5.パーティ結成!
翌日、早くも貼り紙の効果はあった。
アーシェが昨日と同じように朝からギルドに足を運ぶと、先日の老紳士がにこにこ笑って手招きしていた。
手招きにいそいそとカウンターに行けば、椅子に掛けるように勧められて腰を下ろした。
「アーシェリア、さっそく希望者がいましたよ」
「え、昨日貼ってもらったばかりなのに?」
昨日の今日で?と翠眼を瞠るアーシェに、老紳士は大きく頷いた。
「希望通り、戦士、癒し手の2人で、2人共『剣』の刻印です。昨日のうちに癒し手が貼り紙について聞いてきて、今朝、戦士の…ああ、彼ですよ」
カウンターでメンバー募集に応じてくれた人物の話を聞いていれば、老紳士はアーシェの後ろを示した。
促されるようにして振り返れば、昨日の背中にぶつかってしまった長身の青年がびっくりしたように自分を見ていた。
「丁度良かったですよ。今彼女にきみのことを話していたんです。…アーシェリア、彼が今朝メンバー募集に応じてきたエドガーですよ。…エドガー、彼女があの貼り紙を出したアーシェリアです」
カウンターの老紳士は眼鏡の奥の目を柔らかく細めて、互いの紹介をする。
まさか昨日、募集の用紙を取りに行った時にぶつかった彼が募集に応じてきた人とは思わなかった。
アーシェが偶然の引き合わせに驚いていれば、エドガーがその青空のような目をやわらげて問いかける。
「ああ。昨日はすまなかったな。もしかしてあの時、この貼り紙を出すつもりだったのか?」
「わたしのほうこそごめんなさい。…実は、募集の貼り紙を出したくて、用紙とかを貰いに行っていたんです」
つられるようにアーシェも笑みを浮かべて、昨日の状況を説明した。
次いで、昨日登録したばかりであることと、2人仲間がいることを話せば、エドガーは自分の身分証を取り出してカウンターに置いた。
「ローウェンさんから聞いたと思うが、一応、戦士で登録をしている。刻印は『剣』だ」
ローウェンとは老紳士の事だろう。自分の真新しい身分証と違って、小さな傷がいくつか見受けられるその身分証には
【エドガー・オルコット 1256年8月21日 クラス:戦士 拠点都市:ヴェルーク】
と記され、裏面を返せば剣の刻印が施されていた。
「わたしたちは先日登録したばかりの『刻印なし』の状態だけど、本当にいいんですか?」
自分の身分証を取り出して、エドガーの身分証を返す際に自分のも差し出しながら、アーシェは恐縮しながらも気になっていることを口にした。
エドガーは身分証を受け取ると、そこに書かれたアーシェの情報を見ながら裏面に返してまだ刻印のない、つるりとした面を指で撫でた。
「ああ。俺もパーティに加わろうかと考えていたところだったんだ。仲間としてうまくやっていける相手なら、刻印の有無は気にしていない」
身分証をアーシェに返しながら、そう答えたエドガーにアーシェはローウェンが笑顔で頷いているのを感じながら切り出した。
「仲間に会ってもらってもいいですか?加わってもらえたら心強いです」
「ああ。構わない。お前の仲間が来たら、俺に紹介してほしい」
快くエドガーは応じてくれたのだった。
・・・・・・・・・
果たして。
程なくジークがセイシェスと共にギルドへ姿を見せれば、カウンター傍でエドガーと2人を待っていたアーシェはさっそく奥のテーブルへエドガーと2人と共に移動して、いきさつを説明すれば、ジークたちもエドガーの加入はありがたかったらしくすんなりと話はまとまったのだ。
「ローウェンさんの話だと、後1人、癒し手さんが応じてくれたみたいなのだけど…名前はクレールさんということくらいわからないの」
詳しい情報を聞きたかったが、ローウェンの「いい人ですよ。あとは会ってみることです」と、個人の情報をギルドの係員が勝手に話すのは憚られるようで、やんわりと断られてしまったのだ。
