034 後ろめたさと仙波春臣
「モテると言えば!」
南井がまた大きな声を出す。
南井の声には妙に張りがあるので、ざわついていてもよく通るのだ。
「静樹ちゃんって彼氏いないの? 絶対モテるよね!」
「えっ! い、いないよ! いたこともないし!」
「えぇーっ! うそぉ!」
「でも聞かないよなぁ、付き合ったって噂。玉砕したやつの話はたまに聞くけど」
「あー、ちょっと前もあったよねぇ」
ふむ。
春臣が言っているのは、おそらく前に静樹に聞いた、告白してきた男のことだろう。
俺が知らなかっただけで、どうやらリア充の間ではそれなりに知られた話らしい。
「なんで付き合わないの? モテるのにー」
「えぇ……えっと……。な、なかなかいい人がいなくてさー……!」
「へーぇ。真面目だねぇ、静樹ちゃん」
「えっ……そ、そんなこともない……けど」
静樹は見るからに困っていた。
なにを考えているのかわかる気がするぶん、少し気の毒になる。
「いやいや、あたしの目はごまかせないよー! 今日一日でわかったもんね! 静樹ちゃんはそんなイケてる雰囲気出しつつ、根はきちんとしてる真面目ギャルだ!」
「ま、真面目ギャルって……」
「わかるぞ南井ちゃん。俺も静樹さんの真面目さには、前から目をつけてたからな」
「うわぁー、仙波くん、ちょっとキモい」
「も、もう……仙波くんまで……!」
静樹は、きっと恐れているんだ。
自分の言動が、派手ガールズとしてのイメージから
春臣と南井が、違和感を持たないかどうか。
それを気にして、萎縮している。
「あれ、悠雅っちーどうしたの? 怖い顔して」
「……いや、べつに」
「んー……?」
今さらだが、静樹を誘ったのは失敗だったかもしれない。
来ると決めたのは静樹本人だとはいえ、俺の想像力が足りなかった。
こうなるとあらかじめわかっていれば、もっと配慮できたのに。
俺は静樹への後ろめたさで、顔を上げられなくなっていた。
「そ、それよりさ! 今度は仙波くんのことも聞かせてよ! ち、違うクラスだし!」
「お、静樹さんが俺に興味を持ってくれるとは」
「怖いもの見たさだよねー、静樹ちゃん」
「そ、そういうわけじゃ……あはは」
「まあでも、仙波くんにはあたしも聞きたいことあるんだよねー」
「なんだよ、南井ちゃんまで」
いつの間にか、話題は春臣の方に移っていた。
静樹の顔に安心の色が戻ったように見えて、思わずほっとしてしまう。
「仙波くん、評判最悪だからねー。本人的にはどうなのかと思って」
「誰からの評判が悪いんだ?」
「男女問わず」
「やっぱりそうか」
春臣は気楽そうに笑った。
自分の立ち位置をしっかり分かってるところは、こいつの良いところだな。
「ちなみに、なんて?」
「性格悪い。女たらし。むかつく」
春臣はまだ笑っていた。
平気で敵を作って、それでも呑気に飄々としている。
知り合った時から、こういうやつだ。
「静樹さんも、俺のそういう話、聞くか?」
「えっ! ……えっと、うん。と、時々ね!」
「なるほど。実際はどうだった?」
「んー……。意外と、悪くない」
「うん。……いい人だね、仙波くん」
「はっはっは。だろ? 見る目のない連中には、勝手に言わせとけばいい」
「いや、性格は悪いと思う」
「悠雅だけには言われたくない」
「どっちもどっちだな」
俺が言うと、南井がおかしそうにケラケラと笑った。
春臣も笑う。
柄にもなく、俺も笑ってしまった。
けれど、静樹は。
「……」
静樹は、どこか思い詰めた様子で顔を伏せていた。
が、すぐに綺麗な笑顔になって、俺たちの輪に混ざる。
「蓮見くんは愛想無いからねぇ」
「お、静樹ちゃん良いねー!」
「もっと言ってやれー」
静樹は本当に楽しそうだった。
その様子を見ていると、俺は自分の心配や危惧が、まるで無駄なものだったんじゃないかと思えてくるようだった。
「そんなんじゃ友達できないぞー!」
「彼女もできないぞー、悠雅っちー!」
「諦めてるからいいんだよ」
「俺は諦めないぞー! そうだ! 静樹さんクリスマス空いてる?」
「あ、こら! ナンパ禁止ー!」
楽しさと、気やすさと、それから少しの不安。
そんなものを感じたまま、俺は解散の時間を迎えたのだった。
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