第10話 僅かな休憩
強盗団が撤退し、脱線した列車の復旧が始まった。
街から左程、離れていなかった為、応援が多くやって来た。
「復旧は半日ぐらい掛かるそうです」
カールは復旧作業の進捗をレイに説明した。
「予定より1日は遅れそうですね。仕方がありませんが」
元々、数日の遅れは予定に入っている為、時間的には問題では無かった。
だが、早々に襲撃を受けた事は想定内とは言え、レイは不安を感じ得ずにはいられなかった。
「今回は前を走らせている先遣隊が察知する事が出来ませんでした。今後は待ち伏せが想定される場所では周辺を探らせます」
「そうなると、更に進行速度が遅くなるね」
「仕方がありません。計画がすでに強盗団に知られています。今なら中止する事も可能ですが・・・」
「そう言うわけにもいかない。この金塊を元手に事業計画も進んでいる」
「承知しました。街からの増援もあり、警備の状態も元通りです」
「まだ、先は長いが頑張ってください」
レイの言葉を受けて、カールは復旧作業の指揮に戻って行った。
イブキはカールの飲みさしのカップを片付ける。
「イブキも体を休めて、さっきの戦闘で疲れただろう」
「問題はありません」
イブキは片付けなどの手を休めなかった。
メイドではあるが、身辺警護としての役割が大きいイブキにこうして、メイドの仕事をさせる事にレイは躊躇いもあった。
はっきり言えば、イブキに払われている賃金は左程、高くはない。無論、普通のメイドに比べれば、高いし、用心棒を雇うぐらいには払っている。だが、それでも安いと感じさせるのが彼女の働きぶりであった。
そもそも、イブキがメイドとして雇われたのは3年前である。
その頃はまだ、イブキも幼さを感じさせる少女であった。
だが、どこか冷徹な感じで、無表情な少女であった。
黒髪から彼女がアジア人であることは一目瞭然であったが、当時、労働力や商売として多くアメリカに渡っていた中国人との見分けはレイにはつかなかった。
イブキは武士であった父親に連れられてアメリカにやって来た。彼女の父は刀に長け、鉄砲などにも長けていたらしい。その腕で探偵として、護衛などをやって、稼いでいたらしい。それでレイの父とも知り合った。その後、イブキの父は護衛の任務の途中で死んだ。それを知ったレイの父はイブキをメイドとして雇ったのである。
イブキは幼少期から父から剣術、体術などを教わっていた。それはすでに一人前の侍と呼べるレベルであった。それだけじゃなく、元来、頭も良いようで、メイド仕事もすぐに覚えた。
レイの父はレイと年齢も近いイブキをレイの護衛として、常に身近に居るようにと命じた。それから3年、彼女は常にレイの傍に居る。
イブキは手慣れた様子で紅茶を淹れる。
「主様、お茶です」
出されたお茶を口にするレイ。
「ありがとう」
レイは落ち着き払ったように椅子に腰掛け、作業を眺める。だが、内心はいつ襲われるのかと不安で仕方がなかった。
多分、この休憩の間も強盗団はこちらを監視している。
これだけの金塊となれば、強盗団にしても簡単には諦めないだろうとはレイは思った。ただ、今さっき、追い払われたのでは戦力的に再度、襲撃を掛けるのは難しいだろう。
「もし・・・襲撃を掛けるなら、次の街の手前ぐらいか」
レイはそう呟く。
「安心してください。次こそは敵のボスを仕留めます」
イブキはレイの呟きにそう答えた。
復旧が予定通り、半日で終わった。街からの応援は帰り、列車は再び走り出した。
補充された警備の人間。
一度、襲撃された事で皆、不安と緊張が広がっている。
戦争を経験した手練れでも襲撃に対しては恐怖心だってある。
銃を手にする者は誰もが死を意識するものだ。
それはイブキだって同じだ。
常に死を意識している。だが、死よりも彼女が恐れているのは守るべき者を守れぬこと。使命を果たせぬまま、生きる事が怖かった。
彼女が持つ刀はカタカタと震えた。
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