第22話 帰還
予定より二ヶ月遅れて戻ったアースは今、フランの前で土下座させられていた。
「……誠に申し訳ありませんでした!」
フランはプンプンだった。
「……三ヶ月って言いましたよね?」
「は、はいっ! しかし三ヶ月では足りなく……」
「約束は約束ですっ! よってアースさんには罰を受けてもらいますっ!」
「ば、罰……ですか?」
アースは恐る恐る顔をあげる。
「アースさんには今日一日私とイチャイチャしてもらいますっ! ちなみに拒否したら泣きますっ!」
「え……ぇぇぇ……い、イチャイチャ?」
「……嫌なんですか?」
フランの瞳が滲み始める。ほっぺたが膨らんでいてやたら可愛く思える。
「ち、ちなみに何処まで要求されるのでしょうか?」
「……もちろん最後までです!」
「さ、最後とは?」
「……い、一緒のオフトンで寝るまでですっ!」
「……は、はぁ」
アースは妙に子供っぽいフランの最終目標に安堵したのだった。
その後、二人はこの五ヶ月で復活した死の大地を手を繋ぎながら歩いた。
「へぇ~……、畑の他にも色々出来てるね」
「はい、何でも養鶏を始めるとか」
「養鶏? 鳥とかいたっけ?」
「え? いたじゃないですか森に」
アースは記憶を辿るが森にニワトリがいた記憶は全くなかった。
「ち、ちなみになんて鳥?」
「バトルコッコですよ?」
バトルコッコ。やたら好戦的な鳥だが、負けた相手には従う習性がある。ただし、肉弾戦でのみ戦った場合に限る。
「ああ、あの奇声をあげながら飛び掛かってくる鳥か」
「はい。卵は栄養価も高いし食糧にはうってつけなので」
「なるほどねぇ~」
ちなみに畑には野菜や麦、稲が植えられていた。それらは以前アースがリリスに渡した中にあった食材で、魔族がどうにか増やせないかと研究した結果、成功したとの事だった。
「凄いな、魔族は。生命力が強いって言うか……逞しい」
「ですね。あ、そろそろお昼になりますね。いったん家に戻りますか?」
「いや、ちょうど良いから今から修行の成果を見せてあげるよ」
「え?」
時刻は昼近く。アースは死の大地との境界線に立ち、大地に手をついた。
「我は地を司る竜。死した大地よ、我の力を以てその後姿をあるべき姿に……! 【
アースのスキルが発動する。レベルアップにより増えたアースの魔力がぐんぐん吸われていく。そしてそれに比例するように死の大地が緑の大地へと変わっていく。
「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
フランは目の前の光景が信じられないといった様子で声を張り上げた。
「い、今何をしたんですかっ!? 死の大地が緑の大地に変わって……し、しかもだんだん地の精霊の声が……!」
驚き声をあげるフランにアースは言った。
「これが修行で身に付けた新たな力だよ。最初の三ヶ月じゃこれに届かなくてさ、両親の所に相談しに行ってたんだよ。で、両親の所で数回死にかけながら修行してこの力を得たんだ」
「し、死にかけ?」
「……酷かったよ。息子だろうと容赦なくボロ雑巾のようにしてきたからねぇ……」
「……追加の二ヶ月間はそんな事をしていたんですね」
アースは緑に変わった大地を背にフランに言った。
「うん。ダンジョンじゃもう強くなれなくなっちゃってね。今の方法じゃフランにかなりの負担がかかるでしょ? 毎日毎日魔力を限界まで使ってさ。俺はただ地面に柱を立てて砂を吸い込むだけ。このままじゃダメだってずっと考えていたんだ。だから俺は……本当の意味で地の竜となる事にした。でもまだまだ兄達には及ばないと思うし、両親になんて全然敵わない。だから、これからもまた無茶苦茶するかもしれないけど……これからもずっとついてきて欲しいな」
最後のセリフ、アースにとっては何気ないセリフだったが、フランは顔を真っ赤にして両手で顔を覆った。
「そ、それってプロポ……」
「さ、久しぶりに一緒に食事にしようか。天気も良いし」
「もぉぉぉぉぉぉっ! なんなんですかもぉぉぉぉぉっ!」
「え? え?」
フランはアースの胸に飛び込み、ポカポカと叩くのであった。端から見たらイチャイチャしている様にも見える光景だが、アースは何が何だかわからないといった様子であった。
そして夜、フランは宣言通りアースの部屋を訪れた。
「や、約束ですからね! 今日は朝まで一緒のオフトンですっ!」
「大丈夫? なんかフラフラしてない?」
「だ、大丈夫ですっ!」
フランは真っ赤な顔をし、逆上せているような状態だった。
「や、約束ならしかたないよね。ど、どうぞ……」
アースは身体をずらし、ベッドを半分空けた。そこに言い出しっぺのフランが遠慮がちに横になり、アースの顔を見る。
「アースさん……」
「なに?」
「アースさんは昼に言いましたよね、このままじゃダメだって……」
「うん」
「私も毎日そう思ってました。私にもっと魔力があれば、もっと才能があればって……。きっとお母さんならあの穴を一日もしないで埋められたはず、アースさんが自分に未熟さを感じたように、私も未熟さを感じていました。だから……私も今一度修行しに行こうと思います」
そう言い、フランはアースに身を寄せる。
「……里に戻るのかい?」
「はい。お母さんに師事してみようと思います」
それを聞きアースの頭にある記憶が蘇る。
「……大丈夫? ルルシュさんって俺の両親とパーティー組んでたんだよね?」
「……はい?」
「いやさ、俺両親との修行で何回か死にかけたって言ったじゃない? で、ルルシュさんは俺に鬼のような追い込みをかけたパーティーメンバーでしょ? 本気で師事なんてしたら……」
フランの顔から血の気が引いていく。
「だ、大丈夫ですよ! ほ、ほら! お母さんって優しいし!?」
「俺の両親も修行に行くまでは優しかったなぁ……」
「お、脅かさないで下さいよ! わ、私と離れたくないからってそんなに脅さなくても良いじゃないですか!」
「まぁ……、離れたくはないかなぁ。フランは可愛いし」
「はぅぅぅっ……」
再びフランの顔が赤くなった。
「でも、強くなりたいならその選択は正しいと思う。しばらく離れる事になるけど……お互いの目指す未来を目指して頑張ろうね!」
「はいっ! ふぁ……はふ……」
「今日は朝から沢山歩いたから疲れたかな? そろそろ休もうか」
「は……い。お休みなさい……アース……さん……。くぅ……」
そこでフランは眠りに落ちた。
「俺ももっと頑張らないとな。お休み、フラン……」
アースはフランに抱きつかれつつ、眠りに就くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます