第39話 向かう船団、迎える絶望
グラディス皇帝は千の船を従え北に向かう。その全てに強力な防御魔法の使い手や帝国最強を誇る騎士団などを乗船させ、本腰を入れてデモン大陸を蹂躙し、獣人と竜を全て抹殺するつもりでいた。
皇帝とは違う船に乗っている黒騎士団の副団長が団長に問い掛ける。
「団長、俺達全員出て来たけど国は大丈夫なんですかね?」
「……今攻め込まれたら国は滅びるだろう。それだけの戦力を皇帝は率いてきた。私怨のためにな」
「それじゃあ……もし復讐を果たしても帰る国がなくなってしまうんじゃ……」
「さあな。それは貴族達が決める事だ。我々のような軍人が意見でもしてみろ、すぐに首が飛ぶぞ」
「……軍人は辛いっすね……」
皇帝は自船に帝国最強と名高い白騎士団を乗船させている。他にも、赤騎士団、青騎士団、紫騎士団、緑騎士団と全ての戦力をこの戦いのためだけに集めたのだ。国の守りなど一切気にもとめず、ただ復讐のためだけに船を北上させる。
船は戦力温存のために自然の力のみで北上を続ける。それが一ヶ月過ぎた頃、グラディス帝国兵の視界に絶望の象徴が浮かんでいた。
「だ、団長……! ありゃあ……なんですかっ!?」
「わ、わからぬっ! 水の上に鉄の塊が浮いている……だとっ!? ば、バカな……!」
これにはさすがの皇帝も驚愕していた。
「な、なん……だ……あれは……。なんなのだあの鉄の塊はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「巨大鋼鉄船……! 陛下、引き返しましょう! あれには勝てませんっ!」
巨大な戦艦の甲板には五体の竜が並んでいた。火竜が戦闘に立ち、左右に水竜、風竜。そして後方に天竜、魔竜。そしてアースが操舵室からスピーカー越しに声を掛ける。
「じゃあまずは砲撃から始めるから兄さん達は見てて」
「「「ああ」」」
戦艦が横を向き、砲台が回転する。
「主砲発射!」
戦艦の主砲が火ではなく巨大な魔力砲を放つ。魔力砲は扇状に稼働しつつ、敵船を次々と沈めていった。
「ぎあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「回避っ! かい……」
「だから嫌だったんだぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
千あった船はあっと言う間にその数を半分以下にまで 減らされた。
「よっしゃ! 後は俺らに任せな! 親父、お袋! 行くぜっ!」
「……やれやれ。まさかこの歳になってまで戦とはな……」
「あら、良い運動になりそうじゃない。あれを蹴散らせば人間も少しはマシになるでしょうし」
「ならんよ。人間の欲は果てしなく深いからな。とりあえず目の前の愚か者だけでも消し去るとしよう」
戦艦から絶望の象徴、竜が四体飛び立った。最大サイズの竜が四体並べられるだけで、この戦艦がいかに巨大かがわかる。
「おのれっ……! また竜かっ!! 貴様らさえいなければ獣人を皆殺しにできたものをっ!! 生き残った魔法兵は応戦せよっ!! 騎士団は陸地に向かい地の利を生かすっ! 私に続けぇぇぇぇぇぇっ!!」
「「「「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」
ついに本格的に戦いが始まる。魔力を温存し続けてきた魔法兵はありったけの魔力を使い、竜に狙いを定める。だが、竜に魔法は当たる事はなかった。
「バカな……! 我々の最大魔法が弾かれた!?」
「あ、アイツだ! あの白い竜! アイツが防御壁を展開しているんだっ!!」
天竜には魔法は通じない。この戦艦の主砲ですら弾いてしまう力を持つ天竜に人間の魔法など通じるはずもない。
「私は防御。さあ、あなた? あれやっちゃって」
「俺は攻撃。いくぞ? 愚か者共よ。未熟な火竜らを一度退けたくらいで調子に乗るなよ。竜の恐ろしさ……その身で味わうが良い。【アルティメットバースト】」
魔竜がガパッと口を開き、轟音と共に百の船が爆発により吹き飛んだ。
「親父! 俺達にも残してくれよっ!」
「バカを言うな。戦場の敵は早い者勝ちだ。殺りたけどれば早く動く事だな、未熟者め」
「ちくしょうっ! アクア、ヴァン! 俺達も動くぞっ!」
「「はいは~い」」
竜の猛攻が魔法兵に襲い掛かる。魔法は通じず、一方的に蹂躙された魔法兵はなす術なく海の底へと沈んでいった。
そしてその間、皇帝と騎士団を乗せた船は外壁近くまで辿り着いていた。その数二百隻。
「……なんだ……これは……! これでは上陸できぬではないかっ!!」
皇帝の目の前には崖。その上には高くそびえる外壁。船が着ける場所など一切なかった。
「探せっ! あの鋼鉄船があると言う事は必ず港があるはずだっ!!」
「……陛下、逃げましょう! この戦……勝ち目は……」
「黙れ! この臆病者がっ!! 逃げたければお前だけ逃げるが良いっ!! さっさと船から降りろっ!!」
私は白騎士団団長。この降りろと言われた時、早々に船から飛び降りていればこんな事にはならなかっただろう。今、残る船はたったの一隻。この船以外は壁から生えた砲台から放たれた光の柱で全て沈没してしまった。そして今、全ての砲台がこちらを向いて狙いを定めている。外壁の上では獣王ガラオンが腕を組み私達の乗る船を見下ろしていた。
「ガラオン!! やはり生きていたかぁぁぁぁっ!」
「……無様だな、皇帝。お前の乗る以外の船は全て沈んだ。後ろを見るが良い」
「なにっ!」
皇帝の乗る船の後ろではあの巨大な戦艦が無傷の竜を乗せ停止していた。
「おのれぇぇぇぇぇっ!! 降りてこいっ獣王っ!! 降りて私と一騎討ちで勝負しろっ!!」
「一騎討ち? なぜ我がお前と一騎討ちなどせねばならんのだ。最後は我らの主、アース殿に任せる。それが国同士の戦いだろう」
「誰だそれはっ! そして国だと? 何をバカな! 死の大地に国などあるわけない!」
「あるんだなぁ、それが」
「なっ!?」
竜の姿をしたアースが皇帝の船へと降り立った。
「初めまして、陛下。俺が死の大地を復活させ、魔族、エルフ、獣人、そして竜とで楽園を作っているアースだ。正確には国ではないけど俺が代表と言う事になっている。よっと」
アースは人化を使い人の姿へと変化した。
「さあ、陛下。全てを終わらせよう。俺に勝ったら見逃してあげよう。負けたら船を沈める。代表同士での一騎討ち、受けるかい?」
「……やってやるっ!! 貴様を殺した次は獣王の番だ! こいっ、バケモノ!」
これより最後の戦いが始まるのであった。
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