世界が終わった後、アンデッド少女は如何にして物語を紡ぐか。
ぬいざぶろう
目覚め
目を覚ました。
記憶がぼんやりとしていてハッキリとした事が思い出せない。
思い出せたのは名前くらい、私の名前は有栖川加奈。みんなからアリスって呼ばれてた。
そう、それで何があったんだっけ、何をしていたんだっけ、様々な疑問が湧き出てくるが答えは見つからなかった。
現状を確認するため体を起こし周りを見る。
壁には窓があった、でもそこには木が打ち付けられていて日の光が入ってくることはないことが分かる。
天井を見ると蛍光灯が割れていて明かりが付きそうになかった。
そんな薄暗い部屋の中私の視界は不自由なく昼間のようにはっきりと見えている。
暗視ゴーグルでも付けているのかと顔を触るが何もつけていない、不思議に思いつつ部屋の奥を見る。
すると黒板があるのが見えた。ここは教室なんだろうか、辺りは机と椅子の残骸か転がっていた。
私は自身の体をみおろすと学校の制服を着ているのが分かった。ここの生徒だったのかな。何も思い出せない。
立ち上がりスカートに着いたホコリを払い落とす。
教室内を歩き回り探索する。
床には穴が空いている個所があり気をつけなければいけなかった。
窓と反対側の壁には引き戸があり、教室の前と後ろにあった。
前方の引き戸に近づき鍵が空いているか確認するが、見ただけでは分からない。
「とりあえず開くか試してみよう」
試しに力を込めてスライドさせようとする、すると何かが壊れる音がして思いっきり開いた。
どうやら引き戸の鍵を壊して開けてしまったらしい。
「?」
私は不思議に思い自身の手を開閉する。
「こんなに力が強かったかなぁ。」
思いっきり手を握った時違和感を感じた。
力を込めて握っても、爪が皮膚にくい込んでも、痛みを感じることがなかった。
それはそうか、私はアンデッドだもの、あれアンデッド?
「あ、そうだ」
私はアンデッド、生きていない、動く死体だ。
ネクロマンサーに作られたお人形さん、でもネクロマンサーの顔も知らなければ私を作った目的も分からないしネクロマンサーがなんなのかも分からない。
「分からないことだらけだな」
普通の人がこのことをこの状況に陥ったら気が狂ってしまうだろう。でも私には知らない事が当たり前に思えたし、身に着けた覚えのない知識があっても不快に思わなかった。変わってしまった身体に対して何とも思わなかった。
私ってこんな性格だったっけ?まあいいや。
廊下に出る。
廊下は教室と同じように薄暗くてボロボロだった。
他の教室に入ろうとしても天井が崩れていて教室が瓦礫だらけで入れなかったり、扉が歪んでいて私の力でもあかない所があった。
薄暗い廊下を進んでいくと明かりが付いている教室があった。
その教室まで行き扉を開けると、そこには10個の机が、小学校の昼食の時みたいに、向かい合わせるように並べてあり、手持ちランプで照らされていた。
でも机の上には学校に相応しくないものが置いてあった。
「これ、拳銃?」
そこには大型の拳銃が置いてあり隣にはその拳銃の弾の箱が沢山置いてあった。
拳銃を手に取り眺める、無骨だが黒塗りでカッコイイ、新しい玩具を手に入れたように私は喜んだ。様々な角度から眺める。うん、カッコイイ。
机の上には他にも拳銃を入れるホルスターと弾を携帯するためのサイドバックがあった、私はそれを身につけると早速拳銃と拳銃の弾をそれぞれに入れた。
普通なら重いであろうそれはアンデッドとなって強化されたからか軽く感じる。
ホルスターから拳銃を取りだし構えてみる。
初めて手に持つはずなのに自然と動作を取れた。
どのようにすればどこに当たるのか、それが自然に分かった。
「これも知識としてあるのかな」
ネクロマンサーは人形が行動するのに不自由がないように知識を与えるらしい、そのひとつなのかもしれない。
人形一人一人に知識を与えてくれるだなんてネクロマンサーは優しいな。
