第11章 勇者とエクソダス編
第120話 始動エクソダス計画!
広場を埋め尽くす600人を超えたポークの民、大人も子供も関係なく皆が荷物を持ち、長が現れるのを待っていた。
希望に満ち溢れる者、笑顔の者、悲しげな顔の者、泣く者、さまざまな感情が広場に渦巻き、混ざり合った思いが熱を帯びていた。
そして待ちに待った族長カイザーが広場に現れるとら割れんばかりの歓声が上がる。
皆より一段高い壇上へと上がったカイザーは、広場にいる600人の姿を見渡した。
「皆の者、時は来た! 我らポーク族は、今より明日へと歩み出す! 今さら皆に言うことは何もない。皆が選び選択した明日なのだから! だが、あえて皆に言わせて欲しい! 死に行く者よ、自分の勇気を誇れ! 生きし者よ、命を繋げ! 旅立つ者達よ、恐れるな! 明日の希望のために今を捨てる勇気を持て! 皆の者、さあ、行くぞ! ジークポーク!」
「生きてやるわ!」
「せいぜい華々しく散ってやろう!」
「やってやる! 一人でも多く助けるためにら一人でも多くな!」
「必ず新天地でパコパコしてやる!」
「だれかソイツを黙らせろ!」
「うお〜!」
「ジークポーク!」「ジークポーク!」「ジークポーク!」
「ジークポーク!」「ジークポーク!」「ジークポーク!」
「ジークポーク!」「ジークポーク!」「ジークポーク!」
三者三様の思いを込めて、オーク達の声が広場に響き渡る。
「ヒロ……マインドコントロールは、本当に解けているのですか?」
「そのはずです。少し影響が残っちゃいましたかね? まあ合言葉程度の使われ方なら問題ないでしょう」
リーシアがオーク達の瞳に映る精彩を確認する。
「以前のように、目が暗く濁ってはいませんから、大丈夫そうですが……」
「リーシアは心配性ですね。イテテッ」
横に立つリーシアが『ムッ』とした表情でヒロの頬を軽くツネッてきた。
「全部ヒロの
「ごめんリーシア」
「分かればいいです」
するとリーシアがツネっていた指を離し、軽く頬をなでていた。
「ヒロ〜!」
カイザーが各々に指示を与えている間、暇を持て余したシーザーがヒロの元に駆けて来る。
「シーザー君、もう出発の準備はいいのですか?」
「うん、もう持ってく物はまとめたよ。それより聞いてよ! 俺、父上から役目を与えられたんだ」
「おっ、どんな役目ですか?」
「皆を西の平原まで安全に案内する役目だよ!」
オーク村から、西の獣王国に辿り着くには広い森を抜ける必要があり、森の地理に詳しくないと迷ってしまう。現にヒロもリーシアと出会うまで、三日も南の森を彷徨っていた。
「大事な役目ですね」
「へへっ! 前に父上と夕日を見た時に、安全な森の抜け道を覚えてたからさ、父上が俺にその役目を託してくれたんだ! 俺、頑張るよ!」
「そうですか……シーザー君、頑張ってください」
「うん。でもヒロも頑張ってね」
「はい。僕も頑張ってエクソダス計画を成功させますよ」
「違うよ!」
するとシーザー君が隣でヒロとシーザーのやり取りを見守っていたリーシアをチラリと見る。
「リーシア姉ちゃんと早くパコパコできるといいね!」
「え? ちょっ、僕とリーシアはそういう関係では」
「ん? ヒロどうしました? そういう関係ってなんの話ですか?」
言葉が分からないリーシアがヒロの言葉に疑問を抱き話に割り込んでくる。
「いや、なんでもありませんよ。リーシアさん!」
「怪しいですね……また良からぬ事を企みましたか?」
リーシアが拳を握り、ヒロへにじり寄る。そんな二人のやり取りを見てシーザーは笑っていた。
「あははははっ、あっ! 出発するみたい。先頭に行かなきゃ、ヒロじゃあね〜」
「さようならシーザー君、またどこかで会いましょう」
「さようならです。アリアさんを困らしちゃダメですよ」
シーザーが笑いながら手を振りアリアの元に走って行く。
遠くからヒロとリーシアに気づいたアリアが、手を振ってくれた。
ヒロとリーシアも一生懸命に手を振り、二人の姿が見えなくなるまで振り続けた。
400名のポーク族がシーザーの案内の元、広場から去って行く……二度と戻らない旅立ち。
だが旅立つ400人の誰もが泣いていなかった。広場に残る200人の者達も……誰一人として泣く者はいなかった。
「さあ死に行く者よ、手はず通り動くとするぞ。人族をここに集め、我らの死を持ってオーク族は全滅する。明日のために、華々しく死んでやろう!」
「おうよ」
「一人でも多く倒して誉れとしよう」
「腕がなるわい」
「任せろだべ〜」
オークの戦士達がカイザーの言葉に声を上げる。
「森に牽制に出る者と、村を偽装する者に分かれるぞ」
