第4話 レクチャー
何だよ、もう、わからないことが多すぎるよ、双子って言うのもびっくりだけど、そもそも僕ら、どうして兄弟揃ってこの仕事をすることになったんだろう? てか、どうして上司が幼女? そうつぶやいたのが運の尽き(?)、一から叩き込み直す、と宣言した芽里に掴まり、シュウとショウはそれからたっぷり小一時間かけて、ソウルセ/シェイバーについてのレクチャーを受けたのであった。
***
◆ 局員の待遇 および 形質について◆
・ソウルセ/シェイバー等『魂管理局』(知ってた? うちの組織の正式名称)のメンバー(以下 局員)は、日々の活動に応じて魂を『給与』として得るものとする
・得る魂の量は、5年に一度の審議会で決定/改定される
・局員は、本来、形質を持たないが、便宜上、ある形質を保持できる
・その形質への変容、保持には付与される魂の質量の消費が必要となる
・同じ条件下であれば、体型の大きさで魂の消費量が決まる
「ここまではいい?」
スライドを使って説明した後、芽里は2人を振り返った。
「つまり、私が子どもの恰好をしているのは、いわば“省エネ”ルックね」
「省エネ…」
「じゃあ、僕らも子どもの姿になったほうが―」
「却下」
「どうしてですか?」
そんなのずるいです、と、膨れるショウを尻目に、シュウが尋ねる。
「だって、考えてごらんなさいよ。幼児が夜中にやって来て、あなたにスペシャルなご褒美とか言ったらどう? まず間違いなく、迷子扱いよ」
「はあ、まあ、確かに」
「だから、あなたたちみたいに、対象者の元に出向いて告知する仕事でいる限りは、ある程度成長した姿じゃないとダメなのよ」
「なるほど?」
「私だって、今のあなたたちみたいな仕事していたときは、それなりにオトナの姿をしていたのよ」
「え、そうなんですか??」
「そりゃそうよ、この姿で行ったら、警察かなんかに通報されるのが関の山だもの。私がこの姿になったのは、こうしてオフィスでの仕事が専らになってからのことよ」
そう言う上司に、大人の姿ってどんな? と、ついつい考えてしまう2人であった。
「あなたたち、自分が双子と知らなかったってことは、もしかして、どんな条件の人がこの仕事に就くかも知らないって可能性もあるのかしら?」
芽里が小首をかしげて言う。
「はい、知りません。研修が、途中で終わってしまったので」
「途中で終わった?」
「はい、諸般の事情により、明日からはOJTでって言われて。だから、実質3日間で現場に来たんです」
本来2週間かかる研修を、3日で。そりゃいろいろ情報も欠落するわ、芽里は2人がちょっと気の毒になった。人手が足りなくて早く戦力になってほしいという上層分の思惑もわからないではないけれど。当事者からすればたまったもんじゃないわよね。
「ここは私が一肌脱がないと」
「え!? いや、だめですよ脱ぐなんてそんな―!」
思わずつぶやいた一言に、ショウが過剰に反応した。
「ばかね!!! 手助けするってことよ」
「ああ、びっくりしたぁ」
こっちのセリフ、と思いつつ、芽里は2人に向き合った。
「じゃあ、レクチャーを続けるわね。
研修で、親やさらにその上の世代の魂の削減が著しいと、子孫に影響が及ぶという話は聞いたかしら? 親や祖父母の世代の悪行のつけで、自分は何もしていないのに魂を削られてしまうということだけれど」
「あ、はい、それは聞きました。名乗りのときに、当該者に伝えていますし」
頷きながらショウが言い、シュウもシンクロするように頷いている。嗚呼双子。
「そうそれ、生まれる前から、魂がもう次の生まれ変わりが危ういほど削られている子ども。現世でよい目を見るから、それを以て諦めてもらう、ってね。でも」
一旦言葉を切って、2人を見る。
「そんな子がね、その“よい目”を見る前に生を終えたらどう? 生まれてすぐ、または、生まれることすら叶わなかった場合」
「…悲惨ですね。可哀そうすぎます」
「うん、いいとこ一個も無い。同情します」
「同情ねえ。そう、その救済のため、魂を増やす機会を与える手段がね」
「あ、そんなのがあるんですね?」
「それはよかったですね」
いやだから、どうしてそんな他人事なの、何で気づかないかなあ。素直すぎるのか、世間ずれしていないと言うべきか。でもこのままでは話が進まない。
「そういうわけで、あなたたちは、この仕事に就くことになったのよ」
「そうですか、よかったです…え?」
「今の、もしかして俺たちのこと、ですか?」
「ようやく気付いたのね。そう、あなたたち、というか、私たちのことよ」
目を白黒させている2人をなおざりに宥めつつ、芽里は以前職場で回覧されていた彼らの履歴書の情報(当然、本人たちが書いたものではない)を語って聞かせた。 聞き終わった双子は、ほぅ、と息を吐き、話を反芻しはじめる。
「つまり僕らは、某資産家 兼 政治家の、愛人の、子ども?」
「認知話が出て、お母さんは、その、正妻の親類の人たちに邪魔にされた、と?」
「そうなるわね」
そのまま生まれて認知されていたなら、婚外子とはいえ非常に恵まれた贅沢な生活ができたことだろう。だけどそうはならなかった。彼らの母親は、妊娠中のある日、階段で“うっかり足を踏み外した”から。
「なんてこと!」
「母は、その、無事だったんですか?」
青い顔で言う2人に、芽里は安心させるように大きく頷いた。
「ええ、赤ちゃんは残念だったけれど、不幸中の幸い、お母さんは大した怪我もなく済んだわ。だけど、とても悲しんで、その屋敷を去ったの。
その後はいい人に巡り合って、子どもにも恵まれて幸せな暮らしをね」
「ああ」
「ならよかった」
「そうね。タイミングが合えば、お母さんの身近に転生することだって、不可能じゃないわ。だから、がんばりなさい」
「「はい!」」
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