第53話 報告
町を作り始めて数ヶ月、親方達も大分ノウハウを身につけアースの弟子と呼ぶに相応しい者達となった。
「大親方! ありがとうございました!」
「お、大親方?」
「はいっ、俺らにしたらアースさんが親方なので! この習った技術でこれからどんどんいい町を作っていきますよ!」
「うん、頑張ってな。ここからはコストとの戦いだ。いかに安く良いものをつくれるか、自分たちで試行錯誤を重ねていくと良いよ」
「「「「はいっ!!」」」」
こうして町は完成し、ライハに引き渡す事となった。町が完成した報告を受けたライハは急ぎ飛んできた。
「………………」
「どうしたの? 何か気に入らない点でも?」
ライハは町並みを見て絶句していた。
「……な、なんだこれはっ!? 俺の城がある首都より綺麗な町じゃないか!?」
「そりゃそうでしょ。技術が違うから。港町は国の看板だ。みすぼらしかったら他国に舐められるだろ?」
「そ、それはそうだがこれは……」
ライハは天高くそびえるマンションを見て呟いた。
「この塔を家にしたのか。なるほど、これなら狭い敷地でも大勢の民が住めるな」
「最上階はスイートだ。一階丸ごと所有者の階になる。これなら体裁を気にする貴族も文句はないでしょ?」
「ああ、だが……この高さを歩いて登るとなると……」
「歩かないよ?」
「は?」
アースはマンションの入り口にあるオートロックを解除し、ライハを中に案内する。
「各階にはこのエレベーターで行くんだよ。住人には自分の階にしか止まらない様に特殊な鍵を持たせる。他の階に行きたい時はその階の住人の案内が必要になるけど、これなら不要なトラブルも避けられるでしょ」
「つまり、最上階には貴族しか行けないって事か」
「貴族とマンションの管理者だね。マンションの管理者は全ての階に入れるマスターキーを渡す。この管理者はそちらで決めるといい。さ、最上階まで行こうか」
「あ、ああ」
アースはライハをエレベーターに乗せ最上階まで移動する。
「地上があんなに離れて……。速いな……!」
エレベーターは強化ガラス張りで外の景色が見えるようにした。
「良い景色でしょ? っと、着いたよ」
ものの数秒で最上階へと到着し、扉が開かれた。扉の先にはエントランスがあり、その扉を開くと部屋がある。ここでもライハは言葉を失っていた。
「ひ、広すぎる!? いや、待て! おかしいだろ!? 明らかに外観より広すぎる!」
「そこは空間を拡張してるからだよ。エントランスに空間を拡張する魔道具を設置してある。これで部屋数と敷地面積を自由に変えられるんだよ」
「空間拡張だと……? 伝説級の魔道具じゃないか……!」
「そうなの? 素材さえあれば作れるから気にしなくていいのに」
アースは兄達が集めてきた素材で新たに発明品を作っていた。それが伝説級だとは知りもしなかったが。
「……もう何を言われても驚かんぞ……。疲れた……」
「後は特に変わった物はないよ。水洗トイレとかキッチン、風呂に映像投影器付き通信機に、自動空調……」
アースは最上階のみかなり力を入れて作っていた。このくらい力を見せないと納得されないと思ったからではあるが、どうやらやり過ぎたらしい。
「城より快適じゃないか……。こんな環境を一貴族に与えられるかっ! むしろ俺が住みたいわ!?」
「……ならさ、他の王達を住まわせたら良いじゃん? 連合国なんでしょ? 住まわせる候補はいっぱいいるじゃないか」
「いいや、まずは俺が住む! すぐに引っ越し準備だ! 構わないよな?」
「まぁ良いけど。じゃあ引き渡しは完了でオッケー?」
「ああ。正式に同盟を結ぼう。そちらの条件は全て呑む。後で書面におこしてくれ」
「わかった。今さら破棄は認めないからな?」
「ああ、破棄などせんよ。これで狭い国でも大勢の民が暮らせると証明出来れば……争いは起きんだろう」
その後、アースはライハに町を案内し、様々な施設の説明をした。中でもライハが興味を示したものが競馬場だった。
「ギャンブルか、これは中毒性がありそうだな」
「年に数回開催するくらいなら大丈夫でしょ。普段は草レースで遊ぶ程度にして、年数回だけ大きなレースを開催するんだよ。馬は戦で使うためにあるんじゃない。戦がなくなったら働く場所をうしなっちゃうじゃないか。それを民に卸し、競走馬を育成させる仕事にすれば良い。馬も処分しなくても良くなるし、民も仕事が出来て良いことばかり。やらない手はないと思うけど?」
「……そうだな。これは話し合うとしよう」
こうしてライハは正式にデモン大陸と同盟を組む事にした。後日他の王も町を見て絶句し、自分もここに移りたいと希望したそうだ。
同盟の条件は全て呑まれ、ゴッデス大陸に他種族が暮らす事となった。まず人間は全て港町へと転居させ、首都を港町にする。そして元の首都には獣人達を呼び、本来あるべき形に戻した。
「アース殿っ! またこの地に戻れた事……獣人を代表して感謝申し上げますっ!」
「ははっ、ありがとうガラオン」
獣王ガラオンは故郷に戻れた事に涙を流し感謝していた。その場には人間代表としてライハ他連合国の王達も同席していた。
「ガラオン殿、どうか我々人間が全てグラディス帝国のような欲にまみれた国だと思わないでいただきたい。かつてこの地に獣人を追いやったのは我々人間だが……、どうかこれからは手を取り合って生きていこう」
「……まだ心から信用したわけではないぞ。信用するかしないかはこれからの行動次第だ。許す許さないは主らの行動で決まる事を覚えておけ」
「感謝する。では握手といこうか」
こうして獣人はゴッデス大陸へと戻り、この日人間と獣人が暮らす大陸として新たなゴッデス大陸が誕生したのであった。
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