ネアンデルタール人殺人事件

セイン葉山

プロローグ

巨大なエネルギーで空間を加速させ、時間粒子をコントロールすることによって、タイムリープが理論的に可能になった近未来の話である。

 可能になったとはいえ、巨大な空間と設備、膨大な費用が必要とされ、それは簡単に実現できないものであった。

 そこで、各国が研究者と費用を分担する国際共同プロジェクトチームに、民間の大資本が出資する形で、「タイムサーチプロジェクト」が始まった。各国の研究所がインターネットでつながれ、転送センターは、イスタンブールにおかれた。

 当初は探査カメラや記録ロボットを過去に送るプロジェクトで注目されたが、それが成功を収めると実際にパイロットを過去に送り出す計画が進められ、かつての宇宙パイロットの選考のように、世界各国から優秀な人材が召集され、訓練を受けていた。

 宇宙飛行士と大きく異なるのは、宇宙のような閉鎖空間ではなく、開かれた広大な異空間での、行動力やサバイバル能力が要求されることであった。過去のその時代への深い知識と立体カメラなど最新の機器の操作訓練の他に、実際に飛ぶ時代に合わせたジャングルなどでのサバイバル訓練等も盛んに行われた。

 隊員たちの3分の1は歴史学者や人類学者、3分の1は考古学者や生物学者、残りは各分野のスペシャリストが占めている。

 時間転送を行う研究者や技術者のチームの他に、何を調べるかを計画する時間調査企画会議と、それに伴う倫理規定を定める時間倫理委員会が設置され、協力して運営に当たっている。

 では、これまでの計画の概要を説明しよう。


ダイナソーアイプロジェクト


 タイムマシンの試験的段階として、タイムシャトル機能を備えたカメラを白亜紀に5台送り込んだ計画。2台が無事帰還し、そのうち一台が新種の大型ラプトルをとらえることに成功。もちろん当時の気候や植物、カメラの周辺の小動物など様々な貴重なデータや映像がそこにあり、全世界の注目を集める。


リアルイブプロジェクト


 ダイナソーアイの成功を受けて、実際に人類を過去におくる計画が立てられた。時間企画会議は大論争の結果、地形や気象が現代と差異の少ない20万年以内で、人類の大きな歴史に関係するものがテーマとなった。結果、すべての人類の先祖と言われている「イブを探索するというプロジェクトが動き始めた。

 女性だけに伝わるミトコンドリア遺伝子を追いかけ、最初の一人を見つけてこようという壮大なプロジェクトだった。

 そして、ターゲットとなったのは、18万7千年前の当時は森林の多い、地中海に面した北アフリカだった。時間倫理委員会は慎重で、まだデジタルデータ以外の持ち帰りを認めていない。隊員は、各種の分析装置を持ち込み、最長二週間の長期にわたって、過去での調査を行う計画であった。

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