第61話 勇者とオーク村……大脱出!
ダンボール箱……ヒロの元いた世界では荷物の輸送時に梱包材として広く使われている。
板紙に波形の段をつけた中芯を張り合わせたものをダンボールと呼び、主にクラフト紙や古紙を原材料としている。
発明されたのは百年ほど前、イギリスと呼ばれる国で、帽子の汗取り用に発明されたのが始まりとされている。
同量の木材で木箱の六倍のダンボール箱を作る事ができ、リサイクルも可能で経済性が高い。おまけに丈夫で格納性も高いため、荷物の梱包用として人々に重宝がられている。
またヒロの世界では、スニーキングミッションの達人が、ダンボール箱は敵の目をあざむく最高の偽装と褒め称え、必需品とまで言わしめた話は有名で、その筋の人たちに愛用され続ける逸品である。
スニーキングミッションにおいて、ダンボール箱をいかに使いこなすかが、成功の鍵を握るとも言っても過言はない程の、重要アイテムなのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一匹のオークが、捕まえた捕虜と見張りのオークがいないことに気がつき騒ぎ始めていた。
捕虜を捕らえて場所には、手足を拘束していた蔓のロープが切り捨てられており、捕まえた人の姿はどこにもない。ぞろぞろと周りの住居の中から何事かと寝ていたオーク達が起き出し、捕虜を捕らえていた場所へ集まり出していた。
オーク達は何かを話し合うと、数人のオークが方々へ声を上げながら走り散って行く。
どうやら伝令として、オーク村の全員に捕まえた捕虜が逃げたことを伝えている様子だった。
もはやオーク村の内に捕虜が逃げた事が伝わり、厳戒態勢が敷かれるのは時間の問題だった。
するとしばらくして、近くの住居の物陰で、捕虜を見張っていたオークが気絶しているのを他のオークが発見した。
叩き起こされた見張りのオークは、他のオークに『侵入者がいるかも』と話し、それを聞いたオークが慌てて新たなる伝令を走らせた。
雄のオーク達は手に武器を持ち、村の中にいるであろう逃げた捕虜と侵入者を捕まえようと奔走するが、未だ見つけられない。
村の外周は見張りを立てており、外に逃げ出そうとすれば仲間が阻止しようと騒ぎになるはずなので、まだこの村の中に潜んでいるはずだった。
オーク達は逃げた捕虜と侵入者を躍起になって探し始める。なぜならば、逃げた捕虜と侵入者がこの村の場所を他の人族に教えたら……間違いなく自分たちを討伐しにやって来るからだ。
だが、オーク村に住むオーク総出で躍起になって探しても、一向に人の姿は見つからない。
オークの村には当然オークしか暮らしておらず、これだけの警戒を掻い潜ってオーク以外の者が、誰にも見咎められずに村から逃げおおすのは難しい……オーク達は血眼になって人間を探し続けた。
『リーシア、作戦は成功しました。シンシアさんと合流できましたが、潜入がバレてしまい現在潜伏中です。手はず通り、こちらからの合図と同時に陽動をお願いします』
『分かりました。無事で良かった。こちらも村の周りが、騒がしくなってきました。オーク達が何かを探して歩き回っているのが見えます』
『リーシア、心配してくれてありがとうございます。ケイトさん経由でシンシアさんに作戦を伝えてください。作戦開始は十五分後です。時間になったら合図のメッセージを送ります』
『ヒロ、無理してはダメですよ。しかし本当に
『伝説の傭兵も使っていたスニーキングの必需品をアレンジしましたが、上手くいきました。とりあえず時間までシンシアさんが捕まっていた場所に潜伏します』
そうメッセージを返したヒロは暗闇の中、覗き穴から外の様子をソッと確認する。目の前では何人かのオークが声を出し、指示を与える姿が見えていた。
実はヒロとシンシアは、まだ逃げ出しておらず、いまだに捕われていた場所の近くに潜んでいたのだ。
オークがシンシアの悲鳴で騒ぎ出した時、ヒロは予め用意しておいた
シンシアは、突然渡されたアイテムをどう使えば良いか分からずに戸惑い、ヒロが『こう使ってください』と頭から被った時には、気が狂ったのかと思った……他に案がない以上、シンシアは素直に従うしか道はなかった。
ヒロは伝説の傭兵スニークが熱烈に支持したアイテム『ダンボール箱』をガイヤに存在する物をアレンジして代用していた。
ヒロとシンシアが被ったアイテムとは……それは『水樽』だった!
