幼なじみ依存症! 〜高校デビューに大失敗した幼なじみが、俺にひっついて離れない〜

𓀤 ▧ 𓀥

第一章

第1話 デビュー、失敗

 俺こと神谷かみやけいは、高校一年生。


 こういう表現をすると誤解されそうなので、補足しておこう。

 俺は、つい昨日入学式を終えたばかりだ。

 つまり、高校生になってまだ一日しか経っていない。

 いわゆる青春初心者。


 ウチの高校に、おなちゅうの人はほとんどいない。


 強いて挙げるなら——今俺の隣に座っている、倉科くらしなあおい


 彼女とは、家も近所で、母親どうしが高校の同級生である縁もあり、園児の頃から見知った仲だ。


 明るめの茶髪は肩までかかり、いつも得体の知れないフレグランスな香りを漂わせている。

 顔は整っている方だと思う。つーか、整っている。

 背の割に胸は小振りだけど、それはそれで、趣があるといいますか……。


 でもまあ、付き合いが長い(カノジョ的な意味じゃなくて)ことも所以して、恋愛対象と言うよりは、身内のように思っている。


 高校入学まではお互いに思春期真っ盛りだったし、中学生時代に校内で喋ることはほとんどなかった。


 高校が同じだったのは、単なる偶然だ。合わせたワケじゃない。


 思春期の魔法も解け、現状俺たちの間には「改めて、これからよろしくね」みたいな空気が流れている。


  ◇ ◆ ◇


 入学式翌日の今日は、高校生活初の授業(オリエンテーションが大半だろうけど)がある。


 わざわざ時間をずらして登校する理由もないから、自然な流れで、俺は葵と一緒の電車に乗っていた。


 学校の最寄り駅までは5駅。乗車時間はだいたい30分。

 駅から西に数分歩けば到着、と。

 駅to学校の道順は自信ないが、同じ制服を着た人をストーキングすればたぶん大丈夫。


 現在時刻、7時40分。時間には余裕アリ。

 通勤・通学時間帯の真っ只中なので、窓に沿って並んだ電車の座席も、だんだんと埋まってきた。


 すると、俺の隣に座る葵が口を開いた。


「去年までは徒歩通学だったから、電車で学校に行くのって、ちょっと新鮮だよね」


「一月ひとつきも経てばこれが当たり前になるんじゃないのか?」


 そんな具合に、他愛のない会話を続ける。


「ねえ圭。私さ、ちゃんと友達できるかな。割と心配なんだよね」


「高校デビューくらいで焦んなよ。普通に、自分の趣味とかをユーモラスに話せばいいんだよ」


「だからその、『ユーモラスに』ってのが難しいんだって!」


 本人も言うように、葵は決してコミュ力が高いワケではない。

 その整った外見と相まって、中学時代は「清楚でおしとやかな美人」のレッテルを貼りつけられていた。 

 そのため、心を許せる友人はごく僅かだったらしい。

 葵は、なんとなく近づきがたい雰囲気を意図せずに発していたのだ。


 対して俺は、リア充、とまでは言わないが、コミュ力に関しては平均以上の水準だと自負している。

 初対面の人と話すとき、オドオドするようなタイプとは違う。

 少なくとも、休み時間に話す友人に困ったことはない。


 葵的には、そんな俺が羨ましいんだと。


「……俺的には、存在するだけでモテるお前の方がよっぽど羨ましいけどな」


「ん? なにか言った?」


 おっと、声に出てしまった。


「独り言だ。気にするな」


 ——閑話休題。


 そんな葵は今日、とある作戦を企てている。


 ズバリ、「自己紹介でみんなと仲よくなろう作戦」だ。

 通称「じなせん」(本人談)。


 ——新学年において、級友の第一印象を決めるのは、初のHホームRルームにて確実に行われる、「自己紹介」と言えよう。


 葵は、その自己紹介をうまくやって、自分が親しみやすい人間であることをクラスメイトたちに知ってもらおう、と目論んでいるのだ。

 あわよくば向こうから話しかけてくれるのでは? なんてチキンな理想もあるようだが。


「ま、頑張れよ。俺も前の席から応援しとくから」


 言い忘れていたが、俺たちはどちらも同じ一年二組だ。

 名簿番号の都合上、教室では前後の席に座っている。廊下から二列目の、最後尾の二席だ。たぶん授業中寝てても先生にバレないと思う。


『まもなく〜、花山はなやま〜、花山〜……』


  ◇ ◆ ◇


 ところは変わり、一年二組の教室。

 一時限目は、やはりHRだった。そして、これまた予想通り、自己紹介。


「えーと、次は、神谷だな。どーぞ」


 まだはっきりと顔を覚えていない担任(確か山田って名前)に名前を呼ばれ、俺は席を立ち上がった。


「はい、山田先生! えーと僕は……って、普段は一人称俺なんですけど(どっと笑い)、神谷圭っす。名前の由来は昔聞いたんですが……まあ、そんな昔のことは忘れた、ってことに(どっと笑い)——」


 ……ふぅ。

 一通りのイケてる自己紹介を終え、俺は椅子に腰を下ろした。


「神谷ー、先生は山田じゃなくて五十嵐だぞー」


 あ、名前全然違った。


 ——さてと。次は葵の番だ。


 俺は、チラッと後ろの席に座る彼女を見てみる。

 葵は、「ついに決戦のときがきた……」と言わんばかりの、険しい表情をしていた。


「次は、倉科かー。どーぞ」


「は、はい!」


 いよいよ。


 ——ここで、葵が自己紹介を始める前に、彼女が今から自己紹介で言わんとしていることを総ざらいしておこう。


 ・趣味は、中学時代の友人(少数)とのやり取り。


 ・好きな食べ物は、日◯UFO焼きそば。


 ・父が考古学者であるため、古代文明とかに詳しい。


 俺は葵に、「それを面白い感じに捻ったりとかして、親しみやすさを出せ」とアドバイスした。


 ——そして、その結果がこちら。


「はは、はい! えと、く、倉科葵です! 趣味は通信! 好きなのはUFO! あ、あと、古代文明に詳しいです! グフッ!」


 ……ざわわっ。

 室温が10℃下がったような気がした。


 それもそのはず。


 捻り方が絶妙に、地球外生命体と意思疎通する人っぽくなっているのだ。

 あの、たまにテレビに出てる「ファンファンファン……」とか念じて宇宙人と交信するおじいちゃんみたいに。

 しかも、緊張で言葉がたどたどしくなり、余計に怪しく感じられてしまう。


 極めつけは、最後の「グフッ」。

 無理して笑おうとしたのが災いし、めっちゃ怖い感じに聞こえてしまっていた。

 正直、それに関しては俺も若干引いた。


 ——コレ、完全に失敗だよな。

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