「ま、そいつもアーシェの事を探しているかもしれねぇし、あのジェントル爺さんも、見かけたら待機所にいることを伝えてくれるっていうんだから、待つしかねぇよな」
「ジーク、ジェントル爺さんって…」
「ジェントル爺さん?!わたしも名前がわからなくて老紳士さんって心の中で呼んでいたの」
見たままなネーミングセンスにセイシェスは小さく吹き出してしまい、「ジェントルだよな?」と追い打ちをかけるジークを苦笑交じりに
「まぁ、紳士的な人だからわからんでもないな」
可笑しそうにエドガーも小さく笑う。
そんな時、深草色のローブを纏った人物がアーシェたちを見止めると、「あ」と小さく声を上げて急ぎ足でやってきた。
年の頃は23、4くらいだろうか。温和な、どこかほんわかした雰囲気を持った青年だ。
「あの、アーシェリアさん、ですか?」
「あ、はい。アーシェリア・ルベイユです。…あなたは?」
アーシェが名乗れば、青年はほっとしたように表情を緩めた。
そうすればさらに柔らかな雰囲気になり、ほんわか、おっとりした雰囲気が強くなる。
「僕はクレール・ロジェです。よかった、さっき僕の名前が聞こえた気がして思い切って声を掛けたんです」
胸のあたりに手を置いて笑う彼は、その服装からしても言動からしても確かに癒し手だろう。
むしろ彼自身の纏う雰囲気が癒し系だ。
「じゃあ、あなたが募集に応じてくれた方なんですね」
どうぞ座って、とアーシェは開いている椅子を示した。
クレールはゆったりとした動作で椅子に腰を掛けると、はっとしたようにローブの襟元に手を掛けて、首に下げてしまっていた身分証を取り出した。
「一応、刻印は『剣』なんですけど…」
そう前置きして首に下げる紐ごと外してプレートをアーシェに差し出した。
【クレール・ロジェ 1258年9月29日 クラス:ドルイド 拠点都市:ヴェルーク】
「森の守護者のドルイド、ですか?」
セイシェスがクラスに目を止めて、その紫水晶のような瞳を向ければ、クレールは「ええ」と頷いた時に顔にかかった、白銀の髪を払って補足する。
「僕の場合、森だけでなく自然は崇拝対象です。自然の中にいる精霊の力に力を貸してもらうんです。…あ、あと薬草から薬を作るのは得意です」
癒し手、と呼ばれるクラスは、僧侶や修道士系、薬草士などあるが、クレールの場合は自然の中にある精霊に呼びかけて力を借りるもので、僧侶系に近くそれでいて精霊術やシャーマン寄りなのだろう。
これです、とクレールは腰から下げている平たい布カバンから複数の薬草を調合した小瓶を取り出してテーブルに置く。
濃い緑色のどろりとした液体の薬と、茶色に近いさらさらした粉末状になった薬と、いくつか種類があるようだ。
「こっちは外用薬です。怪我などに塗る薬で、これは内服用です。ちょっとした解熱剤です」
1つ1つ説明するクレールに、感心したようにジークがその小瓶の一つを手に取る。
「すげぇな。怪我以外の薬も調合できるのか」
「薬草士みたいなこともできるんだな」
エドガーも興味深そうに並べられた薬の瓶を見つめている。
「アーシェ、どうでしょうか?私としてはぜひ、加わってほしいのですが…」
自然の力を借りるドルイドだが、逆を言えば木々がないところ、街中や建物といった建造物や人工的に作られた場所などでは殆どその能力を使うことができないということだが、それを補える薬草などの知識や調合できる能力は、同じくらいに有力である。
セイシェスの言葉にアーシェはクレールに向き直り、手を差し伸べ握手を求めた。
「クレールさん、パーティに加わってくれませんか」
「はい。どうかよろしくおねがいします。ああ、それと、僕の事はクレール、と呼んでくださいね」
その手を取って、クレールはふわりとした笑顔を浮かべたのだった。
こうしてヴェルークのギルドに1つの新しい冒険者パーティが結成されたのである。
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