第6話 譲れぬ想い

「だが断る!」



 女神のお願いに、速攻お断りをヒロが入れる!



「何故ですか」


「確認しますが、ガイヤの世界にウラコンは存在しますか?」


「う……ウラコンってなんですか?」


「それが答えです」


「え?……」



 頭にクエスチョンマークを浮かべる女神に、ヒロは一縷いちるの望みかけて聞いてみた。



「お聞きしますが、SAGAのギガドライブはありますか? パターンは?」


「さが? ぱたーん?」


「ウラコンは? スーパーウラコンは?」


「ちょっと待ってくださ……」


「ブレイブステーションは? ニューシオは? WBOXは? BCエンジンでも、BCエンジンFXでも、3COでも、この際ペペンでも構いません。ゲームガール、ゲームガールアドバンズ、ゲームゴア、ワンダークロウ、BS vita、BCエンジンGT、ニューシオポケット、バーチャルガール、ハズレリングス、何でもいいですから!」


「申し訳ありません……何を言っているのか、まったくわかりません」


「だからお断りなんです。僕を再びマナの流れに乗せて、他の人を当たってください」


「待ってください! 本当にもうあとがないんです。お願いしますから!」



 セレス様にゲーム機の存在を確認するつもりが、ゲーム機の名前を告げている内に、つい興奮してトリップしてしまった。


 しかし、もうこの世界にゲーム機がないことが確定してしまった。仮にも女神を名乗る以上、ゲーム機の名前を聞いても分からないのなら絶望的だろう。



「ゲーム機がない=ゲームも存在しない=死亡……分かっていただけると思います」


「まったく分かりません! ゲーム機というのがないと何で死亡するんですか⁉︎」


「セレス様、言い方が悪かったかも知れません。簡単に言いますと、ゲームができない=食事ができない=餓死確定! と言うことです」


「つまりゲームとは食べ物ですか? 安心してください。ガイヤの世界にも美味しい食事は沢山あります。ヒロ様がお気に召す料理も必ずあるはずです!」


「違います! 料理は関係ありません」


「違うのですか……申し訳ありません」



 正解に辿り着けたと思いパッと明るい表情になったが、間違えたと分かり顔を曇らせるセレス……表情の変化が豊かでヒロも見ていて飽きない。



「ゲームは……僕にとって魂です」


「魂?」


「そうです。一生を掛けて取り組まなければならない、遊戯なのです」


「遊戯……遊びと言うことですか?」


「はい」


「待ってください、ヒロ様……ゲームとは遊ぶための遊具なのですか?」


「厳密に言えば少し違いますが、おおむね合ってます」



 それを聞いたセレス様はムッとした顔になった。



「まさかヒロ様は遊ぶための遊具がないから、ガイヤの世界を救いたくないと言うのですか? ガイヤの世界には数えきれない数の生命が暮らし、その世界が崩壊の危機に直面しているのに、ヒロ様は遊具がないからと世界を見捨てるのですか? ガイヤの地に暮らす多くの罪なき民が死んでもかまわないと言うのですか? ゲームと言うものがなんなのかは存じあげませんが、たかが遊具と世界の命運を一緒にしないでください!」



 セレス様は少し怒り気味になり、言葉の語尾も荒々しい口調になっていた。


 だがその時、ヒロの中でゲームに対する思いを批判され、黙っていることなどできなかった!



「たかが遊具? セレス様、ゲームを知らないあなたは世界の命運の方がゲームより上だとなぜ思いましたか? あなたにとってゲームは遊具で下らないと思うかもしれませんが、僕にとってゲームとは魂です!」


