その距離に

河過沙和

隣り合う幸せ

 私は黒瀬 茜今年で二十歳になる、人に言うに恥ずかしい話だが友人と言うものが二十年生きてきて今まで居た試しがなかった。どうしていなかったというと特に理由はない、話が合わないとか流行が分からないとかそういう世間一般からすると他愛もない理由なのだ。それが降って湧いたようにできるのだから人生とはわからないものだ。

「ねぇ、茜ちゃん。なんで難しい顔してるの?」

「ん?あぁごめんなんでもないよ」

「ならいいけど」

 彼女は三崎 灯、地元の中学校で同じクラスだった女の子で三年間ずっと挨拶する程度の仲だった。むしろクラスメイトで三年間挨拶しあうだけの関係というのはなかなかないのでは?と今更思ったが当時の私が何も思わなかったのだからどうしようもない。最近たまたま行きつけの居酒屋で十年ぶりに出会い、回数を重ねる内に友人と呼べるようになった。ついでに今日も飲んでる。

「最近さぁ先輩がうざいのよ、えっと今野っていったけ2年の」

「今野って言ったらナルシストで有名よ!顔がいいからって何人も女の子引っ掛けて最後に俺自分以外愛せないからとか言ってふるらしいよ」

「えー何それ気持ち悪っ。最近妙に絡んでくると思ったらそんな感じなの?外面だけはいいからほっとこうと思ったけどだめかぁ」

 大抵は最近大学であったこととかどこぞの俳優が結婚しただのそういうことを言いながらビールを煽る、お互いに酔っぱらってるからここで何話そうが、愚痴ろうが帰って寝たら何もありせんでしたって顔で朝おはようって挨拶する。でお互いにもう何かが限界ってなったらどちらからともなく飲みに誘う、二人でいるときは何でも話せるし何でもできる気がする。隣り合ってこうやって話す時間が今の私にとっては何より幸せだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る