意地でも花を咲かせろ
帆貝梨香
意地でも花を咲かせろ
片思いと言うのは残酷だ。こっちばかり、相手を思ってバカみたいになる。特に、私の場合なんてひどいものだ。
相手はもう十年来の付き合いになる同じクラスの女の子、カンナちゃんだ。カンナちゃんは私のことをただの友達としか思っていない。
それもそうだろう。同性の相手が自分のことを恋愛的な意味で好きだなんて普通は夢にも思わないだろうし、私だってそんなことバレちゃいけないと思って、面に出さないように気を付けてきた。
それでも、彼女が同じクラスの男の子の話をするたびに、心が痛む。私のほうに目を向けてほしいと本気で思う。
「ねえ、良子ちゃんは好きな男の子いないの?」
「ええ……いない、かな……」
「うちのクラス結構イケメンいるんだからさあ、いい人一人くらいいそうだけどね」
そんなことを平気で言ってくる。私の思いも碌に知らずにどういうつもりなのか。イライラしてくる。
しかも、彼女は男の子にモテた。彼氏をとっかえひっかえして、その度に、のろけやら愚痴やらを私にぶつけてきた。
私としないことを、カンナちゃんは彼氏とした。男が、彼女の体に触れた。
考えるだけで吐きそうになる。考えるだけで頭が痛くなる。
こんな片思い、続けているだけ無駄だ。だけど、私は彼女を諦めるつもりはない。カンナちゃんは私の全てであり、彼女を失うのはそれ即ち、死を意味するからだ。ならば、どうするか。答えは最初から決まっていただろう。
意地でも、落とす。私がいなければいけなくなるくらい、私に依存させてやる。
そう、私は決心した。
十年間つもりに積もった思いは、私を突き動かし、どんなことでもやらせた。
まず、初めにカンナちゃんが好きと言っていた男の悪い噂を流した。違う高校の女の子複数と付き合っていると。
「ひどい話だよね」
「……私、彼のこと好きだったのに」
「男なんてそんなもんだよ」
「…………」
「ねっ」
「……うん」
そんな会話を繰り返して、男への不信感を募らせていった。何度も、何度も繰り返し、彼女の意識に刷り込ませていった。
だけど、それで男不信になってほかの女に逃げられちゃたまらないし、そもそも、異性愛者をおとすなんてそう簡単にできない。
だから、依存させる。
そのために、私はクラスの子たちがカンナちゃんをいじめるように仕向けた。
簡単なことだった。もともと、カンナちゃんはクラスでもかなりかわいいほうで、彼女のことを嫌いに思っていた女の子も多くいたし、カンナちゃんが結構繰り返し、彼氏をとっかえひっかえしていたところも、反感を買っていた。
だから、私がけしかけると、すぐに彼女は孤立していった。みんながカンナなんて女の子はうちのクラスにいないものとして扱った。
それに、男の子たちを寄り付かせないように、あんまり口では言えないような噂を流した。聞いたら吐きそうになる話だ。
そして、いじめは時が過ぎるにつれて、どんどんひどくなっていった。
あるときは、机の上に花瓶が置かれていた。また、あるときは学校に置いていた教科書が捨てられていた。
そんなことが毎日のように起これば、当然病む。周り全てが敵に見える。そして、そんな中で優しくされれば、人は簡単に落ちる。
もう、彼女の眼には私しか映っていない。どれだけいじめられていたとしても、ずっとかばってくれる私に依存していく。
正直、かわいそうだった。彼女の罪は私を愛さなかったこと。ただ、それだけだというのに。
けれど、同時に気持ちよくもあった。だって、時間が経つにつれて、あのカンナちゃんが私だけを求めてくるんだから。私しか見えないようになっていくんだから。
もうやめられない。もう引き返すことはできない。
そう感じたのはいじめが始まって一年が経ち、大学進学が決まったころだった。カンナちゃんは私と同じ大学を選び、そして、いじめは解決しないままだった。
大学に入り、私たちは同棲を始めた。というのも、カンナちゃんはもう、周りの目が怖くて、一人でいられなくなったからだ。
「これからも、一緒にいてくれる?」
「もちろんだよ」
カンナちゃんはもう私なしでは生きられない。自分をそういうふうにしたのが誰なのかわからないまま、カンナちゃんは首謀者と一緒にいるしかないのだ。
私のすること全てを受け入れるしかないカンナちゃん。そんな彼女に、私は、今九年間の片思いを果たす。
柔らかさを失った唇に柔らかな唇を触れさせた。
意地でも花を咲かせろ 帆貝梨香 @broccoli920
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