第31話 今宵の鬼切丸は血に飢えておる。
新月も近い弥生月の誘い夜の3日に、面白き趣向とばかりに(近衛)
(当時、暦が狂っており、4、5日くらいが新月でした)
俺としては
上右京の
今宵が危険な日と承知しており、警護者が倍近い10人も付いて来ていた。
ちょっと待て?
・
・
・
夜道で人目を避ける為に黒い
それを外すと
俺は固まったのは、その中に一際派手な出で立ちの紫頭巾の護衛がいたからだ。
「(
「(慶次、今、話し掛けないで下さい)」
「(気が付いたか? あの腰の太刀)」
「(判っています。見ないで下さい。しゃべるのもなし、一切、口に出さないで下さい)」
考えるのは止そう。
俺は何も知らない。
「小僧、何故、ここが襲われると思う」
そう心に決めた瞬間、向こうから話し掛けてきた。
答えない。
そういう選択はないのだろうな~!?
「簡単な推理でございます。
今はタダの盗賊団の頭だ。
理由もなく、難癖を付けて部下を処分に対象にした自分だ。
一度でも自分を裏切った者を絶対に信じない。
おそらく執念深く怨み続け、機会があれば殺そうと企んでいたのだろう。
その癖、自分は主人であろうが、仲間であろうが、平気で裏切る。
管領にしてくれた前公方様(
完全に危ない人だ。
「当然ですが、今の公方様(
「そこまで言い切るか?」
「今ではやって来た事を聞いております。それが私(俺)の確信となっております」
そして、警備が上右京に集中すると、あざ笑うかのように中右京の西迎寺の村を襲った。
西迎寺は丹波波多野氏の菩提寺だ。
三好の嫡男、
派手に荒らされて、そこの警備を任されていた
その怒る
「盗賊団が拠点にしているのは、東林院 〔妙心寺〕、龍安寺などの
なぜなら、この城を守る
城に残っている兵は少ない。
盗賊団の数は100から150なので城を攻めることはない。
周辺の村や町を襲うだけだ。
三好が守る城に兵はおらず、村が襲われても兵を送ることもできない。
かなり派手に暴れるつもりだろう。
しかも村は下右京を襲って来ないと油断しているので効果は抜群だ。
「なるほど、よく判った。では、なぜ今日と思う」
「先ほども言いましたが、
天文22年 (1553年)3月1日に尾張から上洛の第一陣が出立し、続けて第二陣、第三陣と総勢500人が出発する。それに合わせるように堺からも護衛の兵1,000名も出て、京の知恩院で5日に合流する。
「織田の兵が来る。誰もが安心するその直前が効果的ではありませんか?」
「では、明日に決行する方がもっと良いのではないのか?」
「その通りですが、明日は駄目です。5日に京の東にある知恩院に入るように出立します。急げば、兵1,000人が4日にも合流するかもしれないからです。その可能性を
紫頭巾は考えているのか無言でしばらく立っていた。
「
「麿に聞かないでくれ」
「儂は何度となく
「そうだな、おまえは警戒心が無さ過ぎる」
「そなたの口がそれを言うか?」
「麿は自覚している」
嫌な会話だ。
何かあったら、誰がどう責任を取るつもりだ。
俺は知らんぞ。
体を悶えさせていると、仮の集合場所にしていた小屋の扉が開いた。
「若様、どうやら来たようでございます」
「千代、戦いが始まったら、合図の篝火を焚け」
「承知しました」
「では、お迎えに行きましょう」
刻は丑三つ時(午前2時から午前2時30分)、
月もほとんど出ておらず、星明かりを頼りに100人余りの盗賊団が徘徊するにはちょうど良いのだろう。
がしゃ、がしゃ、がしゃと鎧の擦れる音が近づいてくる。
こちらは
敵は3倍以上、しかもゴロツキより数段上の手慣れた兵達だ。
その盗賊団は顔を隠す意味もあり、フル装備で目の下頬や総面を付けている。
さらに、眼として敵方も忍びを雇って先行させていた。
もちろん、敵の忍びは排除済みだ。
俺は林を抜けた一本道で待ち伏せを掛ける。
林の中を敵が近づいてくる。
そして、林の出口を通った瞬間、敵が倒れる音が聞こえた。
どちゃ、がしゃ、ぐわぁ!
先頭が一斉に倒れ、後続が追突して激突する。
敵は一瞬にして大混乱に陥った。
「
「秘罠『イノシシ狩り』でございます」
「猪狩りだと?」
ホント、簡単な罠だ。
竹で作った弁当箱の上に乗ると、その重みで止め金が外れて左右の竹輪が足に絡み付く。
原理は『トラバサミ』と一緒だが、材料が竹なので安上がりだ。
次に足を上げようとすると、弁当箱の周りに施したロープがするすると竹輪を蔦って上がり、足を捉える。
これ弁当箱をずらりと横に並べて、そこにイノシシが通る道に並べて追い込む。
ロープの端は木に括っているので、足を捕られたイノシシは転倒して身動きが取れない所を仕留める。
軽く土を上に被せておけば、この暗闇では気づくこともない。
予想通り、先頭を走っていた敵が軒並みに足を捕られて転倒したのだ。
敵が転倒して動揺した所で、俺の背中に配置した篝火を焚いた。
俺達が待ち伏せをしていたことを、ここで敵がはじめて知ることになる。
さらに動揺した所に突撃をかけて大勢を決める。
まぁ、最悪の場合は林の忍びを使って側面から奇襲も行うけどね。
『手出し無用』
指揮官に相応しい透き通った声であった。
味方のハズの
「
「麿の家来は上右京に置いてきた。この者達は麿の命令を聞いてくれん」
「お一人では無茶です」
「そう言っても聞くお方でもないのだ」
冗談だろ!?
一人で100人を斬るつもりなのか。
紫頭巾の笑い声が聞こえる。
その足はドンドンと早くなり、敵の先頭と交錯した。
『1つ』
すれ違い様に一刀両断し、そのまま敵の中に飛び込んだ。
『2つ、3つ、4つ』
甲冑を豆腐のように引き裂いて、高笑いを響かせながら次の獲物を狙う。
『ははは、今宵の鬼切丸は血に飢えておるぞ!』
戦闘狂か?
源氏の棟梁が代々所有する名刀だ。
鎧のように固い鬼の皮を安々と切れる名刀は鎧すらないことにできるらしい。
「父より強い方を初めてみました」
「あぁ、加藤より強そうだな」
「加藤殿の父君である
「柳生親子二人で一万の筒井軍を追い返したという話か」
「そのあまりの剛剣に討ち果たすつもりを止めて、取り込むことに変えたそうです」
気持ちは判らないでもない。
一人の為に何十人の犠牲を払うのかと考えれば、味方にした方が得と思える。
動揺した敵が、さらに恐怖で怯えている。
また、袈裟切りで一人の命を絶った。
その後ろから斬り掛かってきた兵の腕を切り落とし、返す勢いで腹を割いた。
少し浅かったのか?
絶命せずにその場に倒れ、倒れた勢いで腹の中身が飛び出した。
兵は慌てて拾い上げているが、やがて力尽きて死んでいった。
そんな諸々の倒れた者を気に留めず、次の獲物を引き裂いてゆく。
敵から威勢が消えた。
大将が先頭を切れば、敵の士気を下げ、味方の士気を上げる。
少数でも大軍と戦えるからくりは、こういうカラクリか。
剣豪将軍と呼ばれる訳だ。
戦鬼、先駆けが一人いると
勉強になるな。
つまり、その逆もある。
ヤバいな、その対策も考えておかないと。
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