「でも死人を甦させる倫理感はどうかしてるよね」
他に何か無いかと教室の中を探るが何も見つからなかった。
再び廊下に出て何かないか、誰かいないか探す。
歩いていると階段を見つけた、踊り場の階数表記は3階となっていた。
「これ、全部の教室回らなきゃだめなのかなぁ」
一つ一つ回るのは骨が折れるなぁ、でも私のことや現状のこと、これから何をすればいいのかとか手がかりがあるかもしれない。
仕方なく行動を始める。
階段を上がろうと上を見ると瓦礫で塞がれていた。
「ラッキー」
こういうのは行き止まりを見つけると楽だ。
わざわざそこを探索しないですむ。反対を向き下の階へ行くため階段を下る、2階へ降りようとすると何か物音がした。
階段の影からそっと廊下を伺うとそこには肌がぐずぐずに溶けた人型の何かふらふら歩いていた。
「あれって、ゾンビ?」
まるで映画や漫画、ゲームで出てきそうなのが居た。どう見てもゾンビだった。
目は零れ落ちてるし身体のパーツが欠けている。内臓だって飛び出てる。
まあ、私もアンデッドだし、アンデッド仲間のソンビがいるのも当たり前か。
「でも私は綺麗な身体してるよね」
うん、どこも腐ってない。
反対側の廊下も見るが何もいない。どうやらあのゾンビはぼっちらしい。
「第1村人はっけーん」
ホルスターから拳銃を取りだし弾を込める。
上半身だけ廊下に出す、いわゆるリーン撃ちだ。
拳銃を構えるとゾンビの頭に標準をあわせ、引き金に指をかける。
ゾンビの動きが止まった時、引き金を引いた。
銃弾は真っ直ぐと飛んでいきゾンビの頭へと吸い込まれた。
「ナイスヒット」
大型なためか威力が高く、ゾンビの頭は吹っ飛んでしまった、辺りに血肉が飛び散る。
初めて銃を持ち初めてゾンビに出会い、そのゾンビを初めて撃った銃で殺す、いや生きてないから動きを止める?
初めてな事ばっかりなのに上手くいくのはネクロマンサーが与えてくれた知識のお陰だろう。
「ネクロマンサー様々」
ゾンビにゆっくり近づきその体を続いてみる。
「うん、ただの屍のようだ」
まあ、私も屍なんですけどね。
第1村人と出会ったあと2階を探索したがめぼしいものは見つからなかった。
ゾンビと戦っただけである。
「でも銃が撃てるって言うことが分かったのは良かったなぁ」
もし強敵に囲まれ戦えません、だなんてなったら笑い物だ。
そう思えばこの経験だけでこの階はお釣りが来るんじゃないだろうか。
2階は探索し終わったので1階に降りる、1階も似たような景色だった。
「んーと、職員室とか昇降口とか探すかー」
また廊下を歩く、歩いてばっかでつまらない。たまに入れる教室を探索するが、めぼしいものは無い。
新しいことが見つからない、変化がないのは直ぐに飽きてしまうし、やる気もなくなる。
なんてことを考えてたら目の前に職員室があった。
小走りで職員室の扉の前に駆け寄り、鍵が掛かっていようが構わず思いっきり横にスライドさせた。
思いきり過ぎたのか扉がひしゃげたが気にしない。
中を見て驚いたと同時に落胆した。
職員室は閑散としていた、何も無いのだ。机1つ椅子1つも何も。
「こういうのってさ、普通の職員室に何かあるのがセオリーじゃないの」
なのに扉を開けたらなんにもないなんてあんまりだ。
渋々扉を閉め他の場所へ移動する。
「もう外に出ようかなぁ」
昇降口は職員室に行く途中で見つけた、これまた学校らしく下駄箱があった。
昇降口に着く、下駄箱の中には汚れたりボロボロになった外靴や上履きがあった。
「手紙とかあったりして、ラブレターとか」
もちろんそんなものはなかった。
昇降口の両開きの扉の前に立つ。ガラスは汚れていて外が見えない。
両手を扉に当てゆっくりと押し出す。
「冒険の始まり始まり」
これからどんなことが起こるんだろう、期待と不安でドキドキしながら扉を開けた。
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