電子管
空は灰色から青色
街はとっくに黄緑色から緑色
窓を開ければもわっと暑く
窓を閉じればジリジリ暑い
昨日の悪夢を引きずって
素知らぬ顔で片手ハンドル
誰か 俺の代わりに新聞を読んでくれ
誰か 俺の代わりにトイレに行ってくれ
眩しい光は四角窓の向こう
金縁の額にしてあげればいい
点滅しないかと怖れて見上げても
いつもどおりに白く光る電子管
みんな気付かずに二重施錠
素知らぬ顔で「おつかれさま」
誰か 俺の代わりに返事をしてくれ
誰か 俺の代わりに煙草を吸ってくれ
橙が終わって西の空
細い楕円の光が浮かんでる
一日の終わりは一生の終わり
ただ 燃えさしにそっと手をかざす
とっくにあきらめた体中のいろんな数値
素知らぬ顔で杯を重ねる
誰か 俺の代わりに風呂に入ってくれ
誰か 俺の代わりに夕飯を食べてくれ
形は変わっても所詮は電子管
長いか円いかの違いだけ
誰かがだれかに忌憚無きコメント
こんなコメントにコメントは必要ないだろう とのコメント
喉元なんてとっくに過ぎているのに
怒りが収まる前に 次の喉元が顔を覗かせる
誰か 俺の代わりに日記を書いてくれ
誰か 俺の代わりに爪を切ってくれ
誰か 俺の代わりに床屋に行ってくれ
誰か 俺の代わりにビデオ編集してくれ
誰か 俺の代わりに牛乳を飲んでくれ
誰か 俺の代わりに眠ってくれ
誰か 俺の代わりに夢を見てくれ
誰か 俺の代わりに
誰か
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