第107話 リーシア先生の文字講座!
「あと五日ですか……計画を早める必要が出てきました」
ヒロは計画の前倒しを頭の中で行っていく。
計画を早めても
「リーシア、文字の習得状況はどうですか?」
「はい。アリアさんとシーザー君を始め、女性や子供のオークは覚えが早いですね。ある程度の簡単な文なら問題なさそうです」
ガイヤ公用文字を覚えるべく、通訳の傍、オークと一緒に文字講座へヒロも参加していた。言語習得スキルで文字習得にプラス補正があるヒロは、すでに日常会話なら、問題なく読み書きできるほどに文字をマスター済みだった。
オーク達の文字習得は意外に順調で、最初の頃はヒロが通訳としてリーシア先生の文字講座を手伝っていたが、昨日からは通訳なしで、リーシアとオーク達が筆談で文字を学んでいた。
地面に木の棒で文字を書き続けるオーク達……ヒロがふと、オーク達が何を書いているのかを、読み書きの練習がてら覗いて見ると……。
[ちょっと奥さん聞いた?]
[なになに?]
[オク次郎さんトコの息子さん……浮気がバレて一晩中、奥さんに森の中を追いかけ回されたって]
[まあ? 真面目そうに見えても雄なんて、みんな同じね]
[ほんと、雄ってどうしょうもないわね。他の雌と二股を掛けられて、雌が気付かないわけないじゃない]
[ホントに雄ってバカね]
[男は種族が違っても、同じですね]
『井戸端会議かよ!』と、声を上げそうになるヒロ……ちゃっかりリーシアも参加している。
オーク達の文字習得スピードが、メキメキと目に見えて上がって行く様に、ヒロは驚きを隠せないでいた。
「一応、簡単な文が書かれた板を用意しておきましょう。不足の事態が発生した場合、地面に文字を書いて執談している時間がないかもしれません。『戦う意思はない』『私たちは魔物ではない』『話がしたい』とか、先に書いて持っておけば、とっさの時に対処できそうです。カイザーさん、あとで木を
「木を平にしたものか? わかった。あとで用意しよう」
「それと、切り倒した木を出来るだけ集めてください」
「切り倒した? どうするのだ?」
「村の外周に立てて柵と堀を作るのに使います」
「村の者にできるだけ切らせよう。ムラク! 村で手が空いている者、総出で木を切り出せ!」
「族長、わかりました!」
カイザーが牢屋番をしていたムラクに声を上げて命じると、ムラクが仕事をほっぽり出して、村に走って行ってしまった。
「次にカイザー、オーク側の準備はどうなっていますか?」
「食料に関しては、問題なく用意はできている。元は狩りで食料を調達していたからな……最悪、なくても移住した地で狩りでもすればどうとでもなる。問題は……移住に反対する者達だ」
「やはり反対するオークがいましたか……」
「ああ、やはり血気盛んな若い戦士が騒いでいる。あと古参の者達は……自分達がこの地に残り死ぬと言っている」
「それは……死を覚悟して犠牲になるというのですね?」
「そうだ。やはり殺されるオークの死体が一つもないのは不自然だから、自分たちが人族を欺く囮になると言って聞かん」
「そうですか……ならその犠牲を無駄にはできません。覚悟を決めたオークの正確な数を、あとで教えてください。エクソダス計画を成功させるため、その命……使わせてもらいます」
非情に……冷静に徹するヒロの手が微かに震えている事をリーシアは気が付いていた。
オークを生かすため、その生命を犠牲にする矛盾した策に……ヒロの心が震えていた。
「問題は、若いオークの戦士ですね」
「ああ、村の3分の1にあたる200は若い戦士だからな。できれば戦わせたくはないが……皆が戦いを望んでいる」
オークヒーローは、困り顔でヒロに話をする。
「戦ったとして……その先に待つのが破滅だと知ってもですか?」
「ああ、我も話をしたが……戦士としての誇りが逃げる事を許さんのだ。我もその気持ちは分かる。それに……大半の者が、人族が攻めて来るのに、同じ人族の立てた計画になど参加できるかと声を上げていてな」
至極もっともな話だった。まさか人族が自分たちを滅ぼしに来るのに、敵の捕虜に助けを求めるなんて話、信じろと言う方がおかしい。
「なんとか若いオークの戦士を説得する事ができないものでしょうか?」
「手がない訳ではないが……」
ヒロがどうにかできないかと思案していると、カイザーが
「本当ですかカイザー?」
「ああ、だが……失敗すればお前達の命がない」
「命が……それって?」
「一族最強の名を賭けて我と決闘をするのだ!」
「決闘ですか? アナタと?」
カイザーの提案にヒロが質問する。
「オーク族の戦士は、強さが絶対なのだ。単純に自分より強い者に敬意を払い服従する」
「つまり僕がアナタに勝負を挑み勝てば?」
「我より強いオークは居ない。自ずとお前の立てた策に従う者が出るだろう」
「……負けると命がないとは?」
ヒロが歯切れの悪い言い方をしたカイザーに、質問を重ねる。
「決闘は申し立てた者が負ければ、命を絶たねばならん。それだけに安易に決闘は行えない。だが、命を掛けた戦いだからこそ、それに見合う賞賛も与えられる」
「それがたとえ人族であってもですか……」
「そうだ。オーク族の戦士は、自分より強い者に憧れる。それがオーク以外の者だとしても変わらない」
「やってみる価値はありますね……」
ヒロの言葉を聞いていたリーシアが口を挟む。
「ヒロ、何か決闘と不吉な言葉が出てきましたが……」
「ええ、エクソダス計画に反対している若いオークの戦士を納得させるのに、カイザーと命を掛けて戦う事になりました」
「正気ですか? 決闘と言うことは、ヒロ一人で戦うって事では?」
「そうですね……リーシアと二人で決闘に挑むのは?」
「決闘は1対1だ。他者の協力は認められない」
「ダメみたいです。僕一人でやるしかありません」
「そんな……なら私が!」
首を横に振るヒロ。それを見たリーシアがヒロに詰め寄る!
「ダメです! ヒロではまだオークヒーローに勝てません! 近接戦闘なら、まだ私の方が勝つ見込みがあります! だから私が!」
「リーシア、これは僕がやらなければ、意味がありません。計画の発案者である僕が勝たなければ、オーク達は納得しないでしょう」
「だ、だったら……コ、コ、コントローラースキルを使いましょう! 今回だけ使用を許しますから!」
顔を真っ赤にしながら、スキルの使用をリーシアが許可する。
「リーシア、ありがとう。君の気持ちはとても嬉しいです。でも……この決闘だけは、自分の力だけで打ち勝つ必要があります!」
強大なカイザーに、自力で打ち勝つ事こそ、オークの戦士達を納得させる唯一の方法……コントローラースキルを使えば勝機は上がるだろうが、それではオークの戦士を納得させる事はできない。
限りなく困難な道をヒロは選ぶしかなかった。
だがヒロの目に、強者に対する恐れや怯えはない。困難に立ち向かう勇気が、ヒロを奮い立たせる。
「ほう……良い目だ」
カイザーが、戦士の顔つきのヒロを見て呟く。
「我も戦士としての矜持と誇りがある。戦うと言うならば、我も族長として、皆の前で手加減はできん! それでも我に挑むか!」
ヒロの覚悟を確認するために、カイザーが吼える!
だが、ヒロは怯まず吼え返す!
「カイザー……僕はアナタに決闘を申し込みます!」
「良いだろう! 時間は今日の夕刻。村の中央広場で執り行う! 全力で掛かって来い!」
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