ボクたちはさっきまでエンジゾルさんの手伝いをしていた。その場所から戻ってきたところだ。

「はぁ~。遠かった」

 ガタッ。

 革命軍の拠点の懐かしの木で作られた椅子にボクは横たわっていた。

 天井を仰ぎ見るようにぼーっとしていた。

「ボクは一体、何ができるんだろう…?前の戦闘では逃げ回っているだけだった……」

 体を板を打ち付けただけのベッドに横たえた。

「ボク、疲れたんだ。なんだかとても眠いんだ…………」

 ボクは、眠りへといざなわれた。


 夢を見た。ただひたすらに迷路を彷徨う。

 うぅ……おかあさん……。どこにいるの…………?

 暗闇を、壁をつたいながら、ただひたすらに彷徨い続けた。

 ぼんやりとした白い霧の中、壁にぶつかりながら。


 すると突然、霧の中、すべての床が足から

 う、うわぁぁぁぁぁ!!助けて、お母さんっ!!


「うっ、はぁ、はぁ……」

 嫌な目を開けた。

「……夢……」

 ボクの頭を撫でる柔らかい手の感触があった。

「お目覚めになられましたか?大声を出されていましたが」

 オーギャストさんが、膝枕をして、ボクの頭を支えてくれている。

「お疲れになったでしょう。もう少し休まれてももいいのですよ?」

「そうはいっても、これだとオーギャストさんが寝られないよ」

 うろたえながら、オーぎゃストさんに問いかけた。

「いいえ。ワールドさんは頑張ったのです。もう少し、お休みになられてください」

「……うん。ありがとう……。変なこと、言ってもいいかな……?」

「どうぞ」

「今だけ、お母さん、って呼んで良い?」

「えぇ。あなた達を常に見守る。それが、前にしていた約束じゃないですか」

 ……前にしていた約束っていわれてもボクにはわからない。

 だけども、これだけはわかる。その先にボクへの膝枕があるってことを。

 その膝に甘えるようにボクは右手を添え眠りについた……。

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