【9/22完結】配達男子と仮面女子〜出前バイトの少年、配達先でギャル系美少女の秘密を知る〜

丸深まろやか

001 美少女ときっかけ


 人間には、そいつの身の丈に合った生活、ポジションというものがある。

 そして高校一年生にもなれば、たいていのやつはもう、自分の立ち位置がすっかり決まってしまっているものだ。


「うわっ! 水織みおりの髪めっちゃ綺麗じゃん! さらっさら!」


「ホントだー。コンディショナー何使ってんの?」


 たとえば俺、蓮見はすみ悠雅ゆうがの場合。


 クラスにひとりも友達はおらず、いわゆるぼっちだ。

 が、これは俺の15年間の積み重ねによって、必然的に与えられた役割だ。

 要するに、もともと人付き合いが下手で、克服もしてこなかったのである。


 だがもちろん、だからといって現状を嘆くこともなければ、この立場から抜け出そうという気もない。

 飾らず、背伸びせず、ありのままのんびり過ごすことこそ、俺にとっての正義なのだ。


 今日も俺は教室の端で、慎ましく勉強をしている。

 これをもう半年以上も続けてきたのだから、バイトの履歴書の長所の欄に『継続力』と書いてもいいレベルだろう。

 まあ、短所に『ぼっち』と書くことになるので、たぶん書類で落とされるだろうけれど。


「えー、普通だよ普通! 安いやつ! 全然こだわってないもん!」


 そして、たとえばこのクラスの中心的存在、『派手ガールズ』の場合。


「うそーっ! じゃあ結局素材の差かー」


 教室の中央を陣取って、連中は今日も賑やかだった。


 際どい長さまで織り込まれたスカート。

 高校生にしては濃く見える化粧。

 怖いものなんてなにもなさそうな、堂々とした佇まい。


 まさにリア充、まさにギャル、という感じだ。


「そ、そんな! ユカちゃんの髪も綺麗じゃん!」


「あーん、みおりーん!」 


 そのやり取りを機に、派手ガールズが笑いに包まれる。

 クラスメイトたちの注目を浴びながらも、やつらはまったく気にせず、実に楽しそうにしていた。


 連中がクラスのトップカーストに君臨しているのだって、ごく自然なことだ。


「水織がいると、今度の合コン勝てる気しないわー」


「や、やめてよ! 絶対マリコちゃんの方が人気だって! スタイル良いしさ!」


 ところで、派手ガールズには俺のそのネーミングの通り、美人というより派手な女子が多い。

 もともとのリア充気質を、化粧と服装で強化している、と言ってもいいだろう。


 だが、やつらの中にひとり、『ホンモノ』がいる。


「スタイルは水織みおりだって良いでしょー。嫌味やめてよねー」


「ええ! ご、ごめんー!」


 そう言って、あたふたと身体の前で両手を振る女子こそ、ホンモノ、静樹しずき水織みおりだ。


 黒くて艶がありながら、ふわりとウェーブのかかったロングヘア、スッと通った鼻筋、透明感のある白い肌。

 まるで人形のように整っていて、クセのない超絶美少女。

 派手ガールズらしくバッチリ化粧で決めてはいるが、どことなく落ち着いた品があり、人あたりも良い。


 特に男子から絶大な人気を誇る、まさしくホンモノだ。


 そしてそんな静樹の存在は、俺をなんとも清々しい気分にさせてくれていた。

 やっぱり、人にはそれぞれ身の程というものがあるのだ。


 俺は自分の結論に改めて納得しながら、その日も何事もなく学校を終え、ひとりでのんびり帰路に着いた。


 帰ったらまた少し勉強をして、タイミングが合えばバイトにも精を出すとしよう。



   ◆ ◆ ◆



「イツイツでーす」


「お疲れ様でーす。オムライスセットお願いしまーす」

 

 慣れた様子の店員から商品を受け取り、専用のデカい箱に入れる。

 愛機のクロスバイクに跨って、配達先を目指した。


 『いつでもイーツ』、通称『イツイツ』。

 アルバイト契約に登録した一般人が料理を運ぶことで、もともと配達をやっていなかった店からも出前が可能になる、最近流行りのデリバリーシステムだ。


 そして俺は、このイツイツの配達員をやっている。


 仕事はいたってシンプルだ。

 スマホアプリに届いた配達依頼メールを見て、受注する場合はその料理を店まで取りに行く。

 それを注文した客の家に直接届ければ、案件は終わり。

 店から届け先までの距離に応じて、報酬が決まるという仕組みである。


「ふむ、ここを右かな」


 専用アプリの地図を頼りに、あまり通ったことのない街並みをスルスルと進む。

 長く急な坂をなんとか上り切ると、目的地らしきマンションがあった。

 想像していたよりも、ずいぶんと高級そうな外観だ。


 来客用の駐輪場に自転車を停めて、建物の中へ。

 401の部屋番号を入力して、インターホンを鳴らした。


『はい』


 若そうな女の声だった。


「イツイツでーす」


 俺が答えると、無言で玄関のオートロックが開いた。

 ドアをくぐってエレベーターに乗り、四階まで上がる。

 部屋の前に立って呼び鈴を鳴らすと、ドアの奥からかすかに足音が響いてきた。


 “ガチャリ”


「イツイツでーす」


 身体に染みついた、機械的な挨拶をする。

 開かれたドアの向こうに立っていたのは、さっきの声の主だと思われる女、もとい、少女だった。


 光沢のあるストレートヘアだが、前髪は目にかかるほど無造作に長い。

 化粧っ気のない顔にレンズの厚い眼鏡をかけて、かなり地味な印象だ。

 上がピンクで下が白いスウェットは、完全に部屋着なのだろう。


 ひとことで言うなら、けっこうなリラックス状態というか、だらしない格好だった。


 おっと、不要な観察はやめておこう。

 どうせただ、商品を渡すだけだ。

 さっさと済ませて早いとこ……ん?


 ……なんかこの顔、どっかで見たような……?


「ありがとうござい……ます……」


 俺と視線が合うと、少女は大きなアーモンド型の目を見開いて、どんどん顔を赤くしていった。

 直後、俺はこの少女とどこで会ったのか、もっと言えば彼女が誰なのか、はっきり気づいてしまっていた。


 化粧なんてなくたって、整いすぎた目鼻立ちで嫌でもわかる。

 こいつは……。


「……静樹しずき?」


「……蓮見はすみ……くん?」


 バタン、と音を立てて、ドアが閉まる。

 俺は頭を掻いてから、少し間を開けてまた呼び鈴を鳴らした。


 静樹って、家だとあんな感じなんだなぁ。




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最後までお読みいただきありがとうございます!

作中のバイト『いつでもイーツ』は、おおよそ『ウーバーイーツ』がモデルですが、細かいシステムやルールは異なります。

ご了承ください。

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