第102話 オークのお悩み相談
戦場に残る無数の傷跡……戦い終わった戦場の跡地には、無残な
「ふ〜、ご馳走様でした」
壮絶な
そんなヒロの言葉と仕草に、リーシアが興味を持った。
「ヒロ? ご馳走様ってなんですか?」
「ご馳走様の意味ですか? 料理を作るために、走り回ってくれた人に感謝を伝える言葉ですね。イーモを取ってきてくれたカイザー、料理を作ってくれたアリアさん、そのお手伝いをしてくれたシーザー君。料理作りに携わった全ての人に、感謝と敬意を表すお礼の言葉です。僕の国では食事の最後に伝える風習があります」
「なるほど、では私も……ご馳走様でした」
ガイアでは馴染みがない言葉だが、リーシアは意味を知ると早速、手を胸の前に合わせて、感謝の言葉を口にした。
「まあ、ありがとうございます」
「へへ!」
「うむ」
ヒロとリーシアのご馳走様の仕草に、オーク親子が良かったと、胸を撫で下ろして喜んでいた。
「さて、これから我は二人に話がある。アリア、シーザー、お前達は先に家に帰れ」
さっきまでの家族に対する接し方ではなく、村を率いる長として、威厳に満ちた口調で家族にカイザーが話す。
「父上? 僕たちも一緒に居てはダメですか?」
「ダメだ。コレは族長としての命だ。先に帰れ」
シーザーの言葉にカイザーは族長命令を使ってまで、この場に残る事を許さなかった。
「……シーザー行きますよ」
アリアはカイザーの言葉の意を汲み取り、シーザーにこの場から立ち去る事を促す。
「分かりました……ヒロ、リーシア姉ちゃん、また明日ね、バイバイ」
「また明日会いましょう」
シーザーの言葉にヒロが答えると、アリアが息子を伴って牢屋を出て行った。遠ざかる二人の気配……牢屋に残された三人は、しばらく無言で座っていた。
何か言いたげなカイザー……だがその口は閉じられ、言葉が出てこない。
無言の三人……するとカイザーは腕を組み、目をつぶり悩みだした。
目の前にいるヒロとリーシアに正直にわけを話し、協力を仰ぐべきか……それとも真実を語らず協力させるか……オーク族の存亡を掛けた戦いに、この二人の協力が必要不可欠であった。
その結果、下手をすると自分たちと同じ苦しみを、この二人に与えかねない。
シーザーとの一件がなければ、問答無用で何も語らず厄介事を押し付けられたのだが……。
所詮、オークと人は違う種族、人族が死のうが生きようがオーク達には関係ない。大事なのは自分であり家族なのだから……他種族の事など考えるまでもないはずだった。
しかし、息子の命を救い、食を共にしたヒロとリーシアに、殺しあった仲とはいえ、カイザーは何も言わず騙すようなことだけはしたくはなかった。
たとえそれが、オーク族の存亡を掛けた戦いであったとしてもだ。
族長として……戦士として……父親として……カイザーは悩み続けた。
「カイザー、何か話があるようですが?」
ヒロが口を開き、カイザーに問い掛けるが返事はない……ただ押し黙り、何か思案に暮れている。
「オークヒーローはどうしたのですか?」
「何か話があるそうなのですが……ご覧の様子です」
どうしたものかと悩むヒロに、ついにカイザーが意を決して語りだす。
「まず、シーザーを救ってくれた、父として礼を言う。本当に助かった。感謝する」
頭を下げるカイザー……ヒロはそんな父親の姿から何かを感じていた。
「いえ、僕たちもシーザー君を救いたいと思っただけです。あなたたちと僕たちの思いが、シーザー君の命を救いました。だから礼は不要です。頭を上げてください」
その言葉を聞き、頭を上げたカイザーの赤い瞳は、ヒロとリーシアを見定め、心の奥底を覗かんとばかりに、ヒロ達を見つめていた。
「戦士ヒロよ、種族は違えど同じ思いを持つ者と知った上で、さらに頼む」
再び頭を下げ、カイザーがヒロに乞う。
「オーク族を救うため、力を貸してくれ」
「オーク族を救う?」
突然の救いを求める言葉に、ヒロは戸惑いを隠せなかった。
ヒロとリーシアは、カイザーに殺される寸前まで追い込まれ敗れ去っている。
現に今、牢屋に囚われた身であり、殺されずにいる時点で、何か理由があって生かされていると思ってはいたが……オーク族を救うために生かされていたとは、ヒロも予想できなかった。
「そうだ。我らオーク族を救う手助けをしてほしいのだ」
「とりあえず、頭を上げてください。喋りずらいですから」
「いや、これは我のワガママに、お前たちを巻き込むことになるのだ。頭を下げるくらい、どうと言うことはない」
「僕たちが喋り難いですから、頭を上げてほしいです」
「そ、そうか……すまん」
頑なに、頭を上げようとしないカイザーだったが、ヒロの言葉に甘え頭を上げる。
「オーク族を救うと言っても、具体的に何すれば良いのですか?」
「うむ。何から話すべきか……そうだな、まずコレを見てほしい」
するとカイザーは右腕に巻かれた布を解き、ヒロとリーシアに布を巻いていた場所を見せると、そこには奇妙な形をした紋様があった。
「それは?
