第七話

 放課後。ホームルームも終わり、新入生以外はほとんど部活に行っている時間だ。転校してきたばかりの俺も、新入生や部活に所属していない生徒と同様暇を持て余していた。ちなみに、美津さんは家庭科部、碧衣はバスケットボール部をしながら様々な部活の助っ人に行っているらしい。ちなみに部活に所属していなくても、桜川先輩は生徒会が主な活動らしい。

 俺は特に部活動に興味がないので、図書室で暇をつぶすことになった。


「そもそも、バスケ部はいつ終わるんだ……?」


 首を傾げ、チャットで聞こうと考えたが、なるべく部活動の邪魔はしたくはない。とにかく、図書室までゆっくりしていこうと考えると、背の高い人に話しかけられる。


「君、新入生かな? バスケには興味ないか?」


 手には手作り感あふれるビラが握られている。他にも話しかけてくる人がいるということは、この時期は部活勧誘の時期なのだろう。実際、ついこの間が入学式だったのだから、合点がいく。

 俺は「いえ……」と首を振り、図書館まで急ぎ足になるもどうしても囲まれてしまう。なぜかと考えてみるも、特に大した理由が思いつくことはなく、この三年生やら部長を務める人たちは人が欲しいのだろうという結論に達した。部活動はどこの学校も最大五人いなければ部活として成立せず、同好会でさえも最大三人の名義は必要なのだ。

 ぶつぶつと考えていると、廊下にできていた人の波が急に廊下の端に寄った。

 ざっと、波が引くような勢いはモーゼの十戒の一説を表しているようだった。すると、その奥から五、六人程度が歩いてきた。ずいぶんとキラキラしたオーラをき散らし、主に女子の視線を浴びている。


「あら、左京くん。一昨日ぶりねぇ?」


 その中には光源のように輝いている金髪の先輩もいた。


「桜川先輩。……生徒会の、人たちと一緒ですか……もしかして」


 ヒョコヒョコと桜川先輩の背中から覗き込む人たち。桜川先輩と同じように、派手ではなくても周りの生徒たちとはかけ離れた雰囲気の人たちがいた。すると、「正解」と言わんばかりに桜川先輩は頷いた。

 

「そうよぉ、やけにごてごてしたメンバーだけが集まるのよねぇ」

「ははは、でも、俺たちはほかの奴らより出来るもん?」


 悩ましそうに頬に手を当て、しゃなりとした雰囲気を醸し出す桜川先輩にその中の茶髪の人が言った。

 耳には数え切れないくらいのピアスがはめられていて、碧衣とはいい勝負になりそうだ。実際、見た目のうるささは碧衣が勝っているところだが。他にも真面目そうな黒髪の美青年や、一年生なのか背の小さい人、ゆるりとした青いメッシュを入れた垂れ目の人がいた。共通しているのは、その五人がやけに輝いていることだ。


「ちょっと、ミカちゃん、そーゆーこと言っちゃあだめよぉ」

「ま、美嘉みかかて、悪気はないですから」


 青いメッシュの人が茶番のような会話に混じってくる。

 もう図書室に行ってもいいだろうか。完全に存在を忘れ去られえているであろう俺は集まる視線と、その生徒会の人たちの威圧感から逃れようと、そうっと歩を進めようとする。

 だが、判断が遅かったのか、パシリと桜川先輩に手首をつかまれた。


「ダメよぉ? 一応話があってきたんだから」

「そうだぞ! 二年のお前に拒否権はない!」


 小さい人が僕に指をさして、フンッと鼻で笑った。どうやら、彼も先輩だったらしい。百六十センチにも満たなそうなものだが、侮ってはいけないようだ。


「おい、こいつ僕のことチビなのに顔してやがる!」


 ムキィーッと頬を膨らませ、俺にとびかかろうとしてくるが、その前に真面目そうな人に羽交い絞めにされてしまった。

 そんなこんなで、俺は生徒会に連行されてしまったのだ。

 生徒会室はやけに調度品にこだわっているのか、どこぞの応接間のような丁寧さと高貴さが詰め込まれている。もとからこうではなかっただろうから、この人たちが改造でも加えたのだろうか。

 

 ちなみに、金髪の人は俺が唯一知る先輩、桜川さくらかわけい、副会長だ。それからあの茶髪のピアスをたくさん身につけた人が生徒会長らしく、桜川先輩と同じ三年生の水崎みずさき美嘉みかという。それから、青いメッシュの人は書記で、二条にじょうやなぎといって俺と同じ二年生だとか。小さい人は会計を務めていて、まつりさかえ。唯一まともそうに見えた真面目そうな人は、議長の同じく二年生の月村つきむら夏樹なつきというらしい。


「ま、一通り自己紹介は終えたわね。じゃ、本題に入るわね」


 どうぞと、桜川先輩は水崎先輩に引導を渡した。


「了解。ふふん、隠岐左京!」

「え、あ、はい……?」

「お前、生徒会に入らないか⁉」


 ババンッと勢いよく机をたたき、前のめりにそう言う水崎先輩。唐突な提案に驚いて、俺は首を傾げた。


「会長、隠岐君、よぉ分かってはりませんけど。理由も、ご説明してしたらええんと

 ちゃいます?」


 青メッシュの二条がヘラりと笑いながらそう言う。彼はどうやら関西から引っ越してきたらしい、自己紹介のときにそう言っていた。すると、水崎先輩は「そうだな、名案だ」と言わんばかりに満面の笑みを浮かべ、俺に一枚の紙を見せつける。


「これが何かわかるか?」

「え、俺の編入テストの結果ですか?」


 突きつけられたのは、俺がこの学校に転校するときに行ったテストの結果用紙だ。他には転校に必要な情報も載せられている。


「お前、このテスト全教科オール九十五以上だったんだ。そんで、部活動での結果も

 十分優秀と来た。まぁ、どの学校にも長くいても一年らしいがな」


 見た目の派手さに比べて、正確に分析されている気分になる。実際、彼の述べていることは事実。勉強は前いた学校が進学校だったから、効率の良い勉強法も知っている。部活動は所属はしていなかったものの、助っ人として連れ出された大会ではそこそこの成績を収めていた。

 多分、俺は器用貧乏という類で、それ以上もそれ以下もないという感じなのだ。


「いや、俺はどこにも所属する気は……」

 

 いくら表面上の成績がいいからとはいえ、あまりどこにも所属する気はないのだ。


「あは、言うと思った。だから言ったじゃん、美嘉」


 祭先輩が水崎先輩をからかうように目を細め、「今回も完敗だね」と愉しそうに言った。すると、水崎先輩はむっと表情を曇らせた。


「そこまで言うなよ、栄ちゃーん! ったく、隠岐君は今日は帰って良し。引き留め

 てごめんね、暇になったらまた勧誘に行くからね」

「は、はぁ」


 うぉおんと泣き真似をする水崎先輩に送り出され、嵐のような状況から放り出された。時間はあの人たちとの雑談に相当使っていたらしく、すでに四時半を回っていた。 

 ピコリンと気味の良い着信音が鳴り、ポケットからスマートフォンを取り出した。通知には碧衣から「部活終わった! 南階段にしゅーごー☆」と書かれたメッセージが届いていた。俺はすぐさま「了解」と返し、南階段の方へ走った。

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