第26話 教室でもバカップルな僕たちとクラスメート

 じー、っとセシリーの顔を見つめてみる。


「どうしたの?」


 首をかしげる彼女。そんな様子も愛しい。


「いや、そんな風に首を傾げるのも可愛いなって」


「も、もうー。でも、キョウヤもカッコいいわよ?」


「どこかカッコいいかな?」


 イマイチ実感が湧かない。


「肩の辺りとか。キョウヤ鍛えてるなーって」


 少し頬を赤らめる彼女。肩かあ。


「女の子はそういう所見るって聞くね」


「脱ぐ時とか、そういうの見るとドキっと来ちゃう」


「何?そんな事、いつも考えてるの?」


「さすがにいつもじゃないわよ。朝起きた時に、ちょっと思い出しちゃうけど……エッチ」


「いや、何がエッチなのさ?」


 彼女は一体どんな妄想をしていたのやら。


「なんでも。それより、キョウヤ」


「どうしたの?何か」

 

 と言っている途中に、僕に抱きついてくる彼女。


「んぅ。温かい……」


 僕の胸に顔をうずめて幸せそうにする彼女。

 日向ぼっこをしている猫みたいだ。

 愛しい気持ちが湧き上がって来て、僕も抱き返す。


「確かに温かいね。それに、柔らかい」


 どうして、女の子の身体はこんなに柔らかいのだろうと思う。

 ふと、僕を見上げたかと思うと、ゆっくり目を閉じる彼女。

 ああ、そういうおねだりか。

 僕も、顔を近づけて目を閉じ……


「はい。ストーップ!」


 急な制止の声。まいだった。


「キョウ君もセシリーちゃんも、ちょっとイチャイチャし過ぎ!ちょっと周りを見てよ!?」


 その声に、周りを見てみる。教室の一角では、興味深そうに成り行きを見守っている女子グループの一部。何か面白いものでもあるんだろうか。


「何か面白いものでもあるかな?」


 様子をじーっと見ていたらしき女子グループに声をかける。


「面白いものっていうか……色々ドキドキするよ」

「いつキスするんだろうなーって」

「漫画の参考に」


 などなど。漫画の参考にって、キスシーンでも出てくるのだろうか。


「面白がってるだけみたいだけど?」


「私は見られても全然オッケーよ」


 僕たちは全然気にならないので、舞に問い返してみる。


「はぁ。セシリーちゃんが人目気にしなくなっちゃうと、こうなっちゃうのか……」


 肩を落とす舞。


「ドンマイ、舞」


 ポンと肩を叩く。


「キョウ君たちのせいなんだけどね。それより、他も見てみてよ」


「他、ねえ……」


 男子グループの一角を見てみる。どうにも殺気を感じる気がする。


「さっきの、何かまずかったかな?」


 気になったので聞いてみる。


「てめえ、それ、素で言ってるのか?って、雨次あめつぎだしな」


「独り身には目に毒だっつうの。まあ、雨次だし、仕方ないけどよ」


「まあ、雨次だし」


 なんだか、僕だし、という謎の理論が出てきた。


「僕だからって。セシリーはいいの?」

 

「そりゃあ、セシリーちゃんは可愛いしな。無罪!」


 セシリーはいいらしい。納得が行かない。

 さらに周りを見渡すと、五木耕平いつきこうへい八坂遊里やさかゆうりの二人がなんだか微笑ましげな視線で僕たちを見ていた。


「何かある?」


「仲がよくて結構なんじゃないか?なあ、遊……八坂」


 相変わらず、五木は落ち着いた様子だ。色々な女子に言い寄られているらしいけど、なんていうか老成した奴だなと思う。


「同意求められても困るわよ。でも、そうね。ちょっと羨ましいけど」


「誰か好きな人でもいないの?羨ましいって言うくらいだし」


「彼氏欲しいからって言って、好きな人がいるとは限らないのよ。ったく、これだから彼女持ちは」


 八坂がヤサぐれてしまった。


「遊里は好きな人がいるから、彼氏欲しいんじゃないの?」


 純粋に疑問に思ったらしいセシリーのツッコミ。

 じっと見つめる瞳はなんだか迫力がある。


「セシリアも同じ女子なのにわからないかな……」


「うーん。キョウヤ以外好きになったことないし……」


「あー、あんたらはそうだったわね。聞いた相手が悪かったわよ」


「じゃあ、耕平は?」


「前も言ったでしょ。お断りよ」


「それがわからないわ。耕平って私の目から見てもカッコいいと思うし。あ、もちろん、一番はキョウヤだからね」


「うん、わかるわかる。背が高いし、鍛えてるし、イケメンだしね。僕から見ても羨ましいよ」


「はあ。まあ、あんたらから見ると、そう見えるのかもね」


 ため息をつく八坂。 


「遊里から見ると、違うの?」


「これは言いふらさないでよ?あいつとは家が隣同士で、もやしっ子だった頃も知ってるし。そういう目ではなかなか見られないのよ」


「それって、幼馴染だから異性に見られないって奴?」


「そういう枠に当てはめられると、モヤるんだけど。まあ、そういうこと」


 そうなのか。ああいう話は、現実にもあるんだ。


「でも、僕は会った時から、セシリーはやっぱり可愛い女の子だったかな」


「も、もう。キョウヤったら」


「はいはい、ご馳走様です。で、アンタらが会ったのはいつ?」


「小3の頃かな」


「はぁ。全く、アンタも大概ませてたのね。今の態度にも納得よ」


「別にマセてるって程じゃないと思うけど。八坂は違ったの?」


「あの頃は男も女もなかったわね。そりゃ、たまにそういう奴もいたけど」


「へえ、意外だね。じゃ、その頃は五木と仲良く遊んでたんだ」


「まあ、ね。もやしっ子だった頃のあいつは、可愛げがあったし」


 なんとなく昔を懐かしんでいるようにも見える八坂。


「可愛げがあるかは知らないけど、今の五木が悪いようには見えないけど?」


 僕とはちょくちょく話すくらいだけど、特に悪印象を抱いたことはない。


「そのへんは色々あるのよ。はい、話はこれでおしまい!」


「えー、もうちょっと話が聞きたいなー」


 不満げなセシリー。


「あんたらは勝手にいちゃついてればいいでしょ。はい、散った、散った」


 その言葉に、僕とセシリーは退散。

 セシリーはしぶしぶという様子だったけど。


「セシリー、やけに興味深々だったけど、どうしたの?」


 席に戻ってから聞いてみる。


「だって、他人の恋バナっって面白いと思うのよ」


 目をキラキラさせている彼女。


「そうなのかな……僕はそこまでじゃないんだよね。興味はあるといえばあるけど」


「でも、遊里が耕平と幼馴染って話、ちょっと気にならない?」


 あー、なるほど。そっちの話か。


「実は、ちょっと気になってた。昔は仲が良かったって言ってたし」


「それに、私達も幼馴染じゃない?そんなに違うのかなって興味があるのよ」


「言いたいことはわかるけどね。それで、どうしたいの?」


「ちょっと調べてみない?」


「セシリーにしては珍しいね」


 彼女が他人のプライベートにあんまり興味を示したことはないのだけど。


「最近、昔の事を思い出して、色々ね。それで、どう?」


 昔、ね。


「五木たちの迷惑にならない範囲でね。あんまり嗅ぎ回るのはナシ」


「わかってるわよ。私は遊里、キョウヤは耕平のことを観察するだけ。で、どう?」


「それくらいなら」


 というわけで、二人のことをしばらく観察することになったのだった。

 特に何も出てこないと思うんだけど、彼女が満足するなら、まあいいか。

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