第88話 リーシア、憧れをその手に……素晴らしき聖女爆誕!

「慣れていく……自分が怖いです! 覇神はじん六王流ろくおうりゅう爆心ばくしん治癒ちゆこう!」



 仰向けに死んでいるヒロに、膝立ちでリーシアがまたがっていた。ヒロの心臓付近にリーシアが片手を添え、予め練り上げた気をヒロの体に循環させたリーシアが、最後の仕上げに気を打ち出し心臓マッサージの要領で蘇生を試みる。



 一回目……反応なし。

 二回目……手足が飛び跳ねるが反応なし。

 三回目……衝撃で頭を地面に打ちつけるが反応なし。

 四回目……刺激を与えた瞬間、ヒロの心臓が再び鼓動を打ち始めた!



「ゴホッ! ゴハッ! ゴホッ!」



 ヒロが激しく咳き込み、体が肺に急ぎ空気を送り込む。ヒロに跨っていたリーシアは、ヒロが生き返ったことを知ると安堵の表情を浮かべた。

 

 緊張からの解放にリーシアは力が抜けてしまい、ヒロの体の上に腰を下ろし、額の汗を手で拭う。



「ふ〜、良かったです……生き返りました。蘇生も大分慣れてきました。最初の頃は打ち損じて心臓を破壊してしまう危険がありましたから、おっかなビックリで自信が持てませんでしたけど、大分コツが分かってきました。やはり何事も経験ですね♪」



 死人の鼓動を再び動かす事に慣れ始め、もはや当たり前のようにリーシアがヒロを蘇生する。だが彼女は気がついていなかった……自分が成したことの異常さを!


 本来、死者の蘇生には貴重な復活魔法を用いるのだが、その蘇生確率はかなり低い。熟練の聖職者ですら死者の蘇生率は30%とかなり低く、そう簡単には死者は蘇らない。

 歴代の覇神六王流の使い手ですら、『爆心治癒功』の成功率は20%程度とさらに低い。


 だがリーシアのヒロ蘇生率は、今のところ100%を維持しており、これは異世界ガイヤにおいて奇跡といってもよい偉業だった。



「ゴホッゴホッ……ス〜ハ〜、ス〜ハ〜」



 荒い息をしながら、ヒロはようやく人心地つく。うつろだった瞳に精気が戻ると、リーシアの顔を下から覗き上げる格好で話し掛ける。



「やあ、リーシア、助けてくれてありがとう……もう何回目でしょうか、このやり取りは……」


「ええ、生き返れて良かったです。蘇生のコツも掴みつつありますから、ド〜ンと死んでもらって構いませんよ!」


「いや……そもそもド〜ンと死んだらまずいですから! とりあえず僕から降りてください。その……いろいろ当たっていてですね」


「いろいろ……? アッ!」



 リーシアが慌ててヒロから立ち上がり離れる。



「どうして、ヒロはこうエッチなんですか! もう少し性欲を抑えて下さい! いつか捕まりますよ!」


「ちょっ、リーシア……僕は何もしてませんよ。むしろリーシアが当てて来ていましたよね?」


「女の子にそんなこと言うなんて! そこは気付いていない振りして冷静に話す場面です。女の子に恥をかかせるなんて……最低です!」



 痴話喧嘩を始めるヒロとリーシア……牢獄内で互いの主張がぶつかり合う。さながら喫茶店で些細なことで彼女を怒らせ、互いに引っ込みがつかなくなった恋人同士の喧嘩の様相を呈してきた。


 無論、古今東西こういった場合、大抵先に謝るのは……男の方からと相場は決まっていた。



「申し訳ありませんでした」



 地に頭を擦り付け、低姿勢の土下座をヒロがかます!


