第20話 画面越しの対面
勝幸「やっべぇよ……確かに親に言ってないわ…………」
利根ちゃんが何気なく放った一言に、俺は思わず冷や汗が出るような感覚に包まれた。
俺の両親は決して厳格な人間ではないが、流石に報告もせずに女の子を住まわせるのは常識的にまずい。
子供の意志を尊重するタイプな親なので、恐らく首を縦に振ってくれると思うが、一応は許可を取っておかないと。
ヒカリ「あ〜、そーゆーのは早めに言った方が良いよ」
理愛華「なるべく早くにしましょう。あなたの親御さんって今在宅か分かる?」
勝幸「え、今かよ⁉︎」
まさかいきなり報告する事になるとは。そうも突然だと気持ちの整理がつかないのに……
だけど、こいつらがいてくれた方が、親も信用しやすいかもしれない。風葉がここにいるうちに済ませる必要もあるし、面倒な事はさっさと終わらせたい。
勝幸「まぁ、分かったよ……取り敢えずは親に確認する」
そう言って、親にメッセージを送る。
俺がいた頃は母親は金曜は早めに帰って来てたし、父親も事務所が家から近いから、そんなに遅くなる事は有り得ないと思うが。
理愛華「じゃあ、親御さんの時間が出来るまでは待とうか」
淳一「あ、それじゃあワイは金魚に餌をあげに行って来るぞい‼︎」
勝幸「おいやめろ‼︎金魚は一日中餌を
愛しのペットに
風葉「勝兄って、生き物飼ってたんだ」
理愛華「結構飼ってるよ?前は色々な魚と
風葉「へぇ〜そうなんだ……」
部屋に入ると、俺は腕を抑えて利根ちゃんを制止する。
勝幸「……ったく、面倒な奴だ。もう変な事するなよ?」
利根「おー、前に来た時より写真増えてんじゃん」
勝幸「聞けよオイ」
利根ちゃんが見ているのは、壁に飾ってある俺が撮影した写真の数々。風景や動物の写真だ。その他にも、俺の昔の頃の写真もある。
淳一「おっ、これってお前が小学生の頃のか?」
勝幸「あ?…………あぁ、そうだな」
淳一「って事は……顔的にも、隣にいるのって岸谷とレーツェルか?」
勝幸「…………そうだな」
俺らが見ていた写真。そこには、小学生の俺と流星、そしてくすんだ橙色の髪の少女がいた。
それを見て、俺は少しばかり表情が曇ってしまった。
勝幸(この頃は幼いな……俺も流星も、そして…………あいつも)
≪≫
勝幸「よ〜し、親と話をするかな。パソコン持って来るから、待ってて」
俺は自分の部屋に行く。そしてノートパソコンを持って来て、ちゃぶ台の上に置く。すると、俺を囲むようにして4人が顔を覗き込んできた。
勝幸「ちょ、ちょっ待て、狭い‼︎てか、始めの方は一旦1人で話させてくれ‼︎」
ヒカリ「え〜、別に良くない?」
理愛華「まぁまぁ、勝幸が説明する前に知らない女の子が突然画面に出て来たら困るし、風葉と一緒に私達は待ってましょう」
理愛華が落ち着かせてくれたので、俺は1人で画面の前にいられるようになった。そして間もなく、ビデオ通話が始まる。
大学に進むまでは毎日のように見ていた、両親の顔が画面に映る。
勝幸「あ、父さん母さん‼︎」
画面の向こうで、俺の両親が手を振っている。
定期的に顔を合わせるので、最後に会った時とも変わらない様子だ。
勝幸父『元気にしてるか?』
勝幸「まぁ、それなりにはね」
勝幸母『でもわざわざビデオ通話なんて、どうかしたの?』
勝幸「あー……それなんだが…………」
俺は言葉に詰まる。流石に親相手だと中々言いづらい。もしかしたら反対されるのかもしれないと思うと、この事を報告したくないという感情も心の中に生まれる。
でも、そうやって周辺が認めてくれなければ、生活する事は不可能だ。こっそり関係を隠して生きていく訳にもいかない。
だから、色々な人の、特に今は親の承認を得る必要がある。その為には、ここで勇気を出す他ない。
勝幸「じ、実はさ……こないだ家出していた女の子と出会って…………それで、その……色々あって俺の家に住まわせる事になったんだけど、その………………」
途切れ途切れで、そう告げる。今の俺は、端から見たらどんな風に見えるのだろう。
一生懸命に伝えたつもりだが、分かってくれるだろうか。その答えは
勝幸母『えっと、どういう事…………?』
勝幸「あ、あぁ…………なんなら実際に顔合わせる方が理解が早いよな…………ちょっと、来てくれ」
そう言って、俺は風葉を呼んだ。言葉で全てを済ませるのはキツすぎた。
少し横に体をずらして、2人で画面に映る。一方でスクリーンの向こうでは、当惑した親が何とも言えない表情で映っている。
風葉「えっと……中津川風葉と、申します」
勝幸母『あ、こんにちは。勝幸の母の
勝幸父『父の
一通りの
画面の向こうでは、父親と母親が顔を見合わせ、困惑した様子を見せている。小さくて聞こえないが、何かを話しているみたいだ。
勝幸父『よく分からないが、本当にその子と住む事になったんだな……?』
勝幸「あぁ、そうなんだ」
勝幸母『えっと………………状況が理解出来ないから、まずはどうして一緒に住むという話になったかを教えてくれる?』
母親は、落ち着いた様子でそう言った。
