第3話 襲撃者達
朝を迎え、レイを起こすイブキ。
起こされたレイは用意された衣服に着替え、顔を洗う。
「主様、今日の予定でございます」
執事がメモを読み上げる。
「午前中はホテル、サンセットの視察。午後からは書類仕事でございます。夜は銀行の頭取と会食となっております」
「そうか・・・警備の増強の方は?」
「すでに警備担当のモーガンに命じております。計画書が明日までには提出されるかと」
「早い方がいい。キナ臭くて堪らない」
「そうですね。急がせます」
「そうしてくれ」
イブキが用意した朝食の置かれたテーブルにレイは着席する。
「街が血生臭くなるのは困るな。ただでさえ、酷い風邪が流行しようとしているそうじゃないか?」
レイはイブキに尋ねる。
「スペイン風邪とか呼ばれるものですね。しっかりと食事と睡眠を済ませれば、掛かりません」
「そんなものかい?」
「不摂生が病気には一番悪いのです」
まだ、医学がそれほど充実した時代では無い為、予防に関しても様々な考え方が横行していた。
「まぁ、健康が一番だからね。それで・・・君はなんで、刀を腰に挿しているんだい?」
レイはイブキがメイドのワンピースの腰を絞るベルトに刀の鞘を挿しているのを気にする。
「いつ、主様が襲われても良いようにです」
「なるほど・・・しかし、僕にだって、警備の者は連れて歩くからね。君は確かに凄い剣術使いだけど、相手は銃を使うんだ。無理をする必要は無いよ」
「はい・・・しかし、何かあれば、最後はこれが物を言います」
イブキは刀の柄を握りながら言う。
「そうか・・・まぁ・・・いいや。僕だって、こうして、拳銃を持っているわけだし」
レイはFN社の1910中型拳銃を取り出す。小型な拳銃ではあるが、世界的なベストセラーになった中型自動拳銃でもある。
「主様、食事中に武器を出されては・・・」
執事がレイを窘める。それにレイは恥ずかしそうに銃をしまい、食事を続けた。
食事が終わり、レイは出掛ける準備をする。
身だしなみを整え、磨かれた革靴を履く。
「イブキ、行くよ」
そう言うと、革のショートブーツを履いたイブキもメイド姿に日傘を左手に持ち、レイの後を歩く。
当然ながれ、レイを守る為に雇われた男達が黒い背広姿で周囲に立つ。
まだ、ボディガードなんて言葉の無い時代だが、彼等は元軍人や警察官などの腕に覚えのある者達ばかりだった。
無論、腰には拳銃が携えられている。
車はレイが乗り込む車を挟むように一台づつが置かれている。
まだ、自動車だって、それほどは普及していない時代。こうした事にも資力の差は出る。
「主様、まずはファーマス銀行へと向かいます」
運転手がそう告げる。
「あぁ、頼む」
レイがそう告げると、車列はゆっくりと走り出す。
ファーマス銀行は街で一番大きな銀行であり、ここはレイの事業の一つであった。
レイの自宅から銀行までは車で30分。
決して長い道のりでは無いが、その途中にはあまり治安の良くない下町があった。
「相変わらず汚い場所だ。警察にはここの治安を頼んでいるはずだが・・・」
レイは落書などがされた建物や荒れた雰囲気に嘆息する。
さすがのレイの力をもっても街全てに投資する事は相当の見返りがないと出来ない。当然ながら、このような下町に投資などしてもそれで得られらる利益は期待が出来ない。
「こうした場所に不良は集まって来る・・・ギャングとかね」
レイは呆れたように言い放った。その時だった。
先頭の車が急停車をする。それに合わせて、レイの乗った車も急停車する。
シートベルトなんて無い時代だ。レイは前のめりに座席から落ちかける。
「何事だ?」
レイが尋ねる。
「解りません。前の車が・・・」
運転手が慌てて応える。すると、前の車から警備の男達が銃を片手に飛び降りる。
「襲撃だ!」
その内の1人がそうこちらに叫んだと途端、銃声が鳴り響く。
銃弾が飛び去り、戦闘が始まった。
「主様、逃げます」
運転手が慌てて、車をバックさせようとする。
プアアアア
クラクションと共に突如、現れたトラックと車は衝突した。再び、レイは座席から落ちかける。
「何事だつ?」
レイが後ろを見るまでもなく、車の扉を開け放ち、イブキが外へと飛び出る。
「主様!逃げる準備を」
イブキはそう言い放つと刀を抜いた。
トラックから7人の男達がワラワラと降りてくる。その手には拳銃や散弾銃、ナイフがあった。
イブキは降りた瞬間の無防備な男を一太刀で殺す。続け様にもう一人の胸に刀を突き刺す。男達はその躊躇無い攻撃に圧倒される。生まれた僅かな隙をイブキは見逃さない。そのまま、更に二人を刺し殺す。
「てめぇがレイか?」
だが、トラックの反対側から3人の男がレイの乗った車に来る。だが、銃声が鳴った。中を覗き込んだ男の額に穴が開き、彼はフラりと背後に倒れた。
「この糞野郎!」
その様子を見た二人は車に向けて、手にした拳銃や散弾銃を撃つ。銃弾はガラスを割り、車の外装に穴を開ける。
「うぁああああ」
拳銃を手にしたレイは慌てて座席の下に隠れる。運転手は扉を開いて、転がるように出た。
「やめろぉおおおお!」
彼らの背後からイブキが襲い掛かる。振り下ろされた刀が一人の男の頭を激しく叩き、もう一人の首をへし折った。
「はぁはぁはぁ。主様、御無事ですか?」
イブキは車の中を見た。そこには飛び散ったガラス片を浴びたレイの姿があった。
「あぁ、僕は無事だ。他の者は?」
「あちらの方はすでに敵が去ったようです。こちらにも被害があるようですが」
「負傷者をすぐに手当てを・・・車が動くなら・・・屋敷に戻るしかないか」
「左様ですね。警察を呼びに行かせます」
「あぁ、頼む」
レイは何とか立ち上がり、周囲を見渡した。
車はハチの巣で酷い有様だった。銃弾が貫通しなかったのは鉛玉ばかりだったからだろう。
「こいつら・・・どこの手下だ?」
レイは倒れている男達を見る。その場に転がっている男達はすでに絶命しているので、聞き出す事も出来ない。
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