玲に捧ぐ ~小説「竹石 玲と名前を呼ばれない男」より~
イラつく。
まずもって、さっきから俺の車の前を走っている軽トラにイラつく。
制限時速よりも10kmも遅く走っている軽トラにイラつく。
運転席側の窓を全開にして、こげ茶色に焼けた右肘を窓枠に乗せて走る軽トラにイラつく。
そもそも、軽自動車はみんなイラつく。
黒くて、無駄に背ばかり高い軽自動車にイラつく。
これでもかと洗車場で磨き上げた白い軽自動車にイラつく。
パステルカラーなのか肌色なのかわかんないような、ピラミッドみたいな形の軽自動車にイラつく。
かげろうが先に見えるくらいに車間距離をとって、さも安全運転していますよと主張しつつも、急ブレーキを踏む軽自動車にイラつく。
ポケGOでもやっているのか?
その走り方じゃタイヤが10年はもつんじゃないかと思うスピードで走っているくせに、黄色信号で慌ててアクセルを踏み込んで交差点をやり過ごす軽自動車にイラつく。
「そんなにイライラしなくたっていいじゃない」と隣の助手席に座るお前にもイラつく。
「軽自動車は嫌いなんだよ」って俺は言っているのに、鼻で笑うお前にイラつく。
そう言うお前だって、さっきから俺が何を聞いても「別に…」とか「なんでもないよ」しか言わなかったじゃないか。
玉撞きに行って、とんでもなくお前に有利なルールでプレイするのはどうってことないけど、それでも俺に負けると不機嫌になってまったく話をしなくなるお前にイラつく。
次のボールを狙えない位置に手球を運んだって、「失礼」のひとこともないお前にイラつく。
そして、こうやってお前を車に乗せて運転している俺がイラつくのをいさめようとするお前にイラつく。
きっと、お前は、今日もこの後、「抱かせてあげてもいいわよ」という顔でベッドに横たわるんだろう。
前の軽トラの奴、ホテルの入口に入りやがった。
最大に、イラつく。
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