第3話 双子!?

 先輩たちも書いたことが無い始末書に、適切なアドバイスなど期待しようもない。そう悟った2人はぺこりと先輩に頭を下げて、フォーマット選びを開始した。

 そんな様子を見ながら、先輩も、あ、そうだ、打ち合せ行かなきゃ、と動き出す。そして去り際に、


「まあ、ここにいるみんなにとっても滅多にない始末書作成だからね、ある意味いい経験? がんばってよね、双子ちゃん」

 軽い調子で前向きな声を掛けて歩き出す。だが、

「!! ちょちょちょちょと、ちょっと、ちょっと待ってください!!」

「いいいい、いま、今、なんと??」

 その言葉に、シュウとショウは激しく反応した。


「え? なになに? 滅多にない始末書作成? いい経験?」

「いや、そこじゃなくて」

「がんばって?」

「いやいや、もっと大事な」

「大事な?」

「だからほら、今、僕らのこと―」

「んん? 双子ちゃん? いいでしょ別に」

「まじですか」

「なにがよ? いいじゃん、実際双子なんだから。それともなに、ちゃん付けが気に入らない?」

「…って」

「え?」

「俺/僕たちって」

「なに?」

「「双子なんですか?」」

「は??」


 ステレオで言われた。さすが双子、見事なユニゾン。いやそれより。

「どういうこと? 君ら、知らなかったの? 自分のことなのに??」

 だって、みんな知ってるよ? そう告げられて、2人は青くなった。


        ***


「「芽里さんっっ!!」」

 バァン!!

 乱暴に扉が開いて、シュウショウコンビがなだれ込んできた。まったく子どもは騒々しいわね―。見た目6歳児は、ふぅ、と息を吐いて再び眉間を揉んだ。


「どうしたの? もうできたの?」

 あれからまだ1時間ちょっと、まさかと思いながらも聞いてみる。曲がりなりにも完成品を持ってきたのなら、内容はともあれ、まずそのがんばりは褒めてやらねば。上司たるもの、部下が気持ちよく成長できるよう、心を砕くのも務めだもの。

 だが2人は言った。それどころではない、と。


「どういう意味よ? 大事なことでしょ? だいたいね―」

 むっとして叱責口調で言いかけるも、

「こっちのほうが! 大事! です!!」

 ショウの力強い宣言に押し切られた。なんなの、もう!

「あの、先ほどある先輩に言われたんですが」

「何を?」

「「俺/僕たちって」」

「うん?」

「「双子、なんですか!?」」

「はああ? なに言ってるの?」


        ***


「はああ? なに言ってるの?」

 心底不審そうな芽里さんの声に、ショウは安堵した。だよね、やっぱりそうだよね、僕らが双子なんて、あり得ないよね。

「だって、僕ら全然似てないし。僕は可愛い系だけど、シュウは目つき悪い系で」

「おい! なんだその区分? 失礼だな」

「だって事実だもん」

 がるるる…! と、またも一触即発になる2人を、芽里は再び机を叩いて制した。手を傷めないよう、注意しながら。


「ちょっと待ちなさい。あなたたち、知らなかったの?」

「「え?」」

「知らなかったの? 自分たちが、双子だって」

「「ええ~!!?」」

 もう、うっるさい! 渋面を作って言っても、2人には届かない。サイレンのように、え~! え~! を繰り返している。

「ちょっと。もう、静かにしてちょうだい?」

「だって芽里さん、僕、信じられません、シュウが、彼が僕の双子の兄だなんて」

「…違うわよ」

「違うんですか?」

「ええ、違うわ」

「なんだもう、驚かさないでくださいよ、違うんですね。てっきり―」

「あなたが、お兄ちゃんよ、ショウ。シュウが、弟」


 はい~??

 本日何度目かの、奇声が上がった。

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