第23話 それぞれの目指す道へ

 翌朝、アースは背にフランを乗せ空を飛んでいた。


「昨晩はありがとうございました、アースさん!」

「うん、あれくらいならいつでも……」

「えっ!? そ、そんな……。だ、ダメですよ! 毎晩一緒になんて……赤ちゃん出来ちゃうじゃないですか!」

「……へ?」


 フランはアースの背にしがみつきながら言った。


「昨日一日だけなら大丈夫だとは思いますが……。もし赤ちゃん出来てたら修行をやめてすぐに戻りますね!」


 おかしい。昨日は一緒に寝ただけでそういった事は一切してはいない。


「あ、あぁ……うん。その辺もルルシュさんに色々聞いてみたら良いよ」

「はいっ!」


 やがてエルフの里が見えてきた。アースはゆっくりと地上に降り、里の入り口でフランを背から降ろす。


「じゃあフラン、修行頑張ってね?」

「はいっ! 必ず力になれるように頑張りますっ! それでアースさんはこれからどうするのです?」

「俺? 俺は……」


 その時だった。


「アース! 帰って来たのかぁぁぁぁぁっ!?」

「へ?」


 アースの姿を見つけたアイラが里から物凄い早さで駆け寄ってきた。


「姉さん?」

「やあ、アイラ。久しぶ……うごぉぉぉっ!?」


 アイラは止まれずアースに正面から突進し、ようやく止まった。


「な、なにしてるんですか姉さんっ!?」

「いたたた……。いや、アースの姿を見かけたらもう我慢ならなくてな。アース! 飯を作ってくれ!」

「あたた……。は? め、飯?」


 アースは身体を起こしながら土埃を払い問い返した。


「もうしばらくアースの飯は食ってなかったからな……。見ろ、こんなに痩せてしまった!」


 そう両手を広げアピールするが全く違いはわからなかった。しかしここはデリケートな部分。アースは気をきかし、こう答えた。


「ち、ちょっと痩せたみたいだね?」

「そうだろう!? もう普通の食事じゃ心から満足出来ないのだ! さあ、家に行こう! 今すぐにだ!」

「ちょっ!? わかったから引っ張らないでぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


 アースはアイラに腕を引かれ無理矢理家の中へと連行されるのだった。


 そして二時間後。


「ふぅぅぅぅ……っ、久しぶりのアースの飯は格別だったな! なあ、母さん?」

「そうね。にしても二人とも……、急に戻って来るなんてどうしたの?」


 その問い掛けにフランが席を立ちルルシュに頭を下げながら答えた。


「お母さん!」

「な、なにかしら?」

「私に稽古をつけて下さいっ!」

「え? いきなりどうしたの??」


 フランはアースとともに死の大地を復活させたが、それで自分がどれだけ未熟だったかを悟った。そしてこれからはただ一緒にいたいだけではアースの足手まといになると感じ、改めて強くなりたいと母に願い出るのだった。


「そう……って、え? 死の大地って復活したの!?」

「はい。アースさんが色々してくれて。最初は区画内の砂を除去して私が精霊魔法で新しい土をそこに流していたのですが……、魔力もまだまだ少なくて時間がかかりすぎてしまって……。そこにアースさんが両親と厳しい修行を積み戻られて……。多分あと半年もしたら死の大地は消えてしまうかもしれませんね」

「あ、あの竜コンビと修行!? よく死ななかったわね……」


 そう言い長がチラリとアースを見た。


「いえ、普通に何回か死にかけましたけどね? 母が無理矢理回復させるんですよ……」

「……ああ、勇者もそれやってたわね……。よくまぁ無事で……」


 長はアースを哀れむのだった。そしてフランがもう一度頭を下げる。


「私ももっと役に立ちたいんです! だから……お願いします! 私を強くして下さいっ!」

「……わかったわ。だけど私の修行はハードよ?」

「はいっ!」

「途中で投げ出さない?」

「はいっ!!」


 娘の真剣な眼差しに長の口許がゆるんだ。


「わかりました。では明日より地獄の特訓に入りましょう。それでアースさん?」

「はい?」

「アースさんはこれからどうするのかしら?」


 先ほどアイラに突進されこれからどうするかを告げようとしたが邪魔されたアースは改めてこれからの予定を口にした。


「そうですね。先ずは海岸線に砦を建設します」

「うんうん」

「いつ人間が攻めてくるかわかりませんし、監視は絶対に必要です」

「そうね」

「で、砦に魔導砲を設置し、近づいた船はそれですべからく迎撃し、二度と攻め込む気は起こさせないように叩き潰します」

「うん?」

「その後は砦をメインに街を作り、魔族を繁栄させようかなと。魔族もかなり数を減らしてましたし、食糧難から増やせない事を聞きましたからね。復活した大地を使って農業、畜産といった産業を興そうと考えてました」


 長は頭を抱えていた。


「アースさん? それはもはや国づくりでは?」

「……ああ、なるほど。それも良いかもですね。人間以外が共存出来る国を作るのも悪くないかも」


 元人間でありながらも、アースにはこの世界の人間を救う気など毛頭なかった。


「壮大な計画ねぇ……。百年以上かかるのでは?」

「そんなにはかからないと思いますよ? まぁ、楽しみにしてて下さい。魔族の街が出来たらエルフの町も作りますので」

「……そう。では気長に待つとしましょう。フランを鍛えながらね?」

「はは、お手柔らかに。じゃあフラン、修行頑張ってね?」

「はいっ! アースさんも身体にお気を付けて!」


 アースはフラン達に別れを告げ、魔族の集落へと飛び立った。


「フラン、何か進展あった?」

「は、はいっ! 昨日アースさんと寝ました!」

「……へ?」

「えへへ……。もしかしたら赤ちゃん出来てるかもしれません」

「な、なんですって!? 詳しく!」


 その後、フランのあまりの知識のなさに長は頭を抱え、その件も含め改めてフランの教育しなおす事にするのであった。



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