 最終的に助けられたヒロが、リーシアに恥をかかせたと言う判断で謝ることに……。



「ヒロ……次はないですからね?」


「本当に申し訳ありませんでした!」


「む〜、ヒロも反省しているようですし、今回はこれで許しましょう」



 ようやくリーシアからお許しが出たヒロ、とりあえず二人で向かい合って座り、状況確認をする。



「ところでリーシア、僕は今回、なんで死んだんですか? 実は死んだ時の記憶がなくて……」


「え〜と、ヒロのデバックスキルで私の文字化けしたスキルを直してもらったのですが、その際に覚えたヒールをヒロに使ったら……死んでました!」


「ええ? ヒールで死亡? んん? アンデッドじゃあるまいし……ちょっとリーシアのスキルを見てもいいですか?」


「はい。私も頭の中に回復魔法ヒールを習得したと声が聞こえただけでしたから……スキルを確認してみますね。『ステータスオープン』」




 名前 リーシア

 性別 女

 年齢 15

 職業 バトルシスター


 レベル :20


 HP:210/210

 MP:30/75


 筋力:220

 体力:200

 敏捷:260

 知力:75

 器用:120

 幸運:45


 固有スキル 聖女の癒し

       殺しのライセンス(New)

       天賦の才



 所持スキル 近接格闘術 LV 8

       発勁 LV 8

       震脚 LV 8

       回避 LV 6

       回復魔法(滅)LV 10




「ヒ、ヒロ……何を、私に……何したんですか! なんですか! この不吉なスキルは!」



 リーシアに首根っこを両手で掴まれ、ヒロは前後に振られまくる。



「待って下さい! リーシアストップ! まだステータス名だけで効果が分かりません! 先ずは詳細を見てみましょう!」


「わ、分かりました」



 涙目のリーシアがヒロの首から手を離し、ステータスメニューに表示されたスキル名を順番に選択していく。



【聖女の癒し】

 真の優しさに目覚めた者が授かるギフトスキル

 心の内に聖女の優しさがある限り、触れた対象のHPを自動回復する。MP消費なし。

 回復魔法に大幅なプラス補正効果。



「これは……そうか! リーシアに膝枕してもらうと痛みがなかったのはこれのせいか? ギフトスキルだからおそらくこれが文字化けしていたスキルのはず。文字化けしていても多少はスキル効果が出ていたのかもしれませんね」


「母様と同じ聖女……これは良しとしましょう」



【殺しのライセンス】

 人ひとりの生き死にを、何度も自らの手で行った者に送られる、神公認の殺人許可証。

 このライセンスを持つ者は、いかなる理由で相手を殺傷しても罪に問われることはない。

 魂のキルカウントは決して増えない。

 対人戦において、ダメージにプラス補正効果。



「どこの国のスパイスキルですかねこれ? 聖女スキルを持つ人に、神が殺しを許可するって……」


「こ、殺しのライセンス⁈ なんですかこれは! 何度もヒロを殺して蘇生したからですか? 要りませんよこんなスキル!」



【回復魔法(滅)】 LV 10

 神が封印した禁忌の回復魔法。

 強力過ぎる回復力でどんな怪我も瞬時に癒すが、回復スピードに体細胞が耐え切れず、肉体崩壊を起こす。

 崩壊を耐え切ったとしても、肉体再生に必要な体力が瞬時に消費され衰弱死する。


 怪我をしていなくても、回復魔法を掛けられた者は体力だけを消費され衰弱死する。およそ生命活動をしている生物で、滅せない生き物はいない。


 回復魔法の名を冠しながら、回復できない禁断の魔法……痛みを感じず、癒されながら死んでいく様は、正にヘル&ヘブンを体現する。


 誤って味方に使用しないよう、十分な注意が必要である。

 聖女の癒しスキルによる回復力に大幅なプラス補正効果あり。

 

 LV 1 ヒール 消費MP 30

 LV 2 キュア 消費MP 30

 LV 3 エリアヒール 消費MP 160

 LV 4 オートヒール 消費MP 90

 LV 5 ハイヒール 消費MP 120

 LV 6 オールキュア 消費MP 90

 LV 7 ハイエリアヒール 消費MP 600

 LV 8 フルオートヒール 消費MP 200

 LV 9 リザレクション 消費MP 300

 LV10 ファイナルヒール 消費MP 600




「なんですかこれは! つまりヒールしたら肉体崩壊ないし、体力を削られて衰弱死するってことですか⁈」


「ん〜、コレはある意味最強の回復魔法ですね……リーシア、憧れの回復魔法の取得おめでとうございまゴフッ!」



 リーシアの鉄拳がヒロの腹にめり込む……本気の腹パンチにヒロが地面を転げ回る。


「なんてことしてくれたんですか! ヒロのバカ! 憧れの回復魔法取得? おめでとう? どの口が言いますか! 腹パンチしますからここに来なさい!」


「もう殴ってますよ! リーシア、お願いだからすぐ暴力に訴える癖をただして下さい! 僕の身が持ちません! それに僕はデバックスキルの危険性はリーシアに確認しましたよ? なのに思っていた効果と違うからと、僕に八つ当たりをするのはどうかと思いますよ!」


