5 Wars are caused by undefended wealth.

第二十九話 ブラック&ホワイト

 空を突き刺すいくつもの高い尖塔がそびえ、どっしり重量感に溢れた石造りの建造物が立ち並んでいる。特徴的な尖頭アーチに大きな窓があり、幻想的なステンドグラスは眼を見張るものがあった。

 そんな王都の街並みを破壊しながら、岩石竜が練り歩いていく。

 翼の生えた両腕を大きく振るたびに長い尻尾が揺られ、石造りの建物が崩れていった。

 路地裏の物陰に隠れて閃星銃を構えるリョーマは、通り過ぎるのを見送って、背後を狙って引き金を引いた。

 命中はするものの、分厚い岩石に似た皮膚に弾かれていく。

 致命傷はおろか、傷一つつけることもできなかった。


「爆裂弾も効かないなんて」


 全弾撃ち尽くしたリョーマは、キャリーケースに腰掛けながら両手で頬杖をついている夢野さくやに目を向ける。


「さくや殿、なにか策はありますか?」

「イヌの話だと、王都の地下には避難所があるんだって。ジェット機並みの竜が襲ってくるなんてマジ異世界。わかんないことは、イヌに聞いて」


 さくやは自分の肩に乗るAIBO姿の機械犬を掴むと、リョーマに突き出した。


「こんな姿でなく、愛用のドッグセイバーがあれば、岩石竜なんて簡単に倒せるのだが……見てのとおり、外皮は岩石のように硬く、あらゆる攻撃を受け付けない。比較的柔らかいのは目や口、首と腹だ」

「正面から攻撃しないといけなかったんですね」


 閃星銃の回転式弾倉を確認するリョーマは、舌打ちをした。


「だが、正面からの攻撃は危険だ。やつはあの図体で空も飛ぶし、火炎液を吐く」

「なるほどね」


 さくやは息を吐いて立ち上がる。


「火炎放射みたいに火を吐くのね。ファンタジー世界のドラゴンのお約束ってわけか」

「さくや殿、なにか秘策を思いついたのですか」


 リョーマの問いかけに、さくやは機械犬をキャリーケースの上に置いた。


「イヌはキャリーケースを見てて」


 機械犬は顔を上げてサクヤとリョーマを見上げる。


「わかった。それで、どうするつもりだ?」

「ひとつ、試してみたいことがある。これにはリョーマの協力がどうしても必要なんだけど」


 さくやは微笑みながら、顔を近づけ耳元に囁いた。

 おもわずリョーマは聞き返す。


「できることなら協力しますが……そんなことできますか?」

「たぶん大丈夫、できるって。わたしの真似をして叫んでもらえばいいから」

「それくらいなら……」

「よーし。それじゃあ、やってみようか」


 さくやはリョーマの左手を右手で握り、左手を空に向かって高く伸ばした。


「リョーマもやって」

「は、はい。こうですか?」


 リョーマはさくやの右手を握り返し、右手を空に向かって高く伸ばした。


「それでは、ご唱和ください。変身もに☆」

「変身もに☆?」


 さくやの全身がまばゆい光に包まれる。同時に彼女の右手を握るリョウマの手、腕、肩と飲み込まれていく。


「え、えええ、な、なんですかーっ」


 何が起こっているのかわからず声を荒げるリョーマの全身も、光に覆われていった。

 着ていた黒のヘッドドレスやワンピース、オーバーニーソックスが一瞬にして消えた。

 白いレースのスリップ姿になると、かかと辺りにリボンで結わえる光沢のおびたヒールパンプスとフリルレース付きのニーハイソックスに両脚が包まれていく。

 続いて両手が、肌が透けるほど生地が薄く上品に華やいだレースのアームカバーに覆われ、ノースリーブ燕尾ワンピースを纏っていく。

 リョーマの腰にだけベルトが巻かれ、閃星銃が挟まれる。

 さくやとリョーマの顔が、卵のようなスッキリとした顔立ちになり、艶のある白い肌へとメイクされていく。

 上まぶたにブラウンのアイシャドウが入り、下まぶたの涙袋にもおなじアイシャドウが入り立体感が出ていく。黒のアイライナーが目尻の外側まで引かれていった目には、愛らしい子鹿みたいな長い睫毛が現れた。

 少し濃い目で柔らかいブラウンで眉毛が引かれ、吸い込まれるような魅力ある瞳に変貌。鼻筋が通っている。ぷっくりとしていて張りと弾力がある頬にほんのりピンクのチークが入る。鼻と口の距離は短く、ぷりっとした唇にチークと同じピンクのリップになっていく。

 笑顔がこぼれると、歯並びが良くて清潔な白い歯になっていた。

 一気に髪が伸びた瞬間、さくやは銀髪に、リョーマは暗髪に、根本から色が変わった。 

 右と左に分けられた長い髪が、それぞれに大きく練れていく。耳の上辺りでまとめられたツインテイルの毛先がくるくると縦巻きに巻かれていった。

 頭には小ぶりな白薔薇のヘッドドレスが飾られ、最後に頬にほんのり赤くチークが入った。

 まばゆい光が消えたとき、アンブレラを片手に、ロリィタ服に身を包んだ魔法少女が立っていた。


「魔法少女ホワイトエンジェル」

「魔法少女ブラックエンジェル……え?」


 思わず口走った自分の言葉に驚き、リョーマは口に手を当てた。


「二人そろって、魔法少女ダブルエンジェルの誕生ね」


 いししし、と歯を見せて、純白のロリィタ姿の魔法少女ホワイトエンジェルに変身したさくやが笑う。


「リョーマの黒髪は艶や深みのあるね。しかも漆黒のロリィタ服なんだ。ゴスロリじゃなくて黒ロリね」

「口が勝手に喋ったんですけど……なんのことやら。わたしも魔法少女になったんですか」


 いつの間にか、リョーマの手には黒いアンブレラが握られていた。


「思いつきでやってみたけど、案外うまくいくものね。それでは、魔法少女の先輩として、一つお手本を見せてあげましょう」


 物陰から飛び出す魔法少女ホワイトエンジェルは、広場に向かっていく岩石竜を追いかけた。

 軽く飛び上がれば、上空に暗雲が立ち込め、稲妻が走る。

 一気に空高く舞い上がっては身を翻し、叫ぶ。


「一撃必殺、ホワイトライトニングパーンチッ」


 岩石竜の脳天に直撃した。

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