第80話 ヒロとオークとロクでなし!

 オーク ランクF 脅威度★☆☆☆☆

 

 豚の頭と人間に近い体を持つ下級モンスター。


 その美味な肉から、人やモンスターに常に狙われ続ける存在。


 特に冒険者ギルドでは常に討伐依頼が出ており、オーク単体の弱さから、割りの良いクエストとして低ランク冒険者には人気である。


 オーク自体は左程強くない。オークキングやオークヒーローの眷属強加のスキルでもなければ、一対一で負けることはないだろう。オークが真に怖いのは、個体数が増えた場合と特殊な特技を持って生まれた時である。


 元々オークは集団戦闘に対して特殊な力を発揮し、仲間の数が増えれば増えるほど、ステータスが上昇する能力が備わっている。つまり一匹で行動するよりも、集団で戦えば圧倒的なステータスで他者を蹂躙できるのだ。


 一匹に付きランダムで、どれかのステータスが0.2上昇する。500匹もいれば、どれかのステータスに合計+100の上昇ボーナスが付与される計算である。


 人族の一般的な平均ステータス合計値が50と考えると、オークの数が増えた時の恐ろしさが分かるであろう。


 大抵は多くても20匹程度がひっそりと隠れるように生きているため、よほど強い個体が誕生しない限りは100匹を越す大所帯になることはまずありえない。


 オークは繁殖力と成長スピードが早く、子供は生まれてから僅か二ヵ月で成人する。成人すると成長スピードは遅くなり、殺されずに生きられれば三十年位の寿命があるといわれている。


 だがオーク族の平均寿命は約七年といわれ、寿命で死ぬことはほとんどない。常に人やモンスターに狙われるオークに、安息の時はないからである。


 それゆえに世代交代が早く、子供を産むスピードの関係で突然変異種が生まれる可能性が高くなる。オークマジシャンなら攻撃魔法を、オークスナイパーなら弓の技と、生まれ落ちた時に普通とは違う力を宿して生まれてくるオーク達である。


 数こそ少ないが、オークの数が爆発的に増えた時、特殊個体のオークが生まれる可能性も高くなり、通常なら二十匹に一匹の割合で特殊個体は生まれてくるとされている。


 また種族の数が減った際、人型の異種族と交配して数を増やすこともある。オークと交わって成した子は、すべてオークとして生まれ落ち、成長スピードは異種族と交わっても変わることはない。


 オークの数が一定数以上に増えた場合、最大限の注意が必要となる。最弱とされた者が、数を揃えた時……それは脅威へと変貌するからである。弱いからといって、決して侮どってはならない相手だということを覚えておくといいだろう。