「母様と同じ、憧れの回復魔法が取得できたと思ったのに……」


 そしてリーシアが盛大に泣き出してしまった……大粒の涙が滝みたいに頬を伝い地面に落ちる。


 普段のリーシアからは想像もできない大きな声で、ワンワン泣き、地面にペタッと女の子座りで座り込んでしまった。

 

 流石にバツが悪いヒロ……いくら自分はスキルの危険性を説明したと言っても、感情的に言い過ぎてしまったとヒロは後悔する。


 リーシアの心情を察するヒロに取れる手段は、一つしかなかった。


「あのリーシアさん……僕が悪かったです。だから泣き止んでください」


 だがリーシアはさらに盛大に泣き始め、もはやヒロの声など聞こえていない。


 聞こえないならと、リーシアに見えるように土下座のポーズに入るヒロ!


 ピンと一本鉄の棒が背骨に差し込まれたかの如く伸ばした背筋、完璧なフォルムを描くヒロの土下座は、もはや芸術の域に達するほど美しかった。



「申し訳ありませんでした。リーシアの気持ちを考えずに、つい声を荒らげてしまいました。許してください!」


びろがばりあをでずヒロが悪いんですびろのぜいでずヒロのせいです



「はい。全部僕のせいです! 本当にすみませんでした!」


ぜぎなをは責任をどっできはたさあ取ってください


「できる限り責任は取りますから……だからどうか泣かないでください。リーシアの泣き顔を僕は見ていたくないんです。いつも笑顔のリーシアでいてください。お願いします」



 人生最高の土下座で、リーシアに謝りを入れるヒロ……もはや言葉は要らないと、ただ黙っていつまでも頭を下げ続ける。


「ひっぐっ」


 号泣から、すすり泣きへと変わったリーシアと、土下座したまま微動だにしないヒロ……その構図のまま10分が経過した時、ついに変化が訪れた。


 ヒロの全身全霊の土下座を見たリーシアは、ようやく泣き止み涙を払うと、ムスっとした顔でヒロを睨む。



「無事に町へ帰れたら、責任を取ってもらいますから!」


「分かりました……」



 条件付きたが、ようやくリーシアのお許しがヒロに出た。


 責任を取ってという言葉が、何を指すか分からないがとりあえずはヒロは危機を脱した。


 アルムの町に住む衛士ラング……人生の先輩からのアドバイスに、ヒロは心の中で感謝するのだった。

 


「それにしても、この使い道のない回復魔法……危険ですから、一生封印するしかなさそうです」



 ションボリするリーシアに、ヒロはあることを思いつく。



「回復魔法としてでなく、攻撃魔法として使えないですかね?」


「攻撃魔法ですか? 確かに……痛みを感じさせずに肉体を崩壊させるか、体力を奪って衰弱死と説明されていますから……」


「やって見ないと分かりませんが、もしかしたらオークヒーローと戦う際に切り札になるかも知れません。後で検証して見ましょう」


「分かりました。はあ〜、それにしても聖女の癒しは良いとして、殺しのライセンスに回復魔法(滅)は……私は一体どういう存在なんですか?」


「そうですね……ゲームで言えば完全にバグキャラの領域です」


「バグキャラッてなんですか?」



 思わず口走った言葉に、リーシアが反応してしまった。



(まずい! 正直に話したら命がない! 集中しろ! この難局を乗り越えろ!)


「バ、バグキャラとは…… 素晴らしいバグキャラと言う意味です!」


素晴らしいバグキャラですか?」


「はい! リーシアの場合だとバグ聖女になりますね……」


「なるほど、バグ聖女……いい響きです。憧れの母様に、一歩近づいた気がします♪」



 嬉しそうに喜ぶリーシアに、ヒロは言う事ができなかった。バグキャラとは、本来存在する事がない……規格外のぶっ壊れた存在である事を!




〈ガイヤの世界に、素晴らしいバグ聖女が爆誕した!〉

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