048 限界と本心


 そう言った静樹の顔には、決意と不安と、それからすがすがしさまで浮かんでいるように見えた。


「……いいのか?」


「……考えたんです。このままにしていたら、どうなるか」


 静樹の向こうにある窓の外で、雪が舞っているのが見えた。

 降り出したことに気がつかないほど、俺は静樹の話に、意識を奪われていたらしかった。


 『このまま』。


 学校で普段とは違うキャラを続けて、派手ガールズと一緒に過ごす。

 それが静樹の言う、『このまま』だ。


「自分を偽って、みんなを騙し続けていても、きっとすぐに限界が来ます。いいえ……もうとっくに来ていたのに、誤魔化していただけなんです。どんどん後戻りができなくなって、つらくなるだけなんです」


「静樹……」


「わかってます……。もとはと言えば、悪いのは全部私です」


「……」


「……外見や言葉遣いだけで、内面までは変わりきれなかった、私が悪い。中途半端に変わろうとして、仲良くしてくれる真理子ちゃんたちを振り回してる、私が……」


 言いながら、静樹はゆっくりと抱きついてきた。

 俺の胸に顔を埋めて、しがみつくように服を掴んで、呼吸を震わせている。


 俺も、静樹の身体を腕で包んだ。


「全部私が悪いんです……! でもっ……もうつらくて……。私は、普通の私に戻りたい……!」


 その絞り出すような声で、俺は思わず静樹の背中を撫でる。


 それでも足りなくて。

 自分にも、静樹にも足りないような気がして。

 今度は頭に手を当てて、思いっきり抱きしめた。


「楽しいんです……! 蓮見くんと一緒に……南井さんや、仙波くんと一緒にいる時間が……本当に楽しくて、幸せで……!」


「……うん」


「思ってしまうんです! ああ、これが友達なんだって……! 毎日がこんななら、どんなにいいだろうって……!」


「……そうか」


「でも……! ユカちゃんも真理子ちゃんもミキちゃんも、みんな優しくて! とってもいい人たちで! ……ただ、私がバカだから……。本当にバカだから……こんなことになってしまって……!」


「わかってる。……わかってるから」


 静樹は、今度こそ泣き始めた。


 だんだんと、なにを言ってるかもわからなくなって。

 それでもやっぱり、俺にはその言葉にならない言葉の意味が、わかってしまって。


 叫び続ける静樹を、俺はずっと抱きしめていた。


 静樹にはきっと、こういう時間が必要なんだ。

 こういうことができる相手が必要で、その役目は今、俺しかいないんだ。


「蓮見くんっ! 私……怖いですっ! 不安ですっ! 逃げ出したいですっ!」


 そして、俺だって。


「……そうだな。でも、頑張るんだろ? 俺がついてるから。ちゃんと……一緒にいるから」


「……蓮見くんっ! 蓮見くんっ! 私は……っ! 私ぃ……っ!」


 俺だって、静樹を助けてやりたかった。

 そばにいて、支えてやりたかった。


 それは勝手な気持ちなのかもしれない。

 でも、そうしたいんだ。


 その理由だって、もう俺にはわかってる。

 いつまでも、見ないフリはできない。


 俺は、静樹が。


「大丈夫だよ。みんなわかってくれるさ。お前は、そんなにいいやつなんだから」


 静樹のことが、どうしようもないくらいに……



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お気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、もうすぐ完結します……!

よろしければ、最後までお付き合いください。

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