第42話 百花繚乱、それとも、百鬼夜行。
後で思えば、走馬灯のように日々が流れていった。
「(内藤)
「そうはいきません。織田家の命運が掛かっておりますぞ!」
「張り切り過ぎると持たないぞ」
「早くお準備をして下さい」
「俺が心地よく寝ている時間を少しでも増す方が貴重だと思わんか?」
「思いません」
翌日、早朝から叩き起こされて公家様対策に付き合わされた。
忍びを送っているから何でも知っている訳じゃない。
お昼過ぎに
そこで爆弾発言だ。
やはり、お市の拝謁を申し出てきた。
拝謁に当たって織田信秀の娘では色々と不都合があるらしく、故信秀の蹴鞠の師匠であり、心腹の友であった
さっそく、兄上(信長)に使者を出して許可を頂く。
まぁ、断れる訳もないか?
頂ける官位は従五位相当の
「お市はお市なのじゃ! 変な呼び方は止めるのじゃ!」
(飛鳥井)
おそらく、
飛鳥井家は忠臣の
わずか2歳で当主となり、只今、4歳だ。
父の弟が後見役を務めているが、強力な後ろ盾が欲しいと考えていた。
お市を猶子に迎えることで、義理の叔母(母の妹)が誕生する。
まさかと思うが、(
兄上(信長)が兵を引き連れて『朽木を滅ぼしてくれる』とか言い出すぞ!
それはともかく、お市を公家の姫にする猛特訓がはじまった。
多くの公家様らがやって来て、俺とお市に手解きをする。
蹴鞠、歌会、貝合わせ、蹴鞠、和歌、礼儀作法などなど。
蹴鞠は飛鳥井家にとって大事だそうだ。
レッスンが終わると、風呂に入って飯を食ってから帰ってゆく。
公家作法を豪華メンバーから教わるのだ。
レッスン料も高く付く。
折角なので同行した20人も同席させて作法を見て貰った。
このまま京に残すつもりなので最強の人脈を得た訳だ。
中でも元足軽頭だった
読み書きができるので連れてきただけだが判らないものだ。
内大臣であった(近衛)
まだ、上がるのか?
一方、関白・左大臣の
やはり、近衛家とライバル関係の藤原道長を祖とする九条家、二条家、一条家は警戒しているようだ。
また、
ただ、将軍足利義晴と親しかった権大納言
他にも
蹴鞠の飛鳥井、華道の植松、神楽の綾小路、歌道の冷泉、衣服に関して(山科)
尚、細かいことは(飛鳥井)
「魯兄じゃ、もう嫌じゃ! あれしろ、これしろと市は飽きたのじゃ!」
「京に来てしまった以上、もう後戻りはできん」
「市は尾張に帰るのじゃ!」
「それをすれば、俺が尾張に帰れなくなるぞ。それでよいのか?」
「それは困るのじゃ!」
「拝謁が終わるまで我慢してくれ。俺の為だ。この通りだ。頼む!」
俺はお市に頭を下げた。
不満そうな顔をしながら、お市も困っていた。
心底、面倒な作法を覚えたくないのだろう。
「魯兄じゃの為にがんばるのじゃ。その代わり、尾張に帰ったら市の為に、新しいおもちゃを考えるのじゃ!」
「あぁ、判った」
「絶対じゃからな!」
お市が公家の作法を覚えないと拝謁はいつまでもできず、俺も尾張に帰れない。
がんばれ、お市!
◇◇◇
お市と言えば、兄上(信長)から不思議な手紙が返ってきた。
無事な到着の知らせと届けると絶対に傷1つ付けることなく、尾張に連れ帰れと命令が送られてきた。
それは予想通りだった。
問題はその中身だ。
公方様が用意してくれた宴会で三好方は呼ばれていなかったのだが、
そこで公方様の仲人で(三好)
仲人と言えば、親同然だ。
(三好)
婚姻が成立すれば出家して、家督を譲ると言う?
本気かぁ?
まぁ、院政を引くから実権は変わらないのだろう。
烏帽子親も公方様に頼むつもりだ。
三好は畿内の覇者のみでよいとか言うので俺が公方様に話をどこかで仕入れたのか?
公方様は「そんな話が乗れるか!」と一蹴した。
(松永)
兄上(信長)の返事は飛鳥井家の話を『是非もなし』とお受けした。
まぁ、そうだよな。
一方、三好との婚姻は『
えぇぇぇぇぇ、あり得ない。
「千代、兄上(信長)は熱でも出されて、
「そのような話は聞いておりません」
「兄上(信長)なら『三好を完膚なきまでに叩きのめし、二度と同じことが言えないように、織田の恐怖を魂魄に刻み込め!』と返事が来ると思っておったぞ! 俺に任せるとは、どういうことだ?」
「まったく、判りません。ただ、尾張から若様にもう一通手紙が来ております」
珍しく、信勝兄ぃからの手紙だった。
『すぐに、お市を尾張に返せ!』
これだけ?
他に何もなく、まったく内容がなかった。
簡潔過ぎる。
お市に何のようだ?
それとも土田御前が倒れたのか?
末森で何が起こっている?
