第69話 希望……新たなる輝き⁈
「馬鹿ナ、
オークヒーローが、驚愕の表情を顔に浮かべていた。ひ弱なオークから進化し、スキルが発現した日から、攻撃を通した事がない絶対防御スキル。
あらゆる物理攻撃を弾くスキルが初めて効かない敵……オークヒーローは、肩から腹に掛けて付けられた傷を見る。
血が吹き出しているが、それは最初だけでもう流血は勢いを無くしている。
当たったと思われたヒロの一撃は、薄皮一枚の深さを切り裂いただけで、致命傷を与える様なダメージでは無かった。
オークヒーローにとってはダメージと言うには微々たるものだ。これなら先ほど仕留めた鬼が放った脇腹のダメージの方が余程、深刻だった。
立っているだけでも痛みが走り続ける脇腹のダメージは、オークヒーローに確実にダメージを与えていた。
そして、ヒロに付けられた傷を見たオークヒーローは……。
「フッフッフッアハッハハハハハハッ!」
笑い出していた。脇腹の痛みよりも、絶対防御スキルの能力を知っても、なお真正面から挑み打ち破った雄に、オークヒーローは笑いが止まらなくなってしまった。
「な、何がおかしい?」
「イヤ、久方ぶリに傷をマトモに負っタのでナ。それも
「お前は言葉が分かるのか?」
「コトバ? お前達のコトバは分からナイが、先ほどカラお前の言ウ事は何故カ分かル」
「……言語スキルのおかげで、オークの言葉を理解しつつあるのか?」
やはり、オークヒーローには知性があり、人の言葉に代わる言語で言葉を話していたようだ。
だとすると、普通のオーク達も知性があり、言葉を使って生活している可能性は高かった。
「そんな事はドウでも良イ。戦士ヨ。
オークヒーローが再びバルバードを後ろ手に構える。
言葉を理解する知性ある魔物の出現に、ヒロは警戒を強めてショートソードを構える。
知性があるということは、思考できることをヒロは理解している。それはつまり失敗を糧に、対策もできることを意味していた。
「戦士ヨ! 言葉が分かルのなら名乗リを上げろ!
名乗りを上げるカイザーにヒロは答えた。
「
ヒロは略称では無く、フルネームで答えた。この世界では
それは相手に対して礼を尽くす意味から、ヒロは本名を偽りなく名乗った。
「ヒーローだト? お前ふざけテいるのか! 闘いを侮辱するつモリか!」
突如怒り出すカイザー……予想していたが
「ふざけている訳ではありません! 親から貰った名前です。たとえふざけた名前だと思われても、命のやり取りをする相手に嘘は言えません!
「……そうカ、
真面目な顔で言い返すヒロの言葉に、カイザーは本当に、その名に偽りがない事を知ると素直に謝ってきた。
だがカイザーの顔が哀れむような表情を浮かべている事を、ヒロは怪訝に思い、戦いの最中ながら聞き返してしまった。
「戦いの前に聞いておきたい。ヒーローという発音はオークの言葉で何という意味なんだ?」
「ムウ……知らぬノカ……そうで無ければ確かにあれだけ堂々ト名乗る訳がナイカ……良かロウ、教えてヤル。ヒーローとは
沈黙が二人の雄を襲った。
「え?……まって? まって! ちょっと待って! ヒーローって、オークの言葉でロリコンって意味なんですか? ロリコンって……あのロリコン事ですか? それキラキラネームを通り越してますよね?」
「ウム、だから
「
「まあそんな些細ナ事はもういい、さあ
「応え方によっては、犯罪だよ畜生!」
ヤケッパチになり声を上げるヒロ……すると、今まで余裕の構えで相手に先手を打たせていたカイザーが、今回は先手を取って走り出していた。
「今度はこちらカラ攻めさせてもらオウ!」
バルバードを横に構え迫るカイザーの動きは速かった。今までの敵を待ち構え、迎え撃つカウンター主体の戦い方から、自らが打って出る攻めの戦い方にシフトしていた。
重量のあるバルバードを片手で軽々と持ち、まるで重さを感じさせずに横なぎの攻撃がヒロを襲う!
突然の戦いの開幕に、ヒロはカイザーの動きに
「クッ! 先手を取られた!」
ヒロはとっさに迫るバルバードに合わせて、ショートソードを横に振るっていた!
黄金の輝きがバルバードにぶつかると、輝きを辺りに撒き散らし、拮抗する力が互いの繰り出した武器の勢いを殺し、反発して弾き合う。
「力は互角!」
「その体で
地面にクレーターを作るカイザーの馬鹿げた力に、ヒロは負けていなかった。ブレイブチェンジによって書き換えられたステータスが、カイザーに匹敵する力をヒロに与えていた。
カイザーは久しく感じていなかった闘いに喜び、昔を思い出す。弱かった自分が仲間を守るために、力を求めて足掻いていた頃を……強くある理由を改めて思い出したカイザーは、全力でヒロと闘う。
それは挑まれる者の覚悟、全てを掛けて挑む者への礼儀……そして仲間を守るための闘い!
自然にその四肢に力が入り、闘志が湧き上がり、攻撃に熱がこもる。
ヒロも負ける訳には行かなかった。負ければ自分だけではない。リーシアの命が……このままオークの数が増え続ければ、スタンピードが起こり、アルムの町で出会った人々の笑顔が消えてしまう。強敵を前にしてヒロの心は奮い立ち、体に力が入る。
カイザーが振るうバルバードを、次々とヒロは
先程とは違い、苛烈なカイザーの攻撃に防戦一方で攻めに転じられない。攻撃の隙を突こうにも、止まらないハルバートの連撃は、老齢な戦士の様に的確にヒロの動きを読み、反撃を許さない。
「まずい!」
だが、カイザーの攻撃をショートソードで防ぎ続けていたヒロに変化が訪れた。カイザーと打ち合う度に黄金の輝きが刀身から飛び散り、少しずつその輝きが失われつつあった。
再チャージすれば問題がないが、カイザーの熾烈な攻撃を捌きつつ、ブレイブチャージするチャンスが来ない。
今のヒロでは流した力が剣の中で暴れ回り、安定するまでに時間が掛かる。ブレイブチャージしながら、カイザーの攻撃を防ぎ切るのは困難を極めた。
一瞬でも気を抜けば、ハルバートの一撃が確実に当たる。
チャージに要する時間は5秒……たった5秒のチャージ時間が、今のヒロにとって永遠に近い時間に感じられた。
だが冷酷にも、それから何合も打ち合わない内に、黄金の輝きが刀身から消え失せてしまう。
それを見たヒロは……チャージされていないショートソードを構え……賭けに出るのだった。
〈南の森で
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