第5章 ゴッデス大陸

第52話 港町

「「「「……なんっだこりゃ!?」」」」


 建設予定地である南の地へと到着した大工達の第一声がそれだった。


「あ、お~い!」


 アースが外壁の上から大工達を発見し声を掛ける。そんなアースに大工はこう言った。


「「「「俺たちいらねぇじゃん!?」」」」

「え?」


 アースは外壁上部での作業を終わらせ町の入り口へと降りた。


「どうしたの?」

「どうしたの? じゃねぇよ……。なんなんだこりゃ……。もうほとんど出来上がってんじゃねぇか」

「そう? まだまだだよ。とりあえず外側だけだよ出来てるのはさ。門から入って来てよ。中身はまだまだ全然だからさ」

「……どうだかな」


 大工達はアースに案内され外壁の中へと入る。


「「「「ほらな! ほらなっ!!」」」」


 外壁の中は道は綺麗に舗装され建物の基礎工事までは終わっていた。門から港へは真っ直ぐ大通りとなっており、その大通りから左右に道がいくつにもわかれている。港には倉庫二つに造船所も隣接させるのだそうだ。


「なぁ、俺たち何すりゃ良いんだこれ……」


 基礎まで全て終わっている町を眺め大工たちはそうアースに問い掛けた。 アースはそんな大工達に呼んだ目的を伝える。


「うん、実は目的は別にあるんだよ」

「あん?」

「親方達を呼んだ目的はさ、今から俺が見せる技術を学んで欲しかったからなんだよ」

「技術を学ぶ?」

「うん。これから作るものは狭い土地でも沢山の人が暮らせるような建物だからさ。ここで学んだものを大陸中、出来たら世界にも広めて欲しいんだよ」

「ほ~う? そこまでのモンが出来るのか」

「まぁまずは一棟作ってみせるから見てて」


 そう言い、アースによるマンション建設が始まった。

 まず、親方達に図面を渡し、その図面通りに鉄筋を組んでいく作業から始まる。基礎から飛び出している鉄筋に縦の鉄筋を組み、横にも渡し結束線でくくる。ある程度高さが出たら型枠をはり、パイプで固定。その中に生コンクリートを流していく。この時生コンクリートが隅々まで行き渡るようにバイブレーターで振動を与える事も忘れない。これをしないと壁に隙間が出来たり気泡が入ったりして強度が落ちるのだ。

 これを何度も何度も繰り返し、上へ上へと伸ばしていく。高くなってきたら足場を組み作業をする。型枠は綺麗に剥がすと再利用が可能だ。

 そしてコンクリートの柱と壁が出来上がると次は内装だ。内側に板をはり壁紙を貼っていく。終わったら床板、扉、窓ガラスをはめ込み、一室ずつ完成させていく。

 ちなみに、この世界には電気はない。なので電気工事は省く。キッチンやトイレ、照明や風呂もアースが発明で作った魔道具を使用する。こうして完成させた一室を親方達に見せた。


「後はこの作業を繰り返していくだけなんだけど……。質問ある?」

「「「「ありすぎてわかんねぇよ!?」」」」

「えぇぇぇ……、どこが?」


 親方はアースに言った。


「最初からだよ!? なんだ鉄筋ってのは!?」

「そうだなぁ……。鉄筋は鉄鉱石から鉄を精製して作ったもので、人間の身体でいう骨みたいなもんなんだよ。親方達は角材を組んで家を作るでしょ?」

「ああ」

「それをはるかに丈夫にするために使うのが鉄筋と生コンクリートなんだよ。木材だと高さが出ないからね。出ても城くらいかな。この建物は城より高くなるからさ、下部は鉄筋を増やして頑丈に、上部は少しずつ減らして下が潰れないようにしていかなきゃならないんだよ。図面でもそうなってるよね。適当に組んだものは適当なものしか生まれない。大工なら図面がいかに大事かよくわかるでしょ?」

「ああ。だが見るもの全てが新しいものばっかりでサッパリなんだよ。鉄骨や鉄筋、生コンクリートなんて初めて見るし作り方すらわからねぇ」


 アースは言った。


「そこは俺から買ってもらうしかないね。この世界じゃまだこれを作るための技術がないからさ」

「じゃあ何でお前さんは作れるんだよ?」

「それは秘密。教えちゃったら商売にならないでしょ?」

「ちっ、ちゃっかりしてやがらぁ」

「ははっ、さあ今度は一緒に作ってみようか。次の部屋にいこう」


 それから数ヶ月かけようやくマンションが一棟完成した。


「……やべぇモンが出来ちまったなぁ……。こんなの世界のどこにもねぇぞ……」

「だろうね。ここはゴッデス大陸にとって商いの最重要地となる。港町はただ船が入れば良いってわけじゃない。港町はいわば玄関みたいなものでさ、玄関が汚きゃ誰も来ないでしょ? だから港町はその大陸を象徴するものじゃなきゃならない。親方達は次のマンションに。俺は全ての部屋に魔道具を設置したり娯楽施設を作ったりしなきゃならないからさ」

「おいおい……。一体この町をどうするってんだ?」

「ふっふっふ……。俺の都市構想はこうだ!」

「「「「こ、これはっ!?」」」」


 アースは親方達に町のイメージ図を見せた。町はマンションによる居住区、ビル群による商業区、巨大建造物が並ぶ娯楽区、そしてコンクリートジャングルの癒しとなる緑地公園がある。娯楽施設には競馬場を作った。馬なら馴染みもあるし、公営ギャンブルは国を潤す。これをやらないわけはない。


「……こいつの頭ん中はどうなってやがんだか……」

「さあ仕事仕事! 焦らず安全第一で行こう!」


 こうして、アースによる都市建設と技術者教育が平行して進んでいくのである。

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