第三十話 鎧袖一触
激しい地響きを起こしながら砂煙を上げて、岩石竜は中央広場の石床に倒れると、仰向けになってひっくり返った。
「さくや殿!」
ブラックエンジェルが機械犬を肩に乗せて、キャリーバックを抱えて駆けつけてきた。
「一撃で倒すなんて、さすがです」
「まあね、もっと褒めて褒めて」
ふふん、と腰に手を当てて笑うホワイトエンジェルは得意げな顔をする。
「それに魔法少女ってすごいです。体が軽くなって素早く動けるし、力がみなぎってくる。空だって飛べそうです」
「純真無垢な女の子が変身すると無敵で素敵な女の子になれる。これが、魔法少女なんだよ」
「そうなんですか。ほんとにすごいですね、魔法少女って」
「まあね~」
えへん、とホワイトエンジェルは胸を張って威張ってみせた。
「喜んでいるところ悪いが二人とも、気をつけろ」
機械犬の真剣な物言いをしたとき、辺りが薄暗くなった。
ホワイトエンジェルとブラックエンジェルが思わず見上げると、三体の岩石竜が広場の上空を旋回しながら飛んでいるのがみえた。
一匹ずつ滑空して羽ばたきながら広場へと舞い降りると、ずん、ずずんと辺りに衝撃が響きわたった。
「こいつらが協力して襲ってくるなど聞いたことがない」
「現実に打ちのめされるときこそ事実を受け止めるべきだよ、イヌ。でなければ、自分を認めることができなくなる」
ホワイトエンジェルは自分自身にも言い聞かせつつ言って、身構えた。
岩石竜が三体同時に口を開け炎を吐き、鼻からは煙を吹く。
「ひょえええええええええええええええええええええええええ~っ」
ホワイトエンジェルにしがみつく機械犬が奇声を上げる中、咄嗟に二人はアンブレラを開いた。
アンブレラから光がほとばしり、炎の直撃を防ぐ。
展開された光の障壁により、アンブレラが燃え上がることもなく、二人に熱すら伝わってこなかった。
「この傘、すごいですね」
「だけど、このままだといずれ、炎の餌食になりかねない。どうするか……」
ホワイトエンジェルは周囲に目を向ける。
狭い路地裏では逃げ場がない。
だとすると……。
「大通りに出よう」
ホワイトエンジェルの言葉にブラック・エンジェルは頷いた。
それじゃ、としがみついている機械犬をブラックエンジェルに手渡したホワイトエンジェルは、ブラックエンジェルの背中を軽く押した。
「行きます」
「あわわわわわああああああああああああああああああああーっ」
全速力でブラックエンジェルが機械犬を抱えて疾走。
ホワイトエンジェルは、その後をキャリーケースを担いでついていく。
二人の後ろを、三体の岩石竜が石畳の通りを蹴るように走りつつ追いかけてきた。
ドッドッドッと地響きを上げて、王都の中央広場を走ってくる。
「この先には城門があります。そこを抜けたら城外へ出られます」
「だったら、この辺りでいい」
ホワイトエンジェルは飛び上がると、ブラックエンジェルも同時に飛び上がった。
くるりと振り返って二人は着地。
ホワイトエンジェルは、すかさず足元にキャリーケースを転がした。
「わたしの真似をして!」
「はい、ホワイト殿」
ホワイトエンジェルはブラックエンジェルの手を握り、左手に持つアンブレラの先を突き上げた。
言われるまま、手を握り返すと右手に持つアンブレラを空へと突き上げる。
たちまち頭上の空に黒い雲が湧き上がり、雷が落ちる。
列をなして三体の岩石竜が迫ってきた。
帯電して迸るアンブレラの先端を、迫りくる岩石竜に差し向ける。
「鎧袖一触、ダブルライトニングスパークル!」
二人は叫び、ワンタッチボタンを押してアンブレラを開いた。瞬間、一閃の雷撃が放たれた。
強固な岩石の体を次々に貫いていく。
砕け散る肢体が周囲に飛び散り、建物や城壁の一部を破壊していった。
一瞬で三体の魔獣を撃滅したのを目の当たりにしたブラックエンジェルは、呆然と立ち尽くしていた。
「……わたしが、やったの?」
「わたしたちが、王都を救ったんだよ」
ホワイトエンジェルに肩を叩かれてブラックエンジェルは我に返り、ようやく肩の力が抜けた。
「魔法少女とは、本当にすごいのですね」
「そうだ、すごいのだ」
ホワイトエンジェルの笑顔につられて、ブラックエンジェルも笑った。
キャリーケースの傍から機械犬が、ひょっこり顔を出す。
「一撃で三体同時に撃滅とは恐れ入った。とはいえ、喜ぶのはまだ早そうだぞ」
「イヌ、なに言ってるの。岩石竜は倒したでしょ」
「そうですよ、機械犬殿。王都を見渡しても、どこにも岩石竜の姿はありません。あれだけの大きさですから、他にもいるなら気づきそうなものです」
高くそびえる城壁に囲まれた王都のあちこちで建物が倒壊し、城門の近くの城壁に大きな穴が開いて崩れていた。その穴から街道が見え、青い旗を掲げて甲冑を身に纏った一団が近づいてくる。
機械犬が、ホワイトエンジェルの頭によじ登る。
「ちょっと、イヌ。どうしたの?」
頭の上にたどり着くと、機械犬は二本足で立ち上がり、目を細める。
「あの旗色、間違いない。敵国軍の侵攻だ」
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