第102話 【最終話】俺たちの戦いは続く。
〔永禄5年(1562年)9月25日〕
熱田と那古野城の中間、旧古渡城の跡地に熱田御殿がある。
帝が下向して来ても良い様に外装は熱田と伊勢の宮大工に造らせた。
基本構造はプレハブだ。
(※. 工場で部品を生産し、現地で組み立てる建築の方法)
そう言っても庭などは色々と手が込んでいる。
皇太子が泊まっても文句がでなかったので及第点だと思う。
俺が使うには政務室が遠かったり、自室が密談に向いていなかったり、格式に伴って謁見の間が何カ所もあるとか、風呂が遠いとか、色々と足りていない。
違う。足りていないのではない。
公家が使う様々な式典に合わせて仕様が多すぎ、無駄に広すぎるのだ。
熱田台地の西に御殿を建設し、その周辺に公家屋敷、東側に武家屋敷を建てている。
武家屋敷の中には父上 (故信秀)の側室方々の屋敷もある。
その南側に長屋群があり、秀吉の妻である
西壁を低く造ったので、二階に上がって眺めると濃尾平野が一望でき、養老山地が彼方に見えた。
俺は兄上 (信長)を真似て、
部屋の隅では、乳母と嫁達がハイハイする子供らをあやしていた。
「このような平和が一番だな」
「そうでございますね」
「これがずっと続けばいいのに・・・・・・・・・・・・」
「おほほほ、本当でございます」
「俺は・・・・・・・・・・・・どうして・・・・・・・・・・・・こんなところへ、来てしまったのだろうか?」
「こんなところでないところとは、どんなところでございますか?」
予定より7年も早く攻めて来た。
千代女曰く、父上 (故信秀)が亡くなっても知多半島の領主達が崩れない。
兄上 (信長)の勢力が増した。
信勝兄ぃなどが離反して家臣が割れない。
今川家は三河で足下を固めたいが、時間を掛けると尾張が統一されて付け入る隙が無くなると思って決戦に挑んだ。
『すべて、若様が
そう言われたと言うと、
自業自得だと。
一方、俺のどこが悪かったのだ?
「殿の優秀さは群を抜いておりましたから、今川家が破れたのは必定です。私が嫁いで来たのも必然でございます」
「
「そうでございました。私はまったく疑っておりませんでした」
「俺は年寄りに弱いのだ」
「
「褒めておらん」
俺はずっと中根南城でゴロゴロと過ごしたかった。
そう言えば、
あの『永禄の変』が起こらなければ、兄上 (信長)、
最後に
「
「死ななかっただけマシというモノだろう」
「そうでございますね。
「すまんな。
「いいえ、世の常でございます」
俺はのんびりしたい、時間が欲しい。
あと7年あれば、無線も使える。
狙撃銃は完成の域に達し、迫撃砲もあり合わせのなんちゃって迫撃砲ではない。
バズーカーやミサイル砲が完成しているかもしれない。
そして、何と言っても航空機による爆撃が可能になる。
織田家の戦力は飛躍的に伸びる。
「今までも十分に凄いと思います。それでも足りないのですか?」
「
「我が父の言葉ですね」
「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なりか?」
「はい、そうです」
人は石垣と言いながら
石垣を他国まで連れて行くのはどうかと思うぞ?
とにかく、領地拡大が大好きだ。
早い、早過ぎる。
昔、
しかも冬に援軍を送るとなると、海が凍っては援軍が送れないと巧く謀って
わずか1年で自立できる所まで交易収益を上げている。
流石、
「関東武者に農地開拓ができる者がいないので、適度に戦を与えないと反乱を起こすので許して欲しいと手紙に書いてありました」
「あぁ、そうだったな。そして、最大の収入が傭兵業か」
「父は戦が好きではないと書いております」
「それは見解の違いだ」
「・・・・・・・・・・・・」
「
「殿も戦が好きなのかと考えておりました」
「俺は守りを固めているだけだ」
「そうなのですか? 寡兵で大軍を倒すのを好まれると・・・・・・・・・・・・」
「それを誰が言った?」
「それは言えませぬ」
「俺は大軍を用意して、後方でゴロゴロをして結果だけを聞く戦が好きだ。先陣に立たねばならん戦など遣りたくない」
「おほほほ、その方が殿らしく思えます」
「そうであろう」
子供らと遊ぶのに飽きたのか、
「殿、次の遊覧はいつできますか?」
「殿、また船に乗りたいです」
「遊覧ならいつでもできるだろう?」
「大きい船がいいです」
「あの綺麗な船でもいいです。マストの上に登ると高くて気持ち良さそうなのです。」
俺は
二人は伊勢湾遊覧を連絡船ではなく、ガレオン船で経験した。
イスパニアから奪取したガレオン船は点検と防水塗装した後に簡単な運行をさせた。
それに同乗した
公家の娘と思えぬお転婆ぶりだ。
お市の所為だ。
あの三人が
他の妹ら (お幸とお犬とお乃とお奥とお徳とお色とお雲)がお市のように育っていないか心配になって来た。
「皆、利発でございました」
「俺は巧く時間が合わなかった。わざわざ来て貰うのは違うと思う」
「そうですね。向こうも忙しくしておりました」
10歳で神学校に入学している。
皆、
二人は和歌などで突出した才能を見せて、神学校の生徒の向上心を刺激したらしい。
公家の作法などを実演して褒められて気持ちよく帰って来た。
論語を諳んじろと言われると
夏休みも三人に追いつこうと、妹らは研究室や体験学習などに参加していたので俺と会う暇がなかった。
誰も会いに来てくれないので、ちょっぴり悲しい。
俺が学校に行けば簡単に会えるのだが、俺はアイドルみたいな者なので大騒動になるのだ。
面倒なので卒業式以外は足を運ばない事にしている。
派手に出迎えられるのは嫌だ。
・
・
・
あっ、遊覧の許可か?
