第4話 二人きりの甘い放課後

  5、6時間目の授業をいつものように受けて、放課後になった。


「それじゃ、帰りましょ?」

「うん」


 帰宅部の僕たちは、放課後はさっさと家に帰ることが多い。

 しかし、セシリーの口数が少ない。


「おーい」

「……」

「おーい、セシリー?」

「……」


 反応がない。こうなったら。


「わっ」


 後ろから手を回して、彼女を抱き締める。


「ちょ、ちょっと、何、いきなり?」


 いきなり後ろからハグされた彼女は恐慌状態。


「生返事だったから、ハグしたら反応するかなって」

「だから、いきなりは止めて欲しいんだけど」

「それで、どうしたの?様子が変だけど」

「気にしないで。ちょっとしたくなっただけ」

ね。別に普段から抑えなければいいのに」

「キョウヤが時と場所をわきまえなさ過ぎなだけよ」


 言いつつも、その時を心待ちにしているように見える。

 甘えることをというのは言い得て妙だ。

 

◇◆◇◆


「ただいまー、パパ」

「どうも、親父さん。お邪魔します」


 開店準備を始めている親父さんに挨拶をする僕たち。


「またお部屋でデートかい、セシリー?熱いね」


 セシリーの親父さん、ジョゼフさんの歳は30代後半。

 若々しくて、精悍な体つきをしている。

 セシリーと同じく赤みがかった茶色の髪に青い瞳。

 鉢巻きを巻いた姿が合わないけど、そんな格好も人気らしい。


「もう、わかってるなら、言わないでよ、パパ」

「愛娘が可愛いとついからかいたくなるのさ。キョウヤ君はわかるだろ?」

「ええ。セシリーは可愛いですからね。わかりますよ」

「だろ。愛娘がこんな立派に成長してくれて、嬉しい限りだよ」


 和やかな会話を交わして、2階にある彼女の部屋に移動する僕たち。

 バタン、と扉を締めて部屋に入ったとたん。


 その、ちっこい身体で僕の全身が抱きしめられる。


「ちゅ。ん。……」


 だけじゃなく、キスまで。

 キスの雨を降らせながら、ぼくの胸板に顔を擦り付けてくる。

 こうして甘えてくれるのがとても嬉しい。


「甘えん坊だね、セシリーは」


 彼女のほほを触りながらささやく。


「だって、外だと恥ずかしいもの」


 正直に告白する彼女。

 外では理性のストッパーがかかるらしい。

 こうやって二人きりになると抑えが効かなるのもいつもの事だ。


「だからつい、からかいたくなっちゃうんだけどね」

「イジワルした分は、甘えさせて?夜まで付き合ってもらうから♪」


 二人きりになった時は、いつもより甘ったるい、そんな声になるセシリー。

 「意識してるの?」と聞いたことがあるけど、自然に切り替わるんだとか。


 彼女を後ろから抱きしめながら、ベッドに座る。


「うう。キョウヤの顔が見えないんだけど」


 少し不安そうな声。


「それじゃ、こうしようか」


 僕と向かいあわせの姿勢にする。


「ちゅ。ん。はぁ。はぁ。……」


 今度は僕からキスをする。

 思いついて、胸にちょっと触れてみる。


「相変わらず、ちっちゃいね」


 少し膨らんだ胸は、すっぽり僕の手に入る大きさ。

 ふにふにしていると心地良い。

 そんな感触を楽しんでいると、


「私だって、もっと大きくしたいのに。イジワル」


 膨れるような表情のセシリー。


「冗談だって。僕はこの方が好きだよ?」


 ちっちゃい彼女には、こんな慎ましい胸も似合っている。

 貧乳は正義とまで言わないけど、触れていて心地いい。


「キョウヤ、ロリコン?」

「人聞きの悪いこと言わないでよ。君のだから好きだよってこと」

「それじゃあ、からかわないでよ。気にしてるんだから」

「ごめんごめん。ちょっと言ってみたかっただけ」 

「やっぱりイジワルなんだから。でも、大好きよ。キョウヤ」


 人目があるところではあまり言わない、「大好き」の言葉。


「僕も大好きだよ、セシリー」


 同じ言葉を返して、首筋を甘噛みする。


