Stage.2-2 青くんを取られたくない


 翌日、未来はさっそく青空を自分の家に呼んだ。

 放課後に制服のままで立ち寄った青空は、リビングに通されると静かな様子に気になり聞いた。


「家族は、誰も居ないの?」

「みんな帰りは夜遅くだからさ」

「ふぅん……」


 青空がソファに座ると、その前で未来はリュックからノートをテーブルに出し、右手に取ったスマホに触れながら話した。


「『エンペラー・ブラック』かけて」


 すると、音声に反応してリビングに置かれた50インチ程のモニターに映像が流れ出す。    

 黒いスーツの男が、アメリカの都市で夜の道路に佇んでいる場面だ。


「これは……?」

「俺が5歳の頃見て、好きになるキッカケになったヒーローシリーズの1作目さ」

「あー、キャラは見た記憶ある」


 映像が主役変身後のパワースーツ姿に移ると、青空は思い出したように軽くうなづく。


「おお、知ってたか。80年代のアメコミ原作だからな。で、これが俺が考えてるヒーローの設定メモだ。見てくれ」


 青空は、広げられたノートに書かれた走り書きを見て、メガネのつるを摘み目を凝らした。


『字、酷くて読めない……』


 * * *


 ――それから毎日のように、青空は未来の家でヒーローや怪獣映画などを見てから、二人でノートとタブレットにヒーローの設定やストーリーのアイデア、イラストスケッチを書いた。


 そして、青空達が入学してから一ヶ月が過ぎようとしていた。

 ある日、青空は授業が終わった直後にふと気になった事を未来に聞いた。


「……そういえば君、映画部どうなったのかい」

「あー、あいつらさ、青春映画とか見せられて、あとは雑用ばっかり。退屈なんだもん。行くのやめたわ。合わねーや」

「そっかぁ」


 するとそこに、教室の扉から声が掛かった。


「内野くーん!」

「やぁ、池内くん」


 青空に寄って来たのは、隣のクラスで美術部の同級生だ。


「昨日配信の『ゲンブ』見た?」

「うん、見たよ。『大宇宙艦隊ゲンブ』2期3話、おおかたの予想を裏切ってああ来るとはね」


 青空は頷き、かしこまったように一本指を立てて答えると、似たようなメガネで細身の友人は間髪入れずにニヤッとしながら早口で話を続ける。


「そう、ヒスイ閣下の戦術に度肝を抜かれたよ。さてマブローR部隊はどう出るか……次回待ちきれませんなフフッ」


 その側で未来は、ポカンとした顔で青空の話す様子を見ている。

 どうやらアニメの話題らしいが、未来は特撮映画に詳しくても最近のアニメにはあまり興味がないので、話についていけないのだ。

 だが、なんとか会話の間に入って声を掛けた。


「……あ、青くん今日は俺の、」

「これから部活だから。運動会で使うパネルの製作があるんだ。じゃあまた明日ね」


 未来が誘おうとすると、青空は話を遮って、美術部の友人と一緒に教室から離れて行った。


「ちょっ、えぇ……」


 その場に取り残された未来は、なんとも気の抜けた寂しい表情を浮かべていた。


 * * *


 一人帰路についたその日の夜、未来はモヤモヤとした思いを抱えながら、自分のベッドの上へ仰向けになる。


『あんなひょろっちいアニメ好きの奴に、青くんを取られる訳にはいかない……!』


 青空に絵を描いてもらおうと考えているヒーローの設定作りは、まだ始めたばかりだ。

 それに、何よりも友情を深めたいと思う未来だった。


『あっ、もうすぐ連休だったな。そうだ!』


 何かを閃いた未来は、パッと上半身を起こして、ベッドサイドに置かれたスマホを取った。

 そして画面を一本指でタップして声を出した。


「えっとぉ……、ナカノの、でっかいショッピングモール、何だっけ?」


 すると画面に、検索に対しての推測されたキーワードが表示された。


[それは『中野ネクスト・サンプラザシティ』ですか?]


「そう、それだっ!」


 検索結果には、さらに建物の画像や紹介ムービーが出てきた。

 文章の間に入っているアイコンをタップすると、新しいアプリのダウンロードが始まる。


『よし……。ここなら、見つかるかも!』


 未来はベッドから降りて、学習机に置かれたノートを開いた。

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