転生発明家は異世界で魔道具師となり自由気ままに暮らす~異世界生活改革浪漫譚~

夜夢

第1章 転生

第1話 大往生した発明家

「「「お祖父ちゃん!」」」


 ワシの名は御堂みどう 大地だいち。この世に生を受けて百と数年。大戦も経験したし復興もバブル景気も経験してきた。

 

 生まれてからこれまでワシは物作りに全てを賭けてきた。最初は生活道具、そこから始まりこれまでに数々の発明品を世に発表してきた。コスト削減や生活を便利にする道具、時短器具など本当に様々な物を作ってきた。


 それは起業しグループの会長職となっても変わらなかった。生涯現役、それがワシのポリシーでもあった。


 その人生ももうすぐ終わりを迎える。自分の死期くらいはわかると誰かが言っていたがどうやらそれは事実だったらしい。目の前が段々と霞んできている。


 ワシは最後の気力を振り絞り、病院のベッドの周りに立つ家族に声を掛けた。


「……お前達……。ワシの人生は幸せだった……。ワシの発明品で……世に笑顔が溢れたのが……ワシの喜びだった……」

「「「……お祖父ちゃんっ……!」」」


 声がかすれて上手く声にならない。だがこれだけは伝えておかねばと、ワシは最後の気力を振り絞り家族に話し掛ける。


「……会社は長男の#海__かい__#、お前に託す……。海はワシの考えを一番深く理解しておるからな……」


 長男は今本社社長をしている。ワシが五十の時に出来た子だ。


「父さん……! 逝かないでくれっ! 俺には父さんみたいな発明品は作れないよっ!」

「ははっ……、海……。お前はワシではない……。これからはお前の思った道を歩むのだ……。ワシの真似はせんで良い……。お前が……お前の良しとする道を……あゆ……め……」


 身体に繋がれたケーブルが状態を物語る。繋がれたモニター画面にあった反応はフラットになった。


 医師がベッドに横たわる老人の状態を確認する。


「……御堂大地様、午後一時三分、永眠なされました……」

「父さんっ! 父さんっ!!」

「「「お祖父ちゃぁぁぁぁぁんっ!!」」」


 ワシの長い人生はそこで幕を下ろした。


 そこで不思議な事が起こった。ワシは身体から浮遊感と共に抜け出し、すがり付きながら泣く家族を天井から見下ろしていたのだ。


「……これは……どういう事だ?」

「霊界に行くためのプロセスですよ」

「ん?」


 突然背後から声を掛けられたワシは後ろを振り向いた。そこにはバリッと白いスーツを着込んだ金髪の若い男が立っていた。


「霊界?」

「ええ。死んだ者は必ずそこへ送られ、次の人生へと向かう準備を始めるのですよ」

「ほうほう」


 中々に興味深い話だ。


「死後七日は現世に留まる事も可能ですが、今すぐ旅立つ事も可能です。どうしますか?」


 ワシは瞼を閉じ目の前に立つ若い男に言った。


「未練はない。いや、欲を言えばまだまだ作りたい物はあったが……それももう叶わない。だから……未練はない。今すぐ旅立つとしよう」

「そうですか。では……私の手を取って下さい。霊界へとお連れいたしましょう」

「うむ……」


 ワシは差し出された手を取った。そして未だ泣いている家族へと別れを告げた。


「元気でな……。ワシは先にあの世で待つとしよう……。さらばだ……」

「では行きましょうか」


 ワシは現世に別れを告げ、スーツの男と共に霊界へと旅立った。旅立ったのだが何故かワシは和室に座っていた。


「ここが霊界かの?」

「いえ、ここは現世と霊界にある狭間、そしてこの空間は私のプライベートルームです」

「……霊界に行くのではなかったのかな?」

「ええ。ですがその前に……、御堂 大地さん。貴方は数々の功績を残されましたね」

「は? ふむ……わかったぞ。天国か地獄か選べと言う事か?」

「いえ、違います」


 ワシは予想が外れ少し恥ずかしくなっていた。


「御堂 大地さん、貴方の能力は本当に素晴らしい。その能力、地球とは違う世界で発揮してみようとは思いませんか?」

「地球とは違う世界?」

「ええ。私の管理する世界です。そこは未だ文明が発達していない世界。そして地球にはない魔法のある世界なのです」

「……魔法? なんだそれは?」


 若い男は人差し指を立て呪文を口にする。


「火よ灯れ、ファイア」

「おぉっ!? 指先から火が!?」


 若い男の指先に火が揺らめく。


「これが魔法です。この他にも私の管理する世界には生活を便利にする魔法などが数多くあります。ですが、それ故に文明の発達は遅れ、魔法を上手く扱えない者は憂き目にあっているのが現状なのです」

「……なるほど。それは格差に繋がるな。あまり良い世界とは言えんの」

「はい。ですので……御堂 大地さん、あなたのその能力で魔法の使えない者にも使える者と同じように幸せに暮らせる環境を作って頂きたいのです」


 そう言葉を口にし、若い男は頭を下げた。


「ワシに出来るかの? ワシは魔法のまの字も知らぬ人間だぞ?」

「大丈夫です。世界に行ってくれるならば必要なスキルは私が与えます。どうでしょうか? もう一度、今度は違う世界で一から世界を導いてみませんか? あなたの発明で世界を平和にしていただきたいっ!」


 ワシは年甲斐もなく胸が踊った。新しい世界、魔法のある世界、文明の発達していない世界、そこでもう一度発明に携われる。これが喜びではなくてなんだと言うのだろう。


「わかった。貴方の管理する世界とやらに行くとしましょう」

「おぉ! 本当ですか! ありがとうございます!」

「だが、ワシは本当に物作りしか出来んからの?」

「大丈夫です。では早速身体を作り替えてしまいましょう!」

「……な、なに? ぬぉぉぉぉぉぉっ!?」


 若い男がワシの半透明になっていた身体を弄くりまわす。


「え~と、先ずは魔力を使えるようにして……、後は……」

「何をしておる!?」

「ああ、これは世界に適応するためのプロセスなのでご心配なく。あと……種族は一番長命なエルフにして……。次にスキルの付与を……」

「む……むぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!? だ、大丈夫なのかこれはっ!?」


 その問い掛けに若い男はニッコリと満面の笑みを浮かべこう言った。


「大丈夫です。私は神ですから。失敗なんてしません。さあ、もうすぐ完成しますよ?」

「おぁぁぁぁぁっ!?」


 身体がどんどん小さくなっていく。


「御堂 大地さん、あなたの第二の人生はエルフです。ゼロ歳からの新しい人生を楽しんで下さいね。そして……私の管理する世界をよろしくお願いします……」


 そこでワシの意識は闇に包まれ、和室から消えた。


「……あれっ!? 行き先が違う!? な、なんでだ!?」


 神は慌てて設定を見直した。そして気付いた。


「あ……あぁぁぁぁぁぁぁっ!? エ、エルフじゃなくて種族が竜になってる!? えっ!? 項目押し間違えた!?」


 神は竜の腹に宿る卵を見て……映像を遮断した。


「は、ははは……。か、神にも失敗はありますよね。い、いや! これは失敗じゃない! 竜ならエルフより遥かに長く生きられるし魔力も桁違い! そ、そう! これは正しい選択だった! うん、そう言う事にしよう!」


 神はスッと明後日の方を向き、とぼけるのであった。


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