透明人間 空っぽの教室

休み時間。


教室の真ん中、自分の座る席で、ふと両手でそれぞれの耳を覆ってみる。


指の隙間から漏れ出した音が、私の耳に伝わる。だが、それらは覆った手のせいで、雑音にしか聞こえない。言葉は形を失い、雑音と化してしまっている。



休み時間、10分。

先生に礼をしてから、次に礼をするまで、何もせず、ただ自分の席で座り続ける。


何をしているか、これは、突発的な好奇心から生まれたものだが、「10分の休み時間の間に、自分に声をかける人は何人いるのか」という調査的なものだ。


「自分を頼ってきてくれる人は何人いるのか」

「自分を必要としてくれる人は何人いるのか」

「私がいなければいけない人は何人いるのか」


期待は膨らんだ。だが、それを裏切るかのように、誰一人、私に話しかけてくる人はいなかった。


まるで、透明人間のようだ。まるで、空気のようだ。

「本当は、誰にも自分は見えていないのかもしれない」「今、自分は本当にこの場に存在しているのか」と思わせるくらいである。


そして、その事実が分かってから、私は周りの声を聞きたくなくなった。私に必要ない言葉なんて、聞きたくない。雑音なんて、いらない。


耳を覆って塞いで、静かな自分の世界に行きたい。



耳を覆って塞いで、来た自分の世界は、とても静かで、自分一人だけが教室の真ん中で座っている。


だが、最後にはそれにも耐えられなくなって、私は消えてしまう。


寂しい、寂しいよ……。


残るのは、空っぽの教室だけ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る