のんびりと300年後の世界を旅するスケルトン~要塞都市を追放されて天涯孤独だったけれど、死んでから仲間ができました~

しんみつ

第一章

スライムを拾った①

 ざっくざっくと土を掘る音で目を覚ました。


 ざっくざっくと土を掘る音は徐々に頭上から近付いてくる。


 一応いっておくと俺はモグラじゃない。


 俺は新玉あらたま剣星けんせい、人間だ。


 それにしても真っ暗だ。しかも狭い。


 前後左右、まともに手足を広げることができなかった。


(俺、生き埋めにされてないか!?)


(どうしてこんな仕打ちを受けているんだ?)


(何か悪いことをしたか?)


(華々しいとはいえないけど、犯罪には手を染めず、真面目に慎ましく生きてきたつもりだぞ?)


(そりゃあ、俺を追放した要塞都市が魔族に攻め滅ぼされる光景を妄想したこともあるけど、それくらい許してくれないと心が持たなかったんだ)


 などと考えていると、ガンッと目の前で鈍い金属音が鳴った。


 その音に俺は思わず肩をすくめた。


 すると、乾いた木片をぶつけたような、カランという小気味のいい音が俺の体から鳴った。


 決して嫌な音というわけではないが、それが自分の体から響くと言い知れない不安を覚えた。


 状況が上手く掴めない。


 それに何かがおかしい。


 変な話だが、生きている実感がしない。


 まるで意識だけがこの暗い空間にあるような、不思議な感覚だ。


 すると、頭上から話し声が聞こえてきた。


「兄貴ィ、開けられますぜ!」


「よっしゃあ、でかしたぞ! 悪いな伝説の冒険者様。先立つもんがなけりゃあ、俺たちも飢えて死んでしまうんでな」


「兄貴ィ、本当にひつぎの中にお宝が入ってるんっすか?」


「情報によると、人類を救ってからすぐに命を落とした伝説の冒険者をあわれんで、せめて天国ではいい生活をして欲しいという思いを込めて、手向けとして金銀財宝をたんまりと入れたらしい。しかも、魔王を討ち滅ぼした宝刀『イカヅチ』も一緒に眠っているらしい。それだけでも、売れば一生遊んで暮らせる金になるはずだぜ」


「うっひょー、テンション上がるっす!」


「おーし、開けるぜ。せーのっ!」


 ズズズと重たい石をスライドさせる音が響き、土がパラパラと俺の顔に降り注いだ。


 差し込む日差しがまぶしかったが、目を瞑ることができなかった。


 やむを得ず、俺は右手を顔の前まで挙げて、硬直した。


 骨の手だ。


 俺の手が骨になっている。


 左手も、肋骨ろっこつも、大腿骨だいたいこつも、全部真っ白の骨になっている。


(これじゃあまるでスケルトンじゃないか!)


「兄貴ィ、伝説の冒険者が動き出しましたよ!」


「あああ焦るな! 羊の数を数えて、冷静になるんだ」


「兄貴ィ、落ち着いてください!」


「昔どれくらい強かったのか知らねえが、こいつはもうただのスケルトンだ! 人間の遺骨いこつに取りいて動くだけの下級魔族だ!」


 スケルトンは多少硬いくらいで、動きが素早いわけでもスキルを使うわけでもない。


 駆け出し冒険者でも倒せる雑魚である。


「じゃあ、起き上がる前にやっちまいましょう!」


「お前、頭いいな!」


(おい、待ってくれ!)


 俺は慌てて制止しようとしたが、声が出なかった。


 声帯がないので、普通に声を出そうとしても出るはずがなかった。


「おらあ!」


「くたばれ!」


 墓荒らしと思しき二人組の男は、手に持ったシャベルを容赦ようしゃなく振り下ろした。


 頭蓋骨をダイレクトに殴られ、コーンとよく通る音が反響した。


 しかし、俺にダメージは全くなかった。


 俺にダメージがないということは、反動でダメージを受けているのは墓荒らしの二人だった。


「手があ!」


「くそったれ!」


 自爆した墓荒らしを横目に、俺は棺から出た。


(これは刀か?)


 俺は棺の中にあった刀を手に取ると、おもむろに鞘から引き抜いた。


 宝刀『イカヅチ』の刃は白銀の輝きを放ち、落雷のような刃文が走っていた。


「あわわわわ、兄貴ィ、まずいっすよ!」


「こいつはやべえな、逃げるぞ!」


「了解っす!」


 俺の存在感に気圧された墓荒らしの二人は、手荷物を全て投げ出して急な斜面を下りていった。

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