近未来ショート集(お陰様で200PV突破!)

金星人

睡眠保証剤

「はぁ、今日も終わらなかった。また『残業』しないと。」

「今日も終わらなかったのか。業績が良くないぞ。」

「はい、すいません。」

彼は一人の平凡なサラリーマン。今年で入社して3年目と、段々と仕事に馴れてくるという時期なのだが少々不器用なところがあり仕事の進みが遅かった。その為最近は少々無理をしがちになってしまい、寝不足が続く日々。パフォーマンスに響くのも不自然ではなかった。

「まぁ明日から土日だし、ゆっくり休め。休まないと体を壊すからな。」

「えぇ、有り難うございます。」

そんなやりとりだってただの建前。残った自分の仕事に加え新人が残した仕事も分担で手伝わないといけない。土日 = 休日になんて出来るわけがなかった。

「あぁ、毎週が憂鬱だ。やってもやってもすぐに月曜がやってくる。こんな仕事量、おかしいに決まっている。既定時間で終わる筈がない。とは言え仕事は終わらさないとなぁ。いっそのこと全く寝なくても良くなる方法なんてものがあれば良いのだが。」

帰宅途中そんなことを考えていた。そして昨日と同じように最寄り駅のコンビニへ寄る。今夜の晩ご飯だ。自炊をする時間などあるわけが無い。いつも通り弁当のコーナーで半額シールの付いたものを選び、栄養ドリンクを取ろうと隣の棚のドアに手を掛けた時だった。

「なんだこれ。見たことの無いドリンクだ。新商品かな。」

ラベルには

「これ1本で8時間睡眠!飲めばたちまち眠気もスッキリ消える!」

と書かれていた。

「いかにも嘘臭いな。だがこんな状態だ。背に腹は変えられん。」

この頃飲んでいたドリンクの味に飽きていたということもあり、気分転換に買ってみることにした。

早速家に帰り、弁当を食べ終わった後袋からドリンクを取り出す。

「買ってみたもののやはり嘘臭いなぁ。こんなものが本当に効くならこんな苦労なんてしなくて済むのに。」

無い物ねだりをする暇があるならさっさと残りの仕事を片付けて少しでも早く寝なければ。彼はキャップをひねり、さっさと口に流し込んだ。

すると体に驚く変化が現れた。ここ最近感じていた鈍い頭痛やこめかみを押さえつけられるような痛み、目の疲れ、全身のだるさがシュワーっと瞬く間に消えていった。

「おぉ。なんだこれは。こんな爽快感は久しぶりだ。全く取れなかった眠気もだるさも全くない。どうやらこのドリンク、嘘では無いようだ。」

彼は感動した。こんな健康体がまた自分に戻ってくることなどもう諦めていた。然したかがこの栄養剤で全身にみなぎるパワー。嬉しく思うのも無理はなかった。

「よし、さっさと仕事を終わらそう。これなら早く終わりそうだ。」

彼は久しぶりに得た高い集中力ですぐに仕事に仕事にかかった。

「全く眠くない。本当に8時間寝た後みたいだ。もうこれからはこれがないとやっていけないな。」

それからというもの、彼は平日は必ずドリンクを飲み続けた。お陰で寝不足による体調不良とは無縁になり仕事も前よりも随分こなせるようになった。確かに残業分は出てくるが徹夜など怖くない。このドリンクさえあれば。


然し1つだけ改善しないことがあった。彼の業績だ。周りと全く差が埋まらない。

「お前の業績の悪さは相変わらずだな、全く。しっかり頼むぞ。」

「はい、すいません。」

彼にはとても不思議だった。

おかしい。何故だ、俺はあのドリンクで明らかに仕事がはかどるようになったのに。

一人で悩んでいると同僚が声をかけてきた。

「どうした。悩み事か。」

「あぁ。入社してからというもの、なかなか業績が上がらなくてな。」

「そうか。ならば取って置きのものをくれてやろう。ほれこれ、俺も最近見つけたんだけどな。徹夜も楽勝になる。なんと言ったってこれさえ飲めば8時間睡眠だからな…」

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