「「おう!」」
「森の者はできるだけ深追いはするな。死に場所はこの村だからな」
「任せろ」
森の戦闘に長けた戦士達50名が、武器を手に森へと歩き出す。
その足取りは軽く、これから死地に赴くとは思えない程落ち着いていた。
死を恐れない、死を覚悟した死兵が森へと歩き出す。
「村を偽装する者は、家を壊し森で狩っておいた獲物の血を地面にばら撒け! できれば我らが共食いして、数を減らしたように肉片や骨をばら撒くのを忘れるなよ? ヒロはアイテム袋から、各場所に獲物を出してくれ!」
「死体を槍で突いて、血をまき散らすだけの簡単な仕事だ」
「すぐに終わらせてやる」
「分かりました。あと人族にオーク達が狂って共食いを始めた情報を流します。これでオークの数を労せず減らせると、行軍を止めるはずです」
「これでアリア達が逃げる時間が稼げるな……よし、オーク族最後の時だ。オークのオークによるオークのためのオーク
「おう!」
ヒロとオーク達は、明日へ向かって走り出すのだった。
…………
「ナターシャさん、ヒロからメールです。オーク達が突如狂いだし、共食いを始めたと」
「なんですって⁈」
「理由は分からないそうです。突如オーク同士が争い殺し合いを始めたと……」
ナターシャはヒロの不可解なメール内容に疑問を覚えた。
森の恵み豊かな南の森で、オーク達の共食い……飢えによるものとは考えにくい。ナターシャは狂ったと言うヒロの言葉に疑問を抱いてしまった。
あまりにも人にとって都合の良い展開に、作為的な何かをナターシャは感じていた。
だが、ヒロがオークに味方する理由もない。逆に言えば、この状況はナターシャ達にすれば願ってもない状況であった。
「ヒロが何か企んでいる? ……まあいいでしょう。この勢いに乗らない手はないわ。乗っかっておきましょう。ドワルド指揮官に伝令を出しなさい」
森を行軍する討伐隊1300人に朗報がもたらされた。
ヒロからのメールは、討伐隊にとって貴重な情報をもたらしてくれた。
「なんだと! 本当か? だとすると、我らにとって願ってもないチャンスだ」
討伐隊を指揮するドワルドは、もたらされた情報に両手をあげて喜んだ。
「これは上手くすれば半分位まで減ってくれるか? なら勝機は見えてくるぞ!」
「そうね、オーク500匹と250匹では難易度が違うわ」
「うむ、こちらは1300、5倍近い兵数ならなんとかなるやも知れん」
「森の中だけど、ここは行軍を休息に変えて、オークの数が減るのを待つのが得策かしらね?」
「うむ、オーク達も互いに戦い、疲弊するはずだ。そこを一気加勢に責め立てれば、数の問題は何とかなりそうだ!」
「でもそれだと、捕まっている者達が危ないわ。できれば少数精鋭で先に救出しないと」
「馬鹿な事を言うな! たった二人の命のために、貴重な人員を割けるか! 情報には感謝するが、救出するかどうかは別だ。我々は、オークヒーローと全てのオークを討伐しなければならないのだぞ。今は一人でも兵が必要なのだ」
「そうね……でも……」
そこでナターシャは言葉を途切れさせてしまった。
オークヒーローに勝てる可能性のある
ドワルドの言う通り、オークヒーローを倒しても、残ったオーク達も全て討伐しなければならない。
そのために、貴重な人員を失うかもしれない危険な救出作戦を、無理に提案する事がナターシャにはできなかったのだ。
それはヒロと名の知れぬ兵士、そのどちらも同じ重さの命だからだった。
「オーク村襲撃時に、救出に向かうのは許可してやる。今はダメだ! いいな?」
「……分かったわ。じゃあ今日は村の少し前まで行軍して、夜営で良いかしら? 攻撃は明日の朝と言う事で?」
「ああ、それでいい。明日はオーク共との決戦だ。全兵に英気を養わせろ」
ドワルド指揮官との話を終えた冒険者陣営に戻ってきたナターシャに、ケイトが声を掛ける。
「ナターシャさん、どうでした?」
「今日はもう少し行軍して、野営に入るわ。オーク村を攻撃するのは明日の朝よ……」
「そんな……ヒロさんとリーシアさんが危険な状態なのに、せめて私たちだけでも救出に」
「ダメよ。先行して救出部隊を出すことは許されなかったわ。命令を無視すれば私たちは罰せられてしまう。今は信じて待ちましょう。ヒロとリーシアちゃんの無事を……」
歯痒いが今のナターシャ達には、ヒロ達の無事を祈ることしか出できないのであった。
〈二人を信じて安否を心配するナターシャのすぐ近くで……希望がウロチョロと暗躍をはじめた〉
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