第十三話
朝学校に来てから、ずいぶんとそわそわとしていた。それは斜め前の席の
実際、彼女はいつもより少し遅れて登校してきた。
とはいえ、遅刻してきたというわけではなく、調理室の許可を取りに行っていたらしい。
「オキクン!」
にっかりと笑顔を浮かべ、碧衣はこちらへ近づいてきた。
今日はずいぶんと時間の流れが早かったように思う。もう放課後で、俺は碧衣に合わせ、荷物を鞄の中へしまいながら席を立つ。
「何? 部活あるんじゃねえの」
「お? うん、あるんだけどね。オキクンは、四時まで図書室?」
「……ん、あぁ。図書室が一番北階段に近い場所だからな」
そう言うと碧衣はおちゃらけたように敬礼をして、「じゃ、また後で~」と教室から騒がしく出て行ってしまった。美津さんも準備のためかすでに教室から姿を消していて、俺も誰かに囲まれる前にと、そそくさと教室から出ることにした。
今日はやはり四月初めの授業ということで、五限目までと早めに終わったため、まだ時間は一時間以上あった。特に課題が渡されたわけでもなく、図書室に行っても暇を持て余しそうな気がする。すると、ちょうど自分の数メートル先にひょろりと青いメッシュがちらついた。
「ん、隠岐くん。幽霊の件に関しては、順調ですか~?」
のんびりとした口調をやけにひそめて言うもので、俺は眉を寄せた。二条はそれを楽しむように俺を見て、「ほな」と生徒会室のある方向へ歩いて行った。含みを持たせたあの口調にやや疑問を抱えながら、俺も二条を振り向かないように図書室へまっすぐ進む。
図書室は二年生の教室があるフロアにあって、北階段のそばにある。
教室や特別教室の類とは違って、ややレトロな
「何か出そうな感じなんだよな……」
決してそれに恐怖を抱くわけでもなく、ただ、美津さんのいつもの喫茶店で出会ったような不思議な何かが出そうなのだ。
――実際、この学校は建ってから結構な年数が経っているみたいだし。
改築は繰り返されていようと、その雰囲気はぬぐえていなかった。
俺は、人ひとりいない図書室の隅の本棚に目をやり、本を取り出す。興味はないが、暇つぶし程度にはなるだろうか。そう思いつつ、木製のモダンな机とセットの椅子に腰をおろした。
「……もう、時間か」
読書に
俺は本を閉じて、元の場所へ戻しておく。それから、そろそろ碧衣も顔を出す頃だろうと、図書室から出た。廊下はもう放課後で、部活をしている生徒の声と、帰宅する生徒たちの声がまばらに聞こえた。しかし、図書室前はやはり誰もいないだけあって静かで、少しだけ落ち着いた。
「んお、オキクン、廊下で待っててくれたの?」
パタパタと、部活からそのまま来ましたというようなジャージ姿の碧衣が駆けてくる。肌には汗がにじんで、前髪はゴムで結んでいる。碧衣は童顔らしいのか、前髪をあげているだけで五歳児のように見える。
「あ、さっきみーたんに会ったんだけど、準備はもうできてるからって」
「わかった。あとは、レイラさんと会えるか、か……」
俺のつぶやきに碧衣は自らを仰ぎながら、「そうだね」と相槌を打った。
そもそも、美津さんはなぜレイラさんの出現する時間と場所を特定できたのだろうか。土曜日に今日の「十六時に来た階段付近で遭遇できると思う」と言われたときも不思議に思ったことだが、美津さんは特に普通の会話として話していた。
「……あら? 貴方がた、今日もいらしたのですね」
すると、ちょうど十六時を迎えたころ、少しポカンとしながら俺たちに話しかけてきたレイラさんがいた。今日は青いロリータ服に身を包み、格式高い貴族を思わせる雰囲気があった。
「なんですの? 淑女をじろじろ見るなんて、失礼じゃなくって」
本当に時間通りに現れたことに驚き、レイラさんを凝視していた俺と碧衣に
「じゃあ、
「あ、ちょっと待って!」
話し出さない俺たちを見て、何もないのかと感じたのだろうか。彼女は、少し眉を
すると、レイラさんは怪訝そうな表情をして、「なんですの」と振り返った。その表情は何かに急いでいるように見えた。
「えっと、レイラさんに来てもらいたい場所があるんです」
「……
「あぁ、レイラさんが探していたものを渡せるかもしれないんです」
きょとんとしたレイラさんは、俺の言葉にハッとした。
それから、俺の腕につかみかかり「本当ですの⁉」と問い詰めるような剣幕になった。俺と碧衣は嘘ではないと、何度もうなずいた。
「本当ですの⁉」
「うん、だから、調理室までついてきてくれないかな?」
碧衣がそんなレイラをなだめるためか、やや落ち着いた口調で言った。
すると、レイラさんは俺から手を離し、「わかりましたわ」と複雑な表情で頷いた。
俺はとりあえず、調理室まで無事に行けるのだと
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