2人共、決して怒っている様子には見えないが、俺の親は表情のコントロールが上手いので、内心怒っているのではないかと、少しビクビクしている。このまま理解を示してくれればいいのだけれど。
一方で風葉には、親譲りのポーカーフェイスのお陰で、そんな俺の様子には気付いてないみたいだ。
ありのまま、彼女は
家族間で上手くいかなかった事、その結果家出した事、その先で俺と出会った事、和解して親が離婚した事、そして一緒に住めるようになった事。
10月22日からの長いストーリーを、時折俺にも振りつつ、
勝幸母『成る程ね……つまり、引っ越ししたらいつでも同居が出来るって訳ね?』
勝幸「そうだね」
勝幸父『了解。じゃあ……話を聞きながら考えてた質問を幾つかしていいか?』
俺は頷く。
親が
勝幸父『この事は誰が知ってるんだ?』
勝幸「今、理愛華とヒカリと利根ちゃんが家にいる。後は流星位しか知らないな」
淳一「あ、親父さんこんちは。利根です」
勝幸「うおっ⁉︎お前ら突然割り込むな‼︎」
気付くと、利根ちゃんが俺の風葉の間から顔を覗かせていた。彼の存在に気付いて振り返ると、後ろには理愛華とヒカリもいた。
勝幸父『おっと、皆さん久しぶりに顔を見たな』
そう言いながら、父親は画面の先で小さく笑みを浮かべた。
理愛華は勿論、利根ちゃんやヒカリとも数年前からの仲なので、俺の親とはお互いに知り合いでもある。
ヒカリ「あの〜、いしずーは色々と考えて行動した結果がこれみたいなんで、大丈夫だと思いますよ」
理愛華「大丈夫です。私も、決して反対はしてません」
大丈夫。親との対面に緊張や恐れがある俺にとって、その言葉は心強かった。こいつらが本当に俺を信用してくれている事が、とても嬉しい。
その言葉を聞いて、俺の父親も頷く。
勝幸父『そっか、分かった…………じゃあ次、金はどうするんだ?』
勝幸「理愛華の方から出してくれるらしい。俺は自分の生活費を考えるだけで良いとさ」
勝幸父『そうなのか⁉︎そりゃあ、何だか申し訳ないね………………』
理愛華「いえ、私なら金はありますし、父も許可してくれました」
勝幸父『成る程ね…………ありがとう。それじゃ、次だ』
こうして次々に質問が飛ぶ。
俺は淡々と答えてはいるものの、いつか答えられなくならないかと心配していた。
これは何の為なのか。俺の行動に指摘をする為か、俺の覚悟を知る為か、それ以外の思惑があるのか。質問に答えつつも、そんな事を邪推していた。
勝幸父『……じゃあ、次』
俺の父親は腕を組み、一瞬考えて質問する。
勝幸父『これは風葉ちゃんに対する質問でもあるけど……何をして生活するんだ?勝幸が大学とかに出掛けている間、1人で何をするつもりなんだ?』
風葉「えっ………………」
俺も言葉に詰まる。
先程のヒカリの質問に似ている。俺と風葉の共同生活における本質を問うものだ。
そう言うのは、じっくりしっかり考える必要があると思う。とは言え、何も決めないで住み始める訳にはいかない。
引っ越し以降に風葉がやるべき事は何かあるか。少し考える。俺がいない間、彼女が家で1人で出来る事を。
風葉「えっと…………」
勝幸「父さん、最初のうちは家で荷物の整理をさせるよ」
風葉「勝兄……」
パッと思いついたものだが、どうなろうと最初にやらないと始まらない事を答える。
勝幸「それで暫くは時間がかかる。その間に、風葉の役割だったり仕事を決めていくよ。住まないと分からない事もあるだろうしね」
即席の理由ではあるが、しっかり考えてもこの事は変わらないだろう。まずは整理、そこからしっかりと決めていく必要がある筈だ。
勝幸父『そうか………………ま、取り敢えずは大丈夫そうだな。質問もこの程度にしとく』
父親は前屈み気味の姿勢を後ろに戻した。表情も少し穏やかになったように感じる。よく見ると、少しばかり微笑んでいるようにも見える。
何とか質問を乗り切って、少しホッとした気分になる。
勝幸母『お母さんは特に何もないよ。頑張ってね』
勝幸「え、許可してくれんのか?」
勝幸母『勝幸の事なんだし、自分でしっかり考えて決めたなら反対はしないわ。きっとお父さんも同じだよ』
父親のあの表情は、了承の意図があったようだ。これで、双方の両親からの同意が生まれたので、気にせず生活を始める事が出来る。
両親が理解を示してくれた事には感謝しないとな。
勝幸「…………ありがとう」
勝幸母『なーに、大した事はしてないよ』
そう言って母親は微笑んだ。
これで、風葉が同居する為の手立ては出来た。新たな生活が決まった、1つの瞬間だ。
親が認めてくれた事は大きい。これで今のところは、特に反対や障壁はない状態をキープ出来た。
でも、大変な事が待ち構えている事に変わりはない。年頃の少女と家を同じくするのに、全て
勝幸母『それじゃあ……』
ふと、母親が切り出してきた。
画面の向こうから、真っ直ぐ俺達に視線を向けている。
勝幸母『次は理愛華ちゃんに変わってもらおうかな』
理愛華「えっ、私………………?」
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