「ひゃ。くすぐったい。あん」


 同じように首筋を甘噛みしてくる。


「くすぐったい」


 首筋を舌が這う冷たい感触に、身体が興奮してくる。


「ひょっとして、したくなっちゃった?」


 僕のズボンの様子を見て気づいたのだろう。

 小悪魔めいた色っぽい表情の上目遣い。

 こういうのは反則だと思う。


「ちょっとだけ。いきなりだけど、いいかな?」

「私はいつでも。もう準備できてるもの」

「じゃあ、脱がすね」

「うん……」


 そのままの体勢で、少しずつ服を脱がせて行く。

 ふと、表情が気になって見てみた。

 恥ずかしそうで、でも、期待するような表情をしていた。


「どうしたの、キョウヤ?」


 手を止められて、不思議に思ったのだろう。


「いや、どんな顔をしてるのかなって」


 彼女の前髪をかきあげてみると、目と目があって、とても愛しく思えてくる。


「どんな顔してる?」

「期待してるような顔してるよ」


 思ったことをそのまま言ってみる。


「うん、期待してる。だから、あんまり焦らさないで?」


 セシリーのか細い声。


「じゃあ、思いっきり行くからね」


 再び、服を脱がせ始めるのだった。

 服を脱がしながら話していると、とても気分が高まっていく。


 そして、一糸まとわぬ姿になった彼女。


「うう。まだ、ちょっと恥ずかしいのだけれど」

「そういう風に恥じらってくれるところも好きだよ」


 ちゅっとキスをして、愛撫をして、少しずつ準備を整えていく。

 そして……


◇◆◇◆


 行為の後、ベッドが向かい合わせになった僕ら。


「はあ。なんで、キョウヤとするのってこんな気持ちいいのかしら」


 幸せそうな表情で、彼女がつぶやく。


「僕も気持ちよかったよ」

「私ばっかり気持ちよくさせられてる気がするのよ」

「そんなことはないって」

「むぅ。私も練習して、もっと気持ちよくさせるんだから!」


 変な意気込みを見せる彼女が微笑ましい。


「そろそろ、帰らないと」


 いちゃいちゃして、一時を過ごした僕たち。

 気がつけば18時を過ぎている。

 夕食もあるから帰らないと。だから、服を着始めたのだけど。


「もう帰っちゃうの?」


 僕の裾を握りしめながら、寂しそうな顔をするセシリー。


「また明日会えるからさ」


 そう言って、再びセシリーを抱き締める。


「じゃあまた明日、迎えに行くからね」


 その言葉に見送られ、彼女の部屋を出る。


 二人きりになって、その後別れる時はいっつもこうだ。

 ほんとに寂しがりなんだから。


 二人きりになった時の彼女を僕は密かに「デレリー」と呼んでいる。

 彼女がそれを知ったら、きっと怒るだろうな。

 言って、怒るところも見てみたいけど。


 帰宅した僕は、Ramen Walkersの反応を少しだけ眺める。

 幸い、動画のコメントのほとんどは好意的だった。

 一部の中傷コメントは「通報」と。これで大体はなんとかなる。


 ふと、スマホに通知が来ていた。


「セシリーかな」


 こんな夜、決まって、寂しやがりやの彼女はメッセージを送ってくる。


【キョウヤ、まだ起きてる?】

【起きてるけど、どうしたの?】

【ちょっと電話で話したいなって。いい?】


 さっき二人きりだったのに、ほんとに寂しがりやだ。


【わかった】


 そう返して、電話でなんでもない事を話す。

 こんな、ちょっと寂しがり屋なところも、僕が求められている気がして嬉しいし、なんだか庇護欲をくすぐるところがある。

 狙ってやっている……なんて事は彼女に限ってないだろう。


「それじゃ、また明日ね」


 電話を終えて、寝床につく。

 明日もまた楽しいことがありますように。

 そして、愛しの彼女とまたイチャイチャできますように。

 そんな事を願って、僕は意識を手放した。

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