「え? た、魂?」


「ゲームに出会えたとき、僕は神からの啓示を受けた気持ちでした。ゲームに一生捧げる覚悟をしたほどです。ゲームの世界には無限の可能性が内包されています。だれでも楽しめる世界がゲームの中にはあり、人の人生が詰まっているんだ! このガイヤより多くの生命が住む世界が、崩壊の危機にあったり、すでに崩壊した世界で生き続ける人が助けを求めるゲームだってあるんです。それなのに……たかが遊具と言うだけで否定をするのですか? プレイしたこともないのに否定するのですか? ガイヤの世界で起こっている魂の消失を止めたいと言うあなたの思いは分からなくはないです。そちらの都合で僕の魂を勝手に使って、世界を救う計画を立てたのもまあ許します。ですが僕が出会ってから全てを捧げてきたゲームを……魂を否定することは許せないんです。元の世界でもゲームをプレイ出来ないなら死んだ方がマシだと思っていました。ガイヤの世界でゲームが出来ないなら生きていても辛いだけです。ならいっそのこと、マナの流れに乗って記憶を洗い流し生まれ変わった方が辛い思いをせずにいられます。世界崩壊は他の人に任せるのは心苦しいですが、仕方がないです。貴方は魂が消失するのが困ると言うのに、僕の魂であるゲームが、たかが遊具と否定されるのに納得ができません。だからもう一度言います……」



 セレスはヒロから訳が分からない事を言われ続け、困惑した所に、最後の一言を叩きつけられる。



「ゲームは僕の魂だ! ゲームがプレイ出来ないなら死んだ方がマシです。なので、あなたのお願いはお断りします!」



 三度目のお断りにセレスは押し黙り……そして。



「ごめんなさい。私、どうしたらいいか……私たちにとって、魂は大事な物なのに、ヒロ様にとって魂と言うべきゲームを否定してしまいました。本当にごめんなさい」



 セレス様の心からの謝罪にヒロの怒りは収まる。


 冷静になると少し言いすぎたかと思い、ヒロが謝ろうとした時……。



「わかりました。ヒロ様の魂は、マナの流れにお戻し致します……ですが、これだけは言わせてください。ヒロ様にとってゲームが大事な魂であるように、私にとってもガイヤの世界は魂であるのです。もし世界が救われ、ガイヤの世界にヒロ様が転生したとき、私の魂であるガイヤの世界を楽しんで生きてくださいね」



 そう言うとセレス様は顔を俯けて押し黙ると……謎の静寂が2人の間に訪れる。


 とてつもなく気まずい雰囲気に、ヒロが『言いすぎたかな』と思い、謝ろうとしたとき……それは起こってしまった。



「ごめんなさい……ディオーネ姉様。ごめんなさいノルン……二人が力を使い果たしてまで復活させてくれた勇者を、マナの流れに戻すことを許してください」



 涙が白いタイルの床にこぼれ落ち、セレスが泣き始めてしまった。声を押し殺して、誰かに謝りながら泣き続ける。



「あのセレス様……」


「だ、大丈夫です。必ず、私がガイヤの世界を何とかしてみせます。さあ、ヒロ様をマナの流れにお戻し致します。ねがわくば、良き旅と良き人生をお楽しみください……」



 一向に泣き止まないセレス様は、これからマナの流れに乗る自分に祝福の言葉を贈り、マナの流れに戻そうと手を上げ呪文の様な言葉を唱え始めた。


 流れに乗せる準備に時間が掛かるみたいだ。うつむいて泣きながら呪文を唱えるセレス様……途中で嗚咽が混じり、詠唱が止まる箇所もあった。


 とてつもなく気まずい雰囲気に、ヒロは居たたまれない気持ちで一杯になってしまった。


 女神様とは言え、見た目は女の子……泣かせてしまった上、『はい、さようなら』は、あまりにもカッコ悪すぎる……仕方なしと、ヒロはある提案を女神に持ち掛けた。



「分かりました。僕の魂をマナの流れに再び乗せるのは待ってください」



 その言葉に、セレスが顔を上げる。



「条件付きですが、魂消失の調査のためにガイヤへおもむきます。だから泣かないでください」



 泣き顔からキョトンとした顔になるセレス様。



「本当でずが?……世界を一緒に救っでぐれまずが?」


「本当です。ですが条件付きですからね」



 コレで泣き止んでくれる事を期待したヒロだったが……。



「よがっだああぁぁぁぁぁぁ」



 余計に泣かれてしまうのだった。




〈女神の涙に勇者は折れた!〉

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