第17話 ノーブルな彼女
理愛華の発言に、中津川家の面々は表情を変えた。
風葉父「社長令嬢って………………」
言葉の通り、理愛華は社長令嬢だ。
それしか、今の俺には言えない。
風葉母「でも、一口に社長令嬢って言ってもピンからキリまであるじゃないですか」
理愛華「まぁ、そうですね」
確かに、どんな大企業でも中小企業でも、その会社の社長の娘は同じ社長令嬢という言葉に
しかし、俺の彼女は想像を絶する身分なのだ。
理愛華「それで、私なんですが……実は、高槻電工の娘なんです」
重みのある言い方だった。
風葉の両親から、声にならない何かが発せられる。信じられないという驚きの様子が見られるのは言うまでもない。
風葉父「高槻電工って……あの…………⁉︎」
理愛華「はい。ここ数年で総資産は100億を大幅に超えて、東証一部上場も達成しました」
理愛華はそう続けた。社長の娘という立場としての、堅い言い方で。
彼女の家系が経営する高槻電工は、彼女の父親で三代目となる株式会社である。
合成樹脂や合成繊維、ファインセラミックス等、化学工業において広域な分野で高性能な製品を製造している。
創業から数十年でコンスタントに売上を伸ばし、広告等で多くの人に一般に知れ渡る大企業へと成長した。そして彼女の言った通り、東証一部に上場し、上場企業の中では少ない方ではあるが、100億を超える総資産も持っている。
そんな令嬢と俺がどうして恋人なのかというのは、様々な経緯があるので、またいつか話すとしよう。
風葉母「どうしましょう……‼︎あんな大企業のご令嬢なんて、
理愛華「あ、えっと、そんな……」
さて、そんな企業の娘と知った風葉の両親だが、ただただ驚くばかり。でも、こんなあたふたしている姿に、実は理愛華は対応に困っていた。
大企業の社長令嬢とアウトプットして驚かれる、というシチュエーションは慣れているものだと俺も昔は思っていた。
勝幸「あまり言いたくないって、言ってたのに………………」
理愛華「…………うん。でもね、それでも言う必要があると感じたの」
でも彼女は、色々理由があるらしいが、自分の身分をあまり
逆に言えば、そうやって自分から告げるというのは俺から見ても非常に稀で、その告白はその人に対して何かを許し受け入れるような、一種の信頼や覚悟の証でもあるんじゃないかと思う。
理愛華「えと、それで……よろしいでしょうか」
風葉父「あ、あぁ。信じられないが……信じない事には始まらないな」
きちんと座り直して、風葉の父親は理愛華の方を向く。
理愛華「風葉の生活費は……こちらで負担する事でよろしいでしょうか。1人分の生活費なら、きっと父も首を縦に振ってくれると思うますので…………」
風葉父「勿論、願ってもない事です」
理愛華「ならば、その方向で進めていきます。ただ、一応は許可を得てから正式に決定させて頂きますね」
風葉父「………………本当に、ありがとう」
その後、今後の予定や風葉が使う生活費、彼女との生活方針といった、これからの生活に向けた話し合いをした。
お互いの負担の兼ね合いを考えつつ、風葉の
まずは、準備をしっかりしておこう。
引っ越しは半月程後になるだろう。それまでに、風葉のパーソナルスペースを決めて、いつでも引っ越し出来るようにする必要がある。
それだけじゃない。暮らしていく上でのルールや、家での役割分担など、しっかり話し合って決めないといけない事も多い。
いつまで一緒に生活するか分からないので、じっくりと話し合って、生活が
勝幸(まぁ
かくして話し合いはひとまず終わりとなり、俺と理愛華が帰る頃になった。
風葉父「今日はありがとう。また迷惑をかけるけど、その時は宜しくお願いします」
理愛華「勿論です。私も勝幸を精一杯手伝いますので」
風葉母「沙弥果〜‼︎2人に挨拶するなら来なさ〜い‼︎」
風葉の両親と理愛華は立ち上がり、先に玄関へと歩き始めた。
俺も続くように立ち上がって軽く伸びをすると、俺は隣の風葉の方を向く。いつもと変わらない様子なのに、気持ち嬉しそうにも見えた。
彼女を見てると、俺も少しばかり表情が柔らかくなる。自分の笑顔で他人までも笑顔にさせてしまう。それが彼女の力なんだろう。
そんな風葉の姿を見て、ふと、俺は呟くように言う。
勝幸「風葉……色々あると思うけど、暫くしたら宜しくな」
風葉「………………うん‼︎」
≪≫
駅で買ったパンを食べながら、俺と理愛華は帰りの電車に揺られていた。
風葉は金曜の午後に、俺の家にもう一度来る事になっている。彼女の家具類のスペースの確認をするつもりだ。
こういった話をすると、風葉と一緒に住まうという事実が現実的に実感出来るようになって来た。
よくよく考えてみると、よくここまで
勝幸「………………ありがとな」
俺から思わずそんな言葉が
確かに、理愛華は自分から喜んで俺に協力してくれた。でも、それが俺にとって大きな支えになった事は紛れもない事実だ。何せ、彼女である理愛華が許さなければ、俺と風葉の同居は実現しなかっただろう。
理愛華「……どうしたのよ、突然」
勝幸「いや、深い意味はないんだ。別に気にしなくていいよ」
理愛華「そう……だけどこれでも私、感謝して欲しいんだよ?」
横目で俺を見ながらそう言って、理愛華はパンに一口かぶりつく。
勝幸「……えっと、ありがとう以外に、何て言えばいいんだ…………?」
言葉に困って、俺は頬を
理愛華はパンを飲み込むと、こっちを向いて、わざとらしい様子で答える。
理愛華「そうだな〜……『理愛華大好きだよ』とか?」
勝幸「いやぁそれは恥ずかしいわ……」
そんな彼女に、不覚にもドキッとしてしまった。
勝幸(まぁ……ここまで協力してくれたんだし、一言言うだけなんてお釣りが出る程安いか)
機会があったら言うか、と心の中で呟いて、俺は正面を向き直した。
そしてパンを食べ終えて、理愛華は口を開く。
理愛華「ねぇ、この件は誰に話そうかな」
勝幸「そうだなぁ……」
そうだ。風葉の事を誰に話すか、というのも重要な事だ。
現時点で、この事を知ってる第三者は流星しかいない。
あまり広めて悪い噂が
勝幸「少しずつ……親密な奴らに話していく感じかな…………」
理愛華「まぁ、そうだよね」
一緒に住まう事はほぼ確定事項なので、全ての人にはぐらかす必要はない。先も長いし、ゆっくり、少しずつ説明していけばいい。
さて、最初は誰にしようか……
理愛華「じゃあ、あのお二人さん辺りから話していく?」
ふと、理愛華がある2人を提案してきた。主語は明確ではないものの、俺には誰の事か理解出来た。
勝幸「お、あいつらか。お前も宜しく」
理愛華「うん。風葉がいる方がいいから、金曜日かな?」
勝幸「そういう事になるな」
そう言って、俺は目を閉じる。
人生が変わった10月末の火曜日は、沈みに向かう太陽と共に終わりに近づいていた。
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