料理という罪
西木 眼鏡
prologue
料理というモノを知っているだろうか。
生憎、私は料理を知らない。私が生まれたときはすでに政府が配給している調整された完全なる食事、所謂栄養補給ゼリー状食事、通称ゼリー食が一般的になっていた。
ゼリー食は、人間が活動する最低限以上の栄養を短時間で摂ることができるという点において現在最も優れている。
政府は長期的な人類の繁栄を実現させるため、前時代のような手間と時間のかかる料理という非効率的な作業を禁止し、全国民統一した食事による食糧の持久力の伸ばすことにした。
私が知る限りの知識で理解していること、それは料理というものは調達、調理、調味の三つの要素を備えているのではないかと考えている。なぜならこれら三つのことは政府が食罪として定めているからだ。料理により手間暇をかけるくらいなら、最も効率の良いゼリー食を食べ、国や隣人のために時間を有効活用したほうが良いのだ、と政府が国民に示している。
しかし、料理とそれと関連する三つの要素が禁止されていても知ることはできた。
まだ若かったころ趣味の読書を通して料理というもの初めて知った、というよりは前時代に書かれた本には必ずといっていいほど料理が出てくるので嫌でも目に付いた。例えば、『虐殺器官』ではハラペーニョという料理が他所で作られて自宅まで運ばれてくるサービスがある。『ハーモニー』では、真っ赤なトマトのかけらと真っ白なモツァレラチーズにオリーブオイルを掛けたカプレーゼという料理が出てくる。前時代は料理を手軽に食べることができるほど料理が身近であったのだ。
これらの本も現在では手に入れることも難しくなってしまった。しかし、世の中には物好きがいて未だに紙の本でコレクションしている人もいるのだというから驚きである。本には本で、料理のように政府が規制を強めている法律がある。
私の生きる世界では、政府がすべての食事を用意してくれる。弾力のあるゼリー食。栄養の調整されたゼリー食。これだけ食べているのなら、まず餓死することはありえない。子供のころからそう教えられてきた。
そして、国を治める偉大なるジョン・スミスに従うなら、何不自由なくこの国で、この世界で生きていくことができる。彼には決して嘘偽りは通用せず、隣の人は隣の人の行動に責任を持つというのがジョンの教えであり、定められた法律だ。法を犯す様なことはたとえ家族であったとしても政府直轄の警察に報告する義務がある。
偉大なるジョン・スミスは言う「団結は繁栄である」と。
ジョン・スミス万歳。
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