「しばらくは無理だ。恨むならば、苦情の手紙を
「
「また、悪い事をしたのですか?」
「あぁ、迷惑な事をしてくれた」
去年は蝦夷の中央でアイヌ人との大決戦をワンサイドゲームで完勝すると、信勝兄ぃは煩わしい武将らを各領地に飛ばした。
関東の武将らは
そして、上杉家と伊達家は海を渡った。
「海を渡ってというのが駄目だったのですか?」
「上陸したのが駄目なのですか?」
「それは問題ない。しかし、
300石帆船1隻と連絡船3隻で船団を組むのも異例だが、調査で帰国せず、拠点を確保する為に当主自らが残った事が異常なのだ。
帰ってきた船から事情を聞くと、上杉家の家臣らが騒ぎ出した。
北の右筆から『SOS』が発せられた。
「残っている船で船団を組ませて
「
「苦情の手紙を書いておきます」
旗艦『尾張』に
俺は手持ちの船を失った。
「殿、それで大丈夫なのですか?」
「大丈夫ではない。尾張級の軍艦3番艦『摂津』、4番艦『河内』が来月に完成し、今年中に5番艦『和泉』も出来てくるが、慣熟航行を手短に済ませても使えるのは11月だ」
「先日、九州が終わるとか申しておりましたが・・・・・・・・・・・・。」
「ははは、俺の乗る船がない」
「あの綺麗な船があります」
「殿、あの船で遊覧の許可を下さい」
「あれか? あれは駄目だ。いつ爆発するか判らん」
世界初の蒸気タービン機関の水蒸気船だ。
噂をすれば、千代女も複雑な顔をして戻って来た。
「名護屋府から正式に
「あぁ、どうしてそう生き急ぐのだ」
「秀吉と
「そうだろうな」
南では伊勢守護代
北条家は伊豆金山、山名家は生野銀山を所有するが、北畠家にはない。
北畠家の財政は海運が支えている。
そこで
琉球では、薩摩の坊津から
そこに山名家と島津家が相乗りをした。
イスパニアから奪取し、貸し与えた船とアユタヤ国に送る船団の船を合わせて6隻で交易船団を組みたいと言って来たのだ。
貸した船をどう扱うかは勝手なので幕府も許可を出した。
後は
北部は島津家の南九州の武将らが、中部と南部は大友家の北九州の武将らが輸送されて、制圧する準備が整った。
また、慶次はキャラック船1隻と名護屋港に停泊していたポルトガル船などと一緒に
ポルトガル船の船長らは日の本で搾取されなかったという生き証人だ。
無事を知らせて、交易の継続を祝う今年販売の新茶の試飲会を開く。
そして、イスパニア国王へ向けて人質返還と賠償金の要望書を渡すデモンストレーションを行って貰った。
慶次はそのまま尼子三人衆を引き連れてアユタヤ国に入った。
これからは
また、秀吉は
「琉球だけで半年、
「秀吉も倭寇を使って、明国の情報を集める拠点として貸すつもりです」
「そちらはどうでも良い。千代、許可を遅らせるように兄上 (信長)に手紙を書いてくれ」
「判りました。しかし・・・・・・・・・・・・」
「あぁ、判っておる。1ヶ月も持たんだろうな」
「若様が名護屋府に行かなければ、輝ノ介らが暴走しかねません」
琉球に向かった船が漂流して
久方ぶりに千石船でも使うか。
「それでしたら、試験艦『日本丸〔改〕』を使われるのはどうでしょうか?」
「また、爆発させる気か?」
「機関を起動させねば、ただの帆船でございます」
試験艦『日本丸〔改〕』は向かい風を自走する設計なので、日本で初めてのバーク式の帆を採用した。
俺が初めて作ったボトルシップ『海王丸』にそっくりな船だ。
「殿、連れて行って頂けますね」
「もちろんだ」
「
「はい、
「許可します」
「すぐに準備致します」
何の茶番だ?
千代女が間違っても置いて行くなという訴えですとこっそりと言ってくれた。
前回、置いて行かれた事を恨んでいるらしい。
千代女を見ると、もう止まりませんという顔をする。
船内でゴロゴロするのが唯一の楽しみだったのに・・・・・・・・・・・・。
「殿、何か問題がございましたか?」
「
「どこまでも付いて行きます」
あぁ、休暇が終わった。
今回は三日か、四日か?
短いゴロゴロな日々だったな・・・・・・・・・・・・だが、俺はこのくらいでくじけない。
「千代、ゴロゴロを勝ち取る為に行くぞ」
「ゴロゴロの為に戦っているのは若様だけでございます」
「とにかく、付いて来い」
「もちろんです。この身が尽きるまで」
俺たちの戦いは続くのだ。
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