「
「若様に渡した手紙以上は何も存じ上げておりません」
「奴の手紙は簡潔で判り易いが、政治的な思惑がまったく伝わって来ない」
「
俺も意外だった。
熱田に居れば、2日に1度は顔を出すので
聞きたいことを箇条書きにして、尾張のことを問い質した。
熱田を離れることが、これほど疲れると思わなかった。
◇◇◇
3月中旬になると帝からの使者が来られ、俺は従五位下の
皆が祝いに来てくれた。
(松永)
「能に御招き頂いたお返しをしたいと思っておりましたが、
俺が尾張に帰れば、そうそう会う機会はない。
確かに能舞台の返礼は10年越しになるかもしれない。
婚姻の話も公方様が拒絶している。
織田としては公方様の許可なく、婚姻同盟を結ぶことができない。
公方様は最強の手札を持ったことになる。
もっとも認めると言われると、俺が窮地に立つことになる。
誰がお市を説得するんだ!
「
「それで結構でございます」
ともかく、三好も諦めていない。
織田は公方様の返事次第ということで留めておく。
お市の意見は聞いていない。
決まっていないので話す必要もないと俺は判断した。
「お市様が聞いたら怒りますよ」
「絶対に知らせるなよ」
「公家様の口まで防げません」
「そちらは大丈夫だ。正式な通達がないので何も答えていないと言っておく」
「若様は狡いですね!」
「どうせ消える話だ」
実は急に公方様が心変わりしたときはどうしようと内心は焦っていた。
無いよな?
◇◇◇
3月下旬、やっとお市の作法も様になってきた。
「魯兄じゃ、市を褒めてたもれ!」
「よくやった!」
「今日は貝合わせをやって来たのじゃ!」
「公家の姫らしくなってきたではないか?」
「そうであろう。じゃが、貝合わせはボロ負けであった。だから、ジェンガ (積み木崩し)で再戦して全勝してやってきたのじゃ!」
トランプ(数札)や花札、リバーシ(楽碁)、ジェンガ(積み木崩し)、かるた(歌留多)、立体パズル(
因みにトランプ(数札)や花札は厚紙ではなく、薄い木の板に漆を塗って均一にしている。
強く叩くと割れてしまうのが欠点だ。
消耗品と割り切って、一枚売りを考えた。
日本名を考えてあったが、お市がカタカナを叫ぶのでカタカナで広まっている。
宣教師が聞いたらびっくりするだろう。
それをお市が持ち出して、公家の姫様らと遊んでいる。
里以外の友達ができたことはいい事だ。
歌会や貝合わせのような遊びの後に、『菓子戯れ』という新しい流行をお市が作ってしまった。
負けず嫌いのお市らしい。
お蔭で公家様が京の店にゲームを買いに行って下さる。
その在庫がすべて売れ切れ、熱田から再入荷待ちが続いている。
公家や武家の女子の間で広がって大ブームが起こっている。
嬉し誤算だ。
逆に悲しい誤算は俺の碁や将棋で連敗記録を伸ばしている。
相手は天才だ。
最初のアドバンテージなど
相手に定石を盗まれたら太刀打ちできない。
糞ぉ、だから勝ち逃げしたかったのに!
4月初旬の拝謁も決まり、来月には帰れる目途が付いてきた。
◇◇◇
お市の楽しみと言えば、もう1つが京見物だ。
公家様に案内を頼むと(内藤)
公家様に頼まれた
何度叱ってもお市は止めない。
最近、老けてないか?
ある日、一行が乱暴者に出会うと、逆に乱暴者を懲らしめて感謝された。
また、堺で雇った傭兵らも1ヶ月もすれば、織田の流儀が判ってきたので5日に1度の休暇日を与えた。
傭兵らは京の町で問題を起こしていないので、織田の兵は信用できると思われたようだ。
「
(近衞)
(松永)
あれでも、がんばって防波堤になっていたのだ。
俺は最初からそのつもりで傭兵を用意していたので問題はない。
事前、(松永)
(松永)
こちらは京の治安を回復させて、京に人を呼び戻して売上倍増を狙いたい。
三好は京を落ちつけさせたい。
俺と(松永)
ただ、こちらも傭兵を警備に回して追い銭・乱暴・狼藉などされては堪らない。
しばらく、様子見をしていた。
丁度よい機会であった。
「俺は構いませんが、責任者である目付け内藤を通して下さい」
「承知した。では、帝に左近衛中将を打診しよう」
「本気で止めて下さい。左近衛中将って従四位下相当だったでしょう。何、昇進させようとしているのですか?」
「駄目か?」
「遠慮します」
「仕方ない」
偉く、あっさり引いたと思った。
後日、(内藤)
「勅命である。左近衛大将、
正に
(千秋)
左右の
定員超過の大盤振る舞いだ。
それを聞いた
城を失って居候だった彼にとってこれほど嬉しいことはない。
官位持ちとなれば、仮に織田が放逐しても、どこの家でもすぐに拾ってくれる。
正式な官位は城と同じくらいの価値がある。
尾張那古野で家老職の
しかもハズレ組であった熱田衆の若侍に先を越された。
そりゃ、
本当に動かなくなってしまった。
ちぃ、俺は舌を打っていた。
別の意味で、してやられた!
俺を完全に取り込めないと思った(近衞)
拝謁が終われば、俺は尾張に帰る。
しかし、勅命を受けた義理兄ら熱田衆に帰れなくなった。
体のいい人質だ。
お市は猶子という抵当がつき、義理兄の
京の都は花が舞い散り、鬼が跋扈する。
やはり公家様は強かだね!
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