第3話 相変わらずなお昼休み
お昼休み。いつものように、席を向かい合わせにして、弁当を広げる。
「セシリーちゃ-ん、お昼、一緒していい?」
「食事中はハグはなしだからね?」
疑うような視線を向けて、舞に言うセシリー。
「ハグは食事の後にするからー」
「だから、それも止めて欲しいんだけどね!?」
「僕もハグしたいかな」
「もう、キョウヤまで」
微妙に嫌そうな顔をするけど、されるがままになっている。
だから、ほんとに嫌がっていないことはわかっている。
舞を交えて三人での昼食。
「相変わらず和食なんだね、セシリーちゃん」
「ここは日本だもの。当然でしょ?」
「ぜんっぜん、当然じゃないと思うよ」
舞のツッコミ。
「セシリーの和食好きは、親父さんの影響だから。舞も知ってるでしょ」
「あー、ジョゼフさんはそういう人だったねー」
セシリーの家は、人気ラーメン店『Joseph's Ramen』を経営している。
そして、ラーメンが大好きで、日本で自分のラーメン屋を立ち上げるに至る。
彼女のお袋さんも、負けず劣らずの日本びいき。
セシリーは日本人以上に日本人らしい。
「それにしてもよく続くね、二人共」
僕たちの弁当箱を指して舞が言う。
「セシリーにもっと喜んでもらいたいから」
「もっとキョウヤに喜んでもらいたいもの」
揃って答える僕たち。
いつからか、相手のお弁当を自分が作るという約束が出来ていた。
セシリーが作って来てくれたのは、ちょっと一風変わった献立。
おにぎりに、ポットに入ったしじみのお味噌汁、ほうれん草のおひたし。
おにぎりを一口食べて、お味噌汁をいただく。
「ほっとするよ。お袋の味っていうのかな。出汁もよく出てる」
しじみのお味噌汁とご飯の食い合わせが抜群で、100点をあげたい。
「キョウ君のお母さん、まだ生きてるよね?」
すかさずツッコミを入れる舞。
「そりゃそうだ」
「しじみのお味噌汁は、キョウヤのお母様に習ったの」
「お嫁さんとお義母さんみたい」
呆れたように僕たちを見つめる舞。
日本語が堪能なセシリーだけど、小学校の途中で日本に来ている。
そのせいか、ところどころ、変わった日本語を使うことがある。
彼氏の母親を「お母様」なんて、古風な言い方をするところとか。
「セシリーの方はどう?」
今朝作ってきたのは、サンドイッチ。
レタスとハム、卵を挟んだオーソドックスなものだ。
デザートにカットフルーツだもある。
「美味しい!パパはもっと適当だったもの。パンの切り方もいびつだったし」
「親父さんは、ラーメン一筋だからね」
そういえば、そんなこともあった。
少し懐かしい昔の思い出に浸っていると、
「え?お母さんじゃないの?」
舞からの疑問の声。
「セシリーのところは共働きだからさ。親父さんが昔はお昼作ってたんだよ」
「日本だと珍しいねー。うちは、お弁当は昔、お母さんが作ってたけど」
「ママはお料理全然ダメダメよ?危なっかしいから、厨房立ち入り禁止」
セシリーが辛口に批評するけど、事実だ。あの人に料理させてはいけない。
「舞のも、美味しそうね」
舞の弁当箱を見やるセシリー。
白米がふんだんに詰まったのが一箱。
唐揚げ、サラダ、卵焼きが詰まったのが一箱。
「でも、ちょっと量多すぎない?」
「作りすぎちゃって。キョウ君もセシリーちゃんもどうぞ」
少し困ったような顔をしている舞。
作りすぎるなんて初歩的なミスをしないのはよく知っている。
セシリーのために多めに作って来てくれたんだろう。
「ありがとう。じゃ、お言葉に甘えて」
「私もいただくわね」
お互い、唐揚げと玉子焼きに箸を伸ばす。
「冷めてるのにジューシーで、美味しいよ。プロだね」
「この卵焼きも出汁が染みてて、なかなかよ。プロね」
揃って舞のお弁当を褒めたたえる。
「プ、プロって褒めすぎだよー」
手をパタパタとあおって、照れくさそうな舞。
舞の弁当は日毎に洗練されていく。
「ちょっとお願いがあるんだけど、いい?」
和気あいあいと食卓を囲んでいると、舞が突如言った。
「できることなら。で、何かあったの?」
「Ramen Walkersにゲスト出演してみたいんだけど、ダメ、かな?」
恐る恐るという様子で尋ねてくる舞。
「舞だし、いいと思うよ。だよね、セシリー?」
同意を求める視線を送る。
「舞なら、撮影中にハグさえ止めてもらえればOKよ」
視線を返しながらうなずくセシリー。
「ありがとー。ほんと、感動だよー」
よよよと泣き真似をする舞。
彼女は、リアクションが大げさだ。
「でも、急になんで?」
記憶が確かなら、初めてだ。
「だって私もセシリーちゃんと一緒にラーメンデートしたいもん!」
少し予想斜め上な返答だった。
「僕じゃなくて、セシリー?」
「なにその自意識過剰。それに、キョウ君はもう売約済みだもん」
「売約済みって表現はどうかと思うよ。それに、セシリーも同じでしょ」
「セシリーちゃんは、皆の共有財産。それとこれとは別」
「勝手に人を共有財産にしないで欲しいんだけれど」
彼女は、クラスの中でのマスコット扱いが不満なのだ。
「話はわかったから。次は再来週かな?」
スマホのカレンダーを確認すると、『取材(仮)』の予定が入っている。
「そうね。じゃ、詳細が決まったら、また連絡するから」
「では、連絡お待ちしております!」
ビシっと敬礼をする舞。大げさなリアクションに僕とセシリーは笑い合う。
こんな風にして、三人で過ごすお昼が最近の日常になりつつあった。
それにしても、舞との付き合いもだいぶ長くなってきた。
彼女との出会いはセシリーと出会った少し後だった。
明るい彼女と僕はすぐに仲良くなって、中学に入ってセシリーとも友達に。
というか、セシリーに舞が迫ったんだけど。
「ほんと、舞はいい子だよね」
「無理やりハグしてこなければ、もっといいのだけれど」
「そこまで嫌じゃないんでしょ?」
「それはそうだけど……」
なんだかんだ言って、ああいう扱いがちょっと好きなのもよくわかっている。
とにかく、彼女のおかげもあって、賑やかな毎日を過ごせている。
それは確かだった。
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