アイテム袋の検証用にと、五樽の水樽を入れていたヒロは、水樽の中身を抜き、移動用に樽の底面を外して簡単に被れる様に加工を施していた。そして小さな覗き穴と空気穴を四方に開ける事で、ガイヤ版スニークアイテムを作成していたのだ。
アイテムの効果はご覧の通り、オーク達に全く気付かれていない。これはオーク達の心理に起因する所もある。
これだけオークがいても見つけられない理由……それは探す対象が人間をイメージしているからである。
人間の姿を探しているオーク達の目には、水樽が映っても風景のように溶け込んでしまい、無意識に無視してしまう。
これがもし人間なら、なんでこんな所に水樽が? 怪しくない? ……になり、真っ先に調べられだろう。
だが元々オークには水樽と言うアイテム自体が無い。喉が渇けば小川で水をゴクゴク飲むだけだ。つまり水樽と言う概念が無いから、明らかに場にそぐわない物があっても気に止めないのである。
嗅覚に優れた魔物なら、臭いから看破されたかもしれないが、オークの嗅覚は鋭くない。
知能が小学生の低学年並みしかないオークには、水樽を被ったヒロ達が動いている姿でも見ない限り、発見する事が困難であった。
ヒロ達は、次の行動に移る時間を静かに待ち続ける……緊張のためか、普段より十五分と言う時間を長く感じる四人。
待つ途中、ケイトから作戦の概要をメッセージで確認するシンシアは、すぐに行動に移すべきでは? と考えてメッセージを送ると、ケイト経由でヒロが回答をくれた。
人間の集中力は十五分が限界で、それを過ぎると時間がたつ毎に注意力が散漫になりミスや見落としを誘発する。人間のように知能があるオークにも当てはまるかもしれず、少しでも脱出の可能性を上げるためと言う理由であった。以外にしっかりとした回答に三人は感心していた。
そしてついに十五分が経過し、脱出作戦が決行の時を迎えた。
『オーク村脱出作戦スタートです!』
メッセージを受け取ったリーシアが被った水樽を脱ぎ、枯れた木の前に立つ。
ヒロがオーク村の周りを知らべている時に発見した物で、目星をつけていた立ち枯れた木だった。周りに生えていた木を見てヒロは柔らかいスギの木に似ている事から、燃えやすく派手に炎が出ると言っていた。
リーシアはオーク村から、自分の体を立ち枯れた木で隠す様に立ち、ヒロから預かったアイテムで火を着け始める。
事前に乾燥した薪を焚べ、枯れ木と薪に油を
幼き日、拳聖ゼノとの旅で培った旅の技術が、苦もなく火付け石で薪に火を着ける。するとすぐに火は広がり、そのまま立ち枯れた木にも燃え広がり始めた。
少しずつ燃え上がる炎を確認したリーシアは、水樽を再び被り、次の着火地点へと早足で歩き出す。
時計回りに火を次々に着けて回るリーシアは、合計三カ所に火を着け終わると、火を着けた方向とは真逆にいる、ケイトが待つ脱出合流地点へと急ぐのであった。
燃え上がる三カ所の炎にオーク達が気づき、騒ぎ始める。
いなくなった捕虜と侵入者を探すのを忘れ、燃え上がる三カ所にオーク達がそれぞれ集まり出した時、シンシアが捕まっていた場所からオーク達がついにいなくなる。
ヒロは簡易MAPで周りの様子を確認すると、おもむろに水樽を被ったまま立ち上がり歩き出す。
後ろから水樽を被ったシンシアが付いて来るのを確認すると、早足でリーシア達が待つ脱出合流地点へと移動を開始した。
だがヒロ達はまだ気づいていなかった……何百とあるオーク達が陽動に惑わされ目まぐるしく動く光点の中で、ただ一つ微動だにせず
〈オーク村、脱出作戦が決行された!〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます