第35話誕プレ選び1

俺は、隣の椅子に腰掛けたのを確認し、紙箱から苺のショートケーキとスプーンを出して真瀬の前に置いた。

「香河先輩のじゃあっ」

「真瀬さんのだよ、これは。夏花から好きだってことを聞いて......まあ、部活しながらバイトしてるっていうの。すごいなと思って、そういうこと」

「本当に良いんですか?いただいても」

「良いよ。心配しなくても。夏花が機嫌を損ねたときにアドバイスくれたでしょ、そのお礼できてなかったし。不満なら他に──」

「ありがとうございます、香河先輩っ。律儀ですね、あんな些細なことのお礼なんて。不満はないです。その......この後、わた、しぃぃっとぉー、付き合ってくれませんか?」

「はっ、はああっ!なっなに言ってんの、真瀬さん!付き合ってって、夏花のことを裏切っ──」

動揺で店内に響き渡る声で叫んでしまった俺。

「ちっちちぃ、がいますっ!誕プレですっ!夏花の誕プレ選びにってぇ、ことですぅっ!」

俺の言葉を遮り、叫びながら否定した真瀬。

「えっ......?た、タンプレ......?なつ、か......の、ということは誕生日って近いの?夏花のって」

俺の反応に真瀬が驚きの声をあげた。

「えっ?香河先輩、知らないんですか?夏花の誕生日を。じょうだ......えっ、否定しない?みっ、三日後ですよ、夏花の誕生日。もう~あのバカはぁ~ほんとっ。あ......ご、ごめんなさい。香河先輩の前で言うつもりはなく、て......」

「いや、良いよ。謝らなくても、気にしてないから。三日後か、夏花の誕生日は。夏花が好きな物なら真瀬さんがよく知っているんじゃないの?俺が困るよ、誕プレなんて」

「友達には見せない表情かおなんてざらにあるはずですよ。恋人ほど親密にはないですよ、友達なんて。仲良しではあっても、からかわれたことなんて一度もないです。香河先輩みたいには。恋人の香河先輩以外には見せない夏花の表情かおを知りたいんです、私は」

「ど、どうしたの?真瀬さん、怖いよ。そんな低い声出して、何かあったの?」

「えっ?何でもないです、いつも通りですよ。誕プレには何をあげたら喜んでくれますか?夏花は」

「......ああっと、アニメ好きってことは知ってるよね?」

「好きとは言ってますけど、アニメの話題はしてこないです。どんなアニメを観てるかは、よく知らないです」

「あっ、そうなんだ。今のは忘れて、真瀬さん......他だと──」

俺の前ではアニメのことを熱く語ることがあるが、真瀬にはアニメの話題をしないとは。夏花が話題にするのは──。


真瀬の言う通り、俺が知る夏花の数え切れない表情かおは友達である真瀬が知らないということが幾つかあった。


バイトを終えた直後に真瀬と誕プレを買いにショッピングモールに向かうことになった。







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