脳再忘

キム猫

第一章 首のない不気味な焼死体

第1話 戦慄の記憶①

名古屋のとあるアパート、【アンカンスィエル名古屋】の二階に暮らす『幸也ゆきや』のもとに警察がやってきたのは昨日のことだった。



ピンポーン!


「はぁい」突然起こされた反動もあってか、頭が全く回らない。


「こんな時間になんなんですか」鍵を開け、扉を開いた。


時間は既に午後11時を過ぎていた。


安田栄太やすだ えいたさんの弟さんですよね?あっ我々は警察の者ですのでどうぞご安心を」


若いほうの刑事が話し、少し貫禄のあるほうの刑事が警察手帳を見せてきた。


安心どころか、背の高い2人の刑事の威圧は大きく、幸也は動揺を隠せなかった。


「お、お疲れ様です…。えっ…な、なんですか」


新米刑事の『栗原穣くりはら みのる』が事件について語り始めた。


「安田栄太さんは今日、亡くなりました。火事に巻き込まれたんです。消防隊が駆け付けた時には手遅れでした。彼の住むアパートは全焼で犠牲者は…ベラベラベラ」


淡々とした口調で話す栗原に、ベテラン刑事の『新妻啓吾にいづま けいご』は警戒心を抱いていた。


案の定、幸也はパニクった。


魚のように口をパクパクさせていた。


新米、栗原はその様子を見て、大きな戦慄を覚えた。


物凄く気まずい状況である。


結局、幸也は栄太が死んだことだけを聞かされ、刑事たちは帰っていった。

 


彼らが帰ってしばらくした後、幸也はようやく落ち着きを取り戻した。


正直、彼らの話は半分以上聞いていなかった。それどころじゃなかった。


心臓がバクバクしていて平然を保てなかったからだ。



そして、『安田栄太』という名前を思い出した。





だが、どれだけ記憶をたどってもそんな名前の知り合いはいなかった。


MINEの友達リストにも、連絡先にも、卒アルにも、そんな名前はなかった。



だったのだ。




「エイタって誰だ」



睡魔から一気に解放され、その日はもう寝れなかった。


  ●


新妻は捜査を兼ねて幸也に栄太のことを聞くつもりだったが、彼がパニックになるとは思ってもいなかった。


大体、よく事件が起きたときは地方の新聞やネットニュースで報道されるからだ。

名古屋といった都市でも例外ではない。


恐らく、事情を知らなかったうえに、栗原の説明が下手くそだったのだろう。


それとも彼は警察が来たからパニックになったのか…。



「これはめんどくさいことになりそうだな」


心の中で、新妻はそう思った。

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