拾壱

遺体は仏壇の前に寝かせるのが一般的であるが、城島家にはそれがない。代わりにタンス上に置かれた和哉の写真立てを仏壇に見立てて、居間に寝かせることにしたのである。


和哉の遺体のそばに武雄と恵子は座り、久方ぶりの家族水入らずの時間である。


「久しぶり、ね」


「あぁ……」


会話が続かないのも無理はない。そうなってしまうくらいに月日が経ってしまっていたのだから。


「あのとき、言い過ぎたわ。ごめんなさい」


視線を落として謝罪する恵子に武雄が一瞬、目を丸くした。


「いや、おまえはの言ったことは間違ってないし、わたしだって強く当たってしまった」


「でも……」


「恵子、和哉の前だ、いまは和哉が戻ってきたことを喜ぼう。これで、墓にも仏壇にも手を合わせられるんだから……」


「えぇ、そうね」


この日、和哉が亡くなった日からはじめて、和哉がいた頃と同じような喧嘩のない穏やかな時間を過ごしたのだった。


その日の夜、和哉の遺体をはさんで、武雄と恵子は川の字になって眠った。


「………ん! ……母さん! 父さん母さん!」


武雄と恵子は、その懐かしい声に目を覚ました。


「和哉!」


「和哉なの⁉︎」


そこには和哉本人がいて、衝動的に三人で抱きしめ合う。和哉のあたたかな体温をふたりは感じ、胸がいっぱいになった。


「うん、父さんと母さんに心配ばかりかけてごめんなさい。あのとき、俺がしっかりしていれば、こんなことにならなかったのに……」


「もういいんだ。和哉はまた父さんたちに会いに来てくれただろ?」


「そうよ! また、会えて嬉しいわ……」


ふたりは涙で頬をぬらしながら和哉に笑いかけた。その顔を見て、和哉も涙を流しながら笑顔をつくった。


「俺、父さんと母さんが大好きだよ。だから、もう喧嘩しないで仲良くしてよ?」


武雄と恵子は目を丸くした後、互いに顔を見合わせて和哉に柔らかな笑みを向け、深くうなずいた。


「わかった」「わかったわ」


「じゃあ、約束ね」


和哉は小指を出し、武雄と恵子は和哉の小指に絡めた。


「あぁ」「えぇ」


「父さん、母さん、バイバーイ!」


こうして、和哉は武雄と恵子に別れを告げて、手を振りながら光の向こうへと走って行き、姿を消した。


「「和哉‼︎」」


目覚めてすぐにがばりと勢いよく起き上がり、夢であったことに、ふたりは気がつく。


「和哉に、会ったか?」


「えぇ……」


二人の視線が自然と和哉に落ちる。そして、武雄と恵子は顔を見合わせて二人は笑い合った。


「ずいぶんと時間がかかってしまったけれど……また、やり直せないかしら」


「てことは、またここに戻ってきてくれるのか⁉︎」


その言葉に武雄は嬉々とした表情を恵子に向ける。


「仕方がないわよ、だって和哉のお願いなんだもの」


恵子は武雄のその反応と表情に呆れながらも、悪戯っぽい笑みを向けて言った。


「また、必ず二人で暮らそう……いや、三人で、だな」


「えぇ……」


武雄と恵子は、穏やかな顔をしていた。二人は喧嘩することなく、また仲の良い夫婦に戻ることだろう。

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