 著 冒険者ギルド 魔物図鑑参照




◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆




「ヒロ? どうしました?」


「いや、入り口に立っているオーク達が、僕らを見ていて……」



 リーシアが入り口を見ると、見張りのオークの他に、いつの間にか子供のオークが現れコチラの様子をうかがっていた。



「子供のオークでしょうか? ブヒブヒ言ってますが……」


「なんか、僕とリーシアを観察しているみたいです」


「オークも小さいと可愛いです♪ 私たちが珍しいのでしょうね。親の目を盗んで見物しにきた、ヤンチャな子でしょうか?」



 見張りのオークに注意され、ションボリしている子供のオーク、そんな想像をリーシアはしていたのだが、真実は……。



「ええ! 何もないの? あの雄……マジで玉なしかよ。いい雰囲気ならムードで押していけば、キスくらい持っていけるのに……もっと押していこうよ!」


「坊ちゃん……まだ生まれて1ヵ月ですよね? どこでそんな事、覚えたんですか?」


「ん? 父上が教えてくれたぞ。雌はムードに弱いから、つがいにしたい相手と二匹になったら、まずは雰囲気を作ってイケッて」


「なんて事、子供に教えているんだ……」



 とんでもなくゲスい話をしていた。



「そ、そうですね……僕たちが珍しくて見に来たようです」



 リーシアに真実を言えないヒロは、誤魔化しながらオーク達を見ていると、オークの子供と見張りの一引きが入り口を塞ぐ木製の格子を開け、中に入ってきた。


 ヒロが警戒し、膝枕から体を起こして身構える。


 無論、リーシアもいつでもヒロのフォローに入れるように重心をコントロールしていた。


 見張りのオークは手に槍を構え、子供のオークの後ろをついて歩く。手に何かを持った子供のオークがヒロ達の前にまで来ると……。



「あんちゃん、あそこはガバッと攻めようよ。命は短いんだから、やれる時にやっておかないと後悔するって、父上が言っていたぞ!」


「坊ちゃん……止めてください。初対面の者に卑猥ひわいな言葉で挨拶するのは……オーク族の品位が疑われます」


「え〜、いいじゃん! 男なんてみんな同じだろ? いかに交尾するかしか考えてないから、種族が違っても言葉が分かれば、共通の話題で話せるかもって父上も言ってたぞ」


「ほんと、ロクでもない事ばかり教わっているな……」


「まあ、どうせ僕たちの言葉は通じないから、意味ないけどね!」



 どうやらオーク族の大人ですら呆れる、マセた子供のようだ。



「ふ〜、しかしコッチの雌は可愛いな〜、僕がもう少し大人だったら絶対にアタックしているのに……」


「若、流石に歳が違いすぎますよ。人族は成長が遅いですから……若作りしていたとしても、もうかなりの歳でしょう……まさか若? 年増好き?」


「ち、ちがうよ! 確かに可愛いとは思うけど、アレだ……ペットのウルフ! あの毛皮のモコモコに癒されるみたいな可愛さだよ! 本当だよ!」



 恥ずかしさを隠そうとして隠しきれないウソで誤魔化す、思春期の中学生みたいに子供のオークが焦っていた。



「まあ、そう言うことにしときましょう。さあ、早く食べ物を置いて出ますよ。こんなとこを見られたら、また大目玉です」


「分かっているよ。しかしこいつらコレ食べるかな?」



 そう、子供のオークが呟くと、手に持った果物をヒロ達に見せ、食べる仕草をする。


 どうやら食べ物を持ってきたから、食べろとジェスチャーで伝えようとしているようだ。



「あ〜、言葉は分かるので大丈夫ですよ。食べ物を分けて貰ってありがとうごいます」



 ヒロが、子供と見張りのオークを見ながら話かける。



「え……? わ、分かるの? 僕たちの言葉が?」


「我らオーク族と話せる人族だと?」


「ヒ、ヒロ……オークの言葉が分かるのですか?」


「話せますし分かりますよ」


「「「ええ!」」」



 ヒロ以外の三人が驚愕の声でハモッていた……ガイヤ初の偉業達成の瞬間だった。



「すっげ〜! オーク族以外の異種族と会話できるなんて!」


「ヒロ、普通ではないと思ってましたが、まさかオークと会話まで出来るなんて……」


「これは……まさか、長はこれを知っていて? だから生かして捕らえたのか?」



 三者三様の答えにヒロが答える。



「どうやら言語スキルのおかげで、オークの言葉を覚えられたようです。なんにしても、まずは話し合いの前に挨拶しましょう。僕の名前は本神ほんがみ 英雄ヒーローと言います」


「「ロリコンヒーロー⁈」」


「その反応……分かっていましたが、ヘコみます」


「あんちゃん正気? ロリコンヒーローはマズイよ……」


「坊ちゃん、コイツは人の皮を被った変態です。近づいてはいけません!」



 坊ちゃんと呼ぶ子供のオークを後ろに隠し、槍を持ってヒロの前に立ち塞がる。


 それを見たリーシアが不穏な空気を察して構えてしまい、一瞬即発な状況にヒロが割って入る。



「二人共、ストップです。リーシアもオークさんもストップ! 誤解が生じています。まずは話し合いましょう。リーシアは構えを解いて、オークさんも槍を下ろしましょう」


「ん〜、ヒロが言うなら……」


「坊ちゃんどうします?」


「とりあえずこっちも槍を下ろそうよ」



 双方が渋々ヒロの提案に乗り互いに引き下がったが、警戒は解かない。



「誤解が生じてますが、ロリコンヒーローの名前は本当です。偶然、僕の名前の発音が、オーク族の言葉でロリコンヒーローの意味があったんです。呼び難いならヒロと略して呼んでください」



「ヒロ? それなら問題ないかな。それにしてもロリコンヒーローはないよ」


「ヒロ、何を話しているのですか?」



 オーク語が分からないリーシアは、ひとり蚊帳の外で話についてこれない。



「実は僕の名前が、オーク族の言葉でロリコンを意味するらしくて……」


「ロリコン……ですか?」



 リーシアがなぜか、ヒロから半歩離れた。



「リーシア?」


「いえ……ヒロ、分かってはいますが、変態に続いてロリコンは……本当に大丈夫なのかと考えてしまいました」


「名前だけで、僕は変態でもロリコンでもありませんから!」



 必死に否定するヒロに、リーシアは目を伏せた。



「変態部分に自覚がないのは危険ですよ? つまりロリコン部分も無自覚なだけで」


「変態部分は少しあるかも知れないけど、パーティーメンバーなんだから信じてくださいよ。お願いだから!」


「ヒロ……冗談ですよ。安心してください。私はたとえヒロが如何いかなる変態だったとしても、見捨てたりはしませんから……」



 そしてさらに半歩下がるリーシア…… それを見たヒロは『膝枕してくれていた時のいい雰囲気はどこだ? どこへ行った⁈』と、心の中で叫んでいた。


 

「つまり、ヒロ自らがロリコン宣言したから、槍を構えて警戒したわけですね。納得しました」


「もう誤解が解けるなら何でもいいです……」


「まあ、名前だけで全てが決まるわけでないし、いいか? ところでそっちのねえちゃんの名前は? 僕たちの言葉は分かるの?」



 オークの子供が、ヒロとリーシアの話の間に入り込んで、話を切り出してきた。



「オーク語が分かるのは僕だけですね。彼女の名はリーシア、僕のパーティーメンバーです」


「リーシアです」



 リーシアは警戒を解きながら、頭をペコリと下げた。



「ふむ。言葉は通じなくても、礼儀は分かるようだな……失礼した。私はオーク族の戦士ムラクと言う。種族は違えど礼儀がある者には礼儀で返そう」



 すると、ムラクと名乗ったオークの見張りも頭を下げる。仕草で何かを伝える事はできる。これは人でもオークでも変わらないみたいだ。


 ようやく場に和やかな雰囲気が流れ出し、その雰囲気にヒロが安堵していると、オークの子供が『次は僕が名乗る番だ!』っと、目を輝かせながらヒロの顔を見上げていた。



「えと、君の名前は?」



 ヒロが子供のオークの顔を見ながら、尋ねてみると……。



「僕の名はシーザー! お前を倒したオーク族が族長、カイザーの息子シーザーだ!」




〈ロクでもない親……オークヒーローの息子が現れた!〉

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