「まさか! それは! でも……私の記憶違いですか? ん〜?」
リーシアはカイザーの腕の痣を見るなり、声を上げて驚くが、すぐに頭を傾げ悩みだした。
「リーシア? この痣に何か?」
「う〜ん? 私の知っている人に同じような痣がありましたが……記憶にある痣と、この痣の形は少し違いますね」
「リーシアの知っている人と言うことは人族ですか?」
「はい。私の絶対ぶっ殺すランキングで、上位に入る人物です。右頬に、同じような奇妙な痣がありました」
物騒なランキング名を声に出すリーシア……ヒロはそのランキングに、自分の名前がないことを祈っていた。
「ヒロ……ランキングに載らないように言動には注意しましょう」
「はい……」
見透かされたヒロは、ただ頷くしかなかった。
「話を続けてもよいか?」
言葉は分からないがリーシアの顔色を見て、カイザーが空気を読み、待っていてくれていたようだ。ダメダメ親父だが、変なところは気が利いている。
「お願いします」
「この紋章は我が子供の頃、森の中心部で見つけた物だ」
カイザーは紋章を触りながら語りだした。
「これは憤怒の紋章……意思を持った紋章だ」
「意思を持った紋章?」
「そうだ。コイツは我に力を与える代わりに、人を滅ぼせと常に我に語り掛けてくるのだ」
「人を?」
人を滅ぼせと語り掛ける紋章……ヒロはそこに疑問を覚えた。世界を滅ぼせと漠然とした目標ではなく、明確なピンポイントの目的に、何者かの意思が介入しているのをヒロは感じる。
「なぜ人を滅ぼそうとするのかは分からぬ。最初はたまに声が聞こえるくらいで、無視していたのだが、時がたつに連れ、語り掛ける頻度が多くなってきていてな……最近だと毎時間だ」
「ま、毎時間……?」
「そうだ……1時間毎に語り掛けてくる……昼も夜も関係なしにな」
まるで某会社のコールセンターで、クレーマーの嫌がらせ電話を、毎時間受け続けるオペレーターみたいに、疲れた顔を見せるオークヒーロー……。
「まあ、声だけなら別に問題はない。
「じゃあ、あの防御スキルも?」
「紋章を介して得た力だな……強力な防御スキルで重宝している」
ほぼ全ての攻撃を弾く絶対防御スキル……ヒロは鉄壁のスキルを思い出していた。
「だが最近、紋章が我に語り掛ける時間が長くなり、力が強くなってきているのだ」
「力が強く?」
「ああ、紋章の力が日を追うごとに強まり、あるスキルが暴走を始めている」
「あるスキルとは?」
「我の意思とは関係なしに、紋章の力でスキルが暴走を始め、オーク全体に広がりだしているのだ……そのスキルの名は憤怒!」
「憤怒? 怒りですか?」
「そうだ。理性を失う代わりに体のリミッターが解除され、人族を殺す殺意に飲み込まれてしまうスキルなのだ。普段、我は自分の意思でスキルを押さえ込み、発動しない様にしているのだが……紋章の力が強まるに連れ、我でも抑え込めなくなってきている」
「もしそのまま放置して抑え込めなくなったら?」
「大変な事になる……特に問題なのは、我の持つ眷属強化の力なのだ」
「眷属強化?」
「そうだ。我は近くにいるだけでオーク族の仲間を強くする能力を持っているのだが……力を強化する際、この憤怒の人に対する殺意も伝わるようなのだ」
「もしそれが全てのオーク族の者に伝われば……」
「間違いなく、オーク族の者は、人を殺すだけの
カイザーの瞳が悲しみに染まり肩を落とす。
「回避する方法はないのですか?」
「手は二つある。憤怒の紋章は、我が死ねば我が血を引くシーザーへ継承される。おそらく継承先がなければ、この憤怒の紋章は、消え去る可能性が高い」
「つまりそれは……」
「シーザーを殺し、自らが命を断つと言うことだ」
子が死ぬ事を願う親はいない……カイザーは悲痛な思いでヒロに語る。
「オーク族を救うために、二人が死ぬというのですか?」
「そうだ。我ら親子とオーク族全体の命、どちらを優先するべきかは一目瞭然だ」
単純な計算だと言わんばかりのカイザーの言葉に、ヒロは肯定する事ができなかった。
「他に手は?」
「もうひとつだけある。この紋章は強者を求めている。弱き者から強き者へ」
「つまり……」
「もうひとつの方法……それはヒロ、お前が全力の我を殺し、憤怒の紋章を継承することだけだ」
〈希望の前に、倒すべき真の